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2023-06-05

211.スポーツブッキング ㊺八百長・いかさま・不正への対策?(5)国際間協力と連携

スポーツ競技を賭け事の対象にすることは、太古の時代から存在するが、近世では競馬が先駆けになり、現在に至る迄様々なスポーツ種が賭博の対象となった。
その一般化と大衆化が顕著になったのは19世紀以降となる。
かつ違法、合法様々な賭け金行為が横行していたのを制度的に整理し始めたのは20世紀以降で、左程昔の話ではない。
米国ではスポーツブッキングは違法とされてきた期間が長く、2019年以降短期間で州毎にバラバラの制度構築を図ったため、あまり参考にならない。
一方、欧州諸国では賭け事に関する許容的な考え方が従来から存在し、スポーツの大衆化と共に、スポーツを対象とする賭博行為が段階的に各国で社会的に認知されてきたという歴史がある。
これに伴い、様々な社会的問題が生じたのは、本来公正であるべきスポーツ競技の推移や成果を薬物により意図的に身体能力を高めたり、選手・監督・コーチ・審判員等スポーツ関係者を金銭的報酬により巻き込み、意図的にスポーツ試合を操作し、外部における賭博行為に繋げたりする行為等が散見され始めたことにある。
勿論かかる行為がありえたとすれば、スポーツ試案は信用を失墜し、状況・背景次第では犯罪行為になる国もある。
欧州ではEU統合に伴い、EU内部における贈収賄、汚職等に関しては様々な域内統一的な取り決めがなされてきたが、これと並行してスポーツ試合における清廉潔癖性をどう保持するかという議論が2000年代以降EU内部で活性化することになった。
サッカーを始めとしたスポーツ試合が欧州各国の庶民の熱狂的な支持を得るようになってきたとともに、インターネットを使用するスポーツブックが登場したことにより、国境を越えた様々な不正や違法行為のリスクが高まり、一部不正行為やスキャンダルも露呈してきたという事実がある。
かつ、欧州諸国ではスポーツは国境を越えて楽しまれ、賭博の対象にもなっているため、一国の制度だけでは十分な対応ができないのだ。
かかる事情により、EU主要国は新たな環境の下でスポーツ試合の廉潔性(Integrity)をどう担保するべきかという問題を共通して認識することに繋がり、EU各国の連携と協力を深めることになった。
廉潔性の確保は、スポーツ界自身のガバナンスや倫理規定等内部的な問題であると共に、EU域内における政策的・制度的課題として位置付け、EU委員会は2001年に「スポーツ白書」を策定し、基本的な考え方を纏めている。

ドーピングに関してはUNESCOが主導し、2005年に「スポーツにおけるドーピング防止に関する国際条約」が制定され、これに基づき各国が制度的措置を図ることになった(我が国は2006年にこれを受諾。
ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア等ではドーピングを国内法で犯罪と定義したが、英国、日本等は単純にスポーツ規約の違反行為とし、試合参加禁止等の措置に留め、犯罪とはしていない)。

スポーツの結果を意図的に操作する不正行為に関しては、欧州評議会の枠組みで何回もスポーツ大臣会合が行われ、2014年に「スポーツ競技の八百長等操作に関する条約(マコリン条約)」が締結されている。
もっとも各国の異なる事情から批准に時間がかかり、条約が発効したのは2019年9月になる(結果的に欧州30ケ国とオーストラリアが参加している。
日本は議論にオブザーバー参加したのみ)。
この条約は、域内外におけるスポーツ競技に関する八百長、いかさま、不正等を防止し、法による制裁・摘発を推進し、これを実現するために各国の公的主体、スポーツ関係者間の連携・協力を推進することを目的としている。
このために、規制機関を含む公的主体、スポーツ組織・団体(アスリート、支援者、職員等の利害関係者を含む)、競技組織者、スポーツブッキング事業者間における連携・協力を前提とし、国家間における政策と行動の調整、リスク評価と管理手法、必要な手順と規制の策定(利害相反の防止、スポーツ関係者の法順守、疑わしい行為・不正勧誘等の報告義務、情報交換、スポーツブッキング提供規制と中止命令、教育と周知徹底、必要な国内法の制定)等を網羅的に定めている。
この条約に基づき、域内各国で廉潔性を確保するためのプラットフォームが設けられ、各国が精度的措置を行う努力が継続している。
もっともややこしいことに規制の在り方は一枚岩ではなく、スポーツに絡む不正行為を単純な刑事罰とするか否かに関しては欧州各国でも国により意見が分かれる。
一方この条約の趣旨に賛同し、多国間での連携を志向尾する国もでてきている。
例えばオーストラリアはこの条約に参加し、一元的にスポーツの廉潔性を管理し、関係団体を監督・規制する国の機関を設けている。

尚、欧州における犯罪に対する域内共通の取り組みや国際条約履行のフォローアップに関しては、恒常的な組織が設けられている。
腐敗、汚職一般に関しては欧州評議会による欧州犯罪問題委員会(CDPC,1958年創設)、腐敗汚職に反対する国家グループ(GRECO,1999年創設)が存在し、スポーツ不正に関しては、フォローアップ委員会(通称コペンハーゲングループ、2016年創設)が組成され、この委員会が各国のプラットフォームやInterpol等の国際機関やFIFA, UFEA, IOC等のスポーツ関連国際団体・連盟等と連携・協力しあう関係が実務的に構成されている。
これら主体は独自にあるいは他者と連携しつつ、様々な角度からあらゆる賭け事の対象となるスポーツ試合を24時間モニターし、かつ疑わしい取引を特定し、関係者に通告する体制を構築している。
一国の国境を超える様々な脅威には、逆に国境を越えた国際間での連携・協力の枠組みが効果的な抑止力を発揮できるということなのだろう。
かかる枠組みは、州毎にバラバラの制度構築に走った米国には存在しない。
米国では民間主体による独自の努力と共に異なる州の規制機関が効果的に協力・連携しあうことが必要になるのだが、残念乍ら未だ明確な全体像は見えてこない。
将来我が国においてもスポーツブッキングを制度化する場合には、オーストラリアの様にマコリン条約を含めた世界の趨勢に準拠したアプローチが必要になるのかもしれない。

(美原 融)

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