National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 212.スポーツブッキング ㊻八百長・いかさま・不正への対策?(6)国際スポーツ機関

2023-06-12

212.スポーツブッキング ㊻八百長・いかさま・不正への対策?(6)国際スポーツ機関

国際的スポーツ試合は衛星TV放送により国境を越えた観客や聴衆を動員できるとともに、ネットやSNSを通じたライブストリーミングにより、あらゆる国のスポーツファンを魅了するイベントになっている。
これと共にインターネット・スマフォ等コミュニケーション技術の進展はスポーツ試合とリンクしたスポーツブッキングの国際的な発展をもたらし、複雑な仕組みの中で巨額の資金が動く市場を構成するようになった。
異なる制度環境の国々、あるいは規制環境が緩い国々から様々なスポーツブッキング事業者や顧客が一斉に参加するわけで、統一的な規制は不可能に近く、それだけ不正、いかさま、八百長を助長しかねない側面がある。
組織悪がかかる国際試合を対象に、不正や八百長あるいはマネーロンダリング等を仕組み、スポーツベッテイングをツールとして悪事を働くのではないかという懸念は、長年にわたりIOCや国際スポーツ連盟、EUやその加盟国で議論されてきたという経緯がある。
事実スポーツブッキングに係わる疑わしい賭け金行動は毎年一定数生じていることが報告されている。
勿論この全てが犯罪を構成するわけではないのだが、スポーツブッキングの市場規模が年々拡大していくにつれ、何らかの防止や監視の手段を利害関係者が連携・協力して構築すべきという考え方が2000年代以降進展し、様々な国際機関・団体・組織で実践されつつある。

その嚆矢は欧州評議会にあり、同評議会主導により2014年9月「スポーツ競技の八百長操作に関する(欧州評議会)条約~マコリン条約」が成立したことが大きな転機となった。
但し、条約の発効に5年もかかり、2019年にしてようやく欧州30ケ国とオーストラリアが参加し、実践の段階に入っている。
条約の発効にもたついたのは、欧州各国のスポーツの不正に対する根源的な考え方に様々なバリエーションがあり、単純ではなかったという理由に尽きる。
スポーツ競技の不正を刑法上の犯罪行為と規定し、厳格に取り締まるべきという国もあれば、明確な犯罪行為とはせず、関連主体による自己規律を中心に規範を考える国もあるわけで、スポーツに対する根源的な考え方に差異があるからだ。
但し、マコリン条約で定められたスポーツ不正行為に対するアプローチ手法に関しては国際オリンピック委員会(IOC)やサッカーやラグビー、テニス等の様々なスポーツ種の国際連盟によっても支持され、現在に至る迄、様々な大きな国際スポーツ試合や大会で採用され、実質的な世界標準になりつつある。

国際オリンピック委員会(IOC)のケースを見てみよう、2014年以降IOCはIntegrity Betting Intelligence System(IBIS、廉潔性ある賭博行為のための諜報システム)を立ち上げ、これを常時運営している。
これは単なるモニタリングのためのシステムというよりも関係当事者による情報交換と諜報(intelligence)を得るためのシステムとでもいうべきものだ。
これを恒常的に実践する体制として、IOCは2015年自らの組織内にOM Unit PMC(Olympic Movement Unit on the Prevention of the Manipulation of Competition、「競争試合を操作することを防止するためのオリンピック運動ユニット」)を立ち上げている。
このシステムは、世界中のスポーツとスポーツブッキング関係者とのベッテイングに関わる情報と情報の分析、インテリジェンス情報交換のためのシステムで、驚くべきはその参加者だ。
国際スポーツ連盟に参加する全てのオリンピックスポーツ種の団体、関連主要国のスポーツブッキング規制当局、法執行当局、欧州評議会のフォローアップ組織となるコペンハーゲングループ、世界中のスポーツブッキング事業者、主要スポーツブッキング事業者団体と不正モニタリング組織・団体、自己の不正摘発システムを保持するスポーツデータ供給事業者等で、世界中のほぼ全ての利害関係者になる。
オリンピック開催中はこれら全ての利害関係者とリアルタイムでスポーツ試合の推移とベッテイングの状況を精査し、もし想定される行動からかけ離れる異常な賭け金行動があった場合、直ちにスポーツ関係者に早期警告情報が提供され、利害関係者による詳細分析・不正の有無の判断に入る。
世界中のすべての賭け金行動をリアルタイムで複数の関係者があらゆる観点からモニターし、おかしな行動や不正がないかをチェックするわけだ。
IOCは2015年にはCompliance Hot Line System(法遵守ホットラインシステム)を稼働させ、内部者による密告奨励等も実践している。

国際的なイベントやスポーツ大会・試合等の場合、とてつもない数の利害関係者が世界中から同時に関与することになる。
この場合、不正に対する最も効果的な対策とは世界中の利害関係者が連携協力し、リアルタイムでスポーツとベッテイングの間におかしな関係があるか否かをモニターし、全ての情報を共有、分析し、検証する以外方法はない。
さすがに世界中の関係者がリアルタイムでモニタリングに参加するとおかしなことはまず起こりえない抑止力が働く。
2022年カタールのワールドカップ2022サッカーもIOCと類似的な手法を採用した。
自国にFIFA Integrity Task Forceを設け、ここをコアとしながら、世界中のブッキング事業者、団体・組織、各国規制当局、法執行当局、国連組織と連携し、56試合の全てのIn-Gameの賭け金行為、選手の動向と様々なスポーツブッキングプラットフォームをリアルタイムで全てをモニターし、その内容を精査、分析した。
この結果FIFAはイベント修了後、不正・八百長は一切存在しなかったことを確認している。
関係者数は1000を超え、おそらく億単位の顧客が短期間にベッテイングに参加したはずである。
スポーツイベントの国際化はベッテイングへの参加者が世界中に拡散することを意味し、短期間に集中して行われるため、不正を効果的に抑止し、摘発するためには、世界中のステークホルダーが効果的に連携・協力する仕組みの構築が不可避になりつつある。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top