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2023-06-26

214.スポーツブッキング ㊽ストラクチャーから生まれる不祥事

米国マサチュセッツ州では2022年にスポーツブッキングの法令、規則を制定し、事業者選定手続きに入り、2023年1月31日より対面で既存の3カジノ施設でのスポーツブッキング供用が開始された。
また同年3月1日には7つのサイト・事業者によりオンラインでの州全域に亘るサービスの提供が開始されている。
ところが対面施設での開業数日にして、認定事業者3社の全てが似たような規則違反を起こすという失態を演じてしまった。
マサチュセッツ州法では州に存在する大学スポーツチームが参加する州内、州外にて行われる試合をスポーツベッテイングの対象にすることを禁止する規定がある(トーナメント試合に参加しているときは例外)。
自州の大学のスポーツ試合となると観客が熱狂し、いたずらに射幸心を煽りうる否定的な事象が生じかねないという考えに基づくものである。
もっとも他の州の大学スポーツ試合に賭ける場合には合法で、何ら問題にされないというからややこしい。
その他の州では州内であろうが州外であろうが大学スポーツ試合を賭け事の対象にすることには、何ら問題ないのに、なぜという意見もあるのだが、極めて慎重な前提で法制度の構築がなされたということに尽きる。

ところが開業後直ちに3事業者の全てが同じ違反行為をおかしたという事実が自己申告により明らかになってしまった。
マサチュセッツ州内の大学が参加する試合を賭け事の対象としてオッズを顧客に提供し、顧客による実際の賭け金行為が行われてしまったわけである。
いずれの事象も事業者自らが問題を察知し、直ちに当該試合のオッズ提供を停止し、賭け行為を無効にするとともに、規制機関に違反事実を申告し、実態が露見することになった。
オッズが提供されていた時間は7時間(Pleinsridge Park Casino, PPC)、5時間(Encore Boston Harbor, EBH)、21時間(MGM Springfield, MGM)と左程長くはないのだが、当然この間、顧客の賭け金行動や、賭け金支払いも一部生じてしまっている。
どういうチームの試合を選択し、どういう賭け方を顧客に提示するかはスポーツブッキングビジネスの要でもあるはずで、本来起こるべきではない事象が最初から生じてしまったことになる。
当然事業者は法律を熟知しているはずであろうし、排除対象となる州内の大学のリストやこれら大学が参加する試合を最初から排除する仕組みを設けているはずでかかる事案は起こるわけがないと想定されていたのだが、どうも実態はそうではないらしいということになる。

オッズをカジノ施設内で提供していた事業者(カジノ事業者になる)は、運営実施段階では常時オッズ販売の推移をモニターし、問題がないか否かをチェックしているのだが、今回の場合は全て、実際にオッズが提供された後で、一定時間経過後、初めて違法なゲームのオッズが提供されていることを窓口販売担当者が気づき、直ちにこの賭けオッファーを停止したというのが実態だ。
PPCのケースは州内の大学をフロリダ州の大学と取り違えていたというミス、EBHのケースは大学の呼称が複数あり、コネチカットの州にあるものと判断したというミス(何とハーバード大学がコネチカット州にある大学と判断したという信じられないミス)で、全てのケースで間違いの発見前に既に賭け行為がなされてしまった。
いずれもベンダーのミス、禁止対対象大学はブラックリスト化し、自動的にフィルターされ対象にならない仕組みをとっていたというのだが、徹底していなかったという人為的なミスが原因とする意見や、そもそもシステム的にIT事業者に対象の選定迄委ねている以上、人間ではなく、システム上のエラーではないのかという意見すらある。
最初のリリース前の段階でなぜ事業者が問題を察知できなかったのかが問われるべきだが、公表された情報や聴聞会等を垣間見るにどうもこの事情は単純ではなさそうだ。
例えば、PPCの場合は、プラットフォームはPenn Sport社が提供、データプロバイダーはKambi社になる。
EBHの場合は、プラットフォームはWynn Bet社、技術パートナーとしてはGan Sport社がオッズを提供し、データ自体はGenius Sport社から提供されている。
いずれも一流企業で実績はある。
但し、事業者、プラットフォームプロバイダー、スキン提供事業者、ITデータアナリテイックス事業者等が複層的に協力事業者として関与し、情報をやり取りしているのが実態で、事業者を含め実際のルールの適用をしっかりと下請け間で管理していなかったことは明白だ。
役割が細分化され、システムとして提供されるオッズを市場から購入することが基本になると、仕組み自体にかかる不祥事が生まれる下地ができてしまったのだろう。
規律の連鎖がどこかで途切れてしまったことになる。
単純にベンダーのミスということで片づけられる問題ではあるまい。

事業者は以後賭博対象とすることのできない州内の大学のリストを、システム上フィルタリングを二重にかけて、毎日監査チェックする手順をとるというコンプライアンス強化の措置を公表している。
尚、マサチュセッツ州の規制当局の公開聴聞会を見ると、賭博対象となることが州の制度上禁止されているスポーツ試合に関し、オッズを設定し、市場で提供してしまうという不祥事は過去他の州でも類似案件が存在したようだ。
本件は単純なベンダーのミスではなく、本質的にガバナンスがおかしいのではという意見を規制機関の一部委員は指摘している。
結果的に、この不祥事は、罰金が課され、コンプライアンス手順の厳格化が求められることで一件落着ということになりそうだ。
但し、この事案はベンダーを含む仕組みが多層化してくると、事業者側に余程しっかりとしたガバナンスが無い限り、類似的な問題が生じてしまうリスクがあることを示唆している。

(美原 融)

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