2023-05-29
210.スポーツブッキング ㊹八百長・いかさま・不正への対策?(4) リアルタイムモニタリングシステム (2)
ではオンラインによるリアルタイムモニタリングでは誰が何をどのようにチェックしているのであろうか。
スポーツブッキング事業者自らがシステムを構築して、個別に自らの顧客の賭け金行動を単独でチェックしているわけではない。
規制者たる公的主体や非営利法人がこの役割を担うこともありうるが、現実には大手データ収集分析会社が商業的にかかるモニタリングサービスを提供している。
これら大手データ収集分析会社はオッズ設定のためにスポーツリーグ・団体からあらゆる過去のスポーツデータを入手・情報を蓄積していると共に、これら情報を分析し、スポーツブッキング事業者に対し、オッズを提供したり、修正したりする役割を担っている。
全ての賭け金行動のデータを集中して把握できれば、システム的に効率良くモニターできるからに他ならない。
前提として必要になるのはスポーツブッキング事業者が保持する顧客の賭け金行為に関わるデータを共有することになる。
しかもできる限り多くの事業者の顧客賭け金データを集中して把握することが好ましい。
市場全体の中で、異常なパターンの賭け金行為を特定しやすくなるからだ。
勿論個人情報等は不要で、賭け事の対象となるあらゆるスポーツ試合におけるオッズとこのオッズに賭けた顧客の賭け金情報をできる限り多くのスポーツブッキング事業者から入手し、これを中央データベースとして共有する。
これら蓄積されたデータベースを分析し、先進的なアルゴリズムやAIを用いて、賭け金行動の不規則なパターンを認識し、疑わしい行為を特定して利害関係者に早期警戒通告(Early Warning Notice)として連絡・周知することがモニタリングの目的となる。
勿論これは「疑わしい」行為にすぎず、何らかの不正行為が行われたことを示唆するものではない。
但し、疑わしい賭け金行動があった場合、これが何らかの不正行為やスポーツ試合の不正行為にリンクする可能性は極めて高い。
合理的には説明できない異常な行動を行う理由はそれ以外にはないからである。
尚、疑わしい行為とは下記に関わる情報等になる。
- → 平均的な顧客の賭け金からかけ離れた普通ではない高額の賭け金行動となる行為(不正が行われる場合、広く、薄く、金額の低い賭けを多数回行うということはせず、高額の賭け金となることが多いからである)、
- → 胴元が提供する賭け方やオッズの提示・変化に基づき、顧客の賭け金行動は一定の典型的な賭けパターンや賭け金のレベルになることが通常となるが、これとはかなり異なるパターンの賭け金額となる行為、
- → 負けると予想されているチーム(Underdog)に対する異常なほどに歪んだ賭け金額を示す行為(勝ちそうなチームのオッズの払い戻しは悪く、負けそうなチームのオッズの払い戻しは高くなるが、異常なパターンを示す賭け金行動は何かおかしい)
- → 何らの理由がないにも拘わらず複数のブッキング事業者のオッズないしはラインに顕著な類似的な変化が散見される場合、
- → かなりの数の新しい顧客勘定において、同じ賭け金行為が継続して散見される場合
- → 同じ賭け行為が同じ地域ないしは同じインターネットアドレスからかなりの回数に亘り為される場合。
これら民間レベルでのモニタリングとはあくまでもスポーツ界やスポーツブッキングの顧客、事業者等の関係者を守るためにあるのだが、違法行為に繋がる事案は規制機関や公安警察への通告や公的主体による捜査・摘発に繋がっていく。
欧州諸国ではモニタリングと不正行為の防止・抑止・摘発をより効果的にするために、これら民間関連主体と共に、各国の規制機関や警察当局、国境を超える国際機関となるInterpolや国際スポーツ連盟・団体(IOCやFIFA等)もこのネットワークの中に入り、疑わしい行為に関わる情報共有・相互通告・協力連携の体制が構築されている。
ネットワーク化されたどこかの国におけるスポーツ試合や関連するスポーツブッキングにおける犯罪行為を抑止したり、効果的に摘発したりするためには、関係しうる官(規制機関・警察機構)と民(スポーツ関係者)との間で、効果的な協力関係と犯罪摘発のための協力体制や一国内における制度構築やインテリジェンスの交換・共有が図られている必要がある。
例えば、
- → スポーツ行為の競争性を損なう違法な操作や関連する賭博行為に関わる資金を接収、没収できること
- → スポーツ行為の推移・結果をゆがめる意図的な操作並びにこれに絡んだ賭け行為を重大な犯罪として制度上定義すること
- → スポーツ行為の競争性を損ねる操作に関係した電子データを含む証拠をスポーツブッキング関係者が収集・保全し、要請に応じてこれを規制・警察当局に提出すること
- → 関連する規制当局がマネーロンダリングを防止するために、スポーツブッキング事業者に対し顧客本人確認を要請し、顧客との取引のモニタリングに参加し、情報を共有できること
等になる。
スポーツ行為における不正・いかさま・八百長等は賭博行為に絡む場合等それが公益に反する場合、明らかに犯罪でもあり、これを防止し、抑止する制度や構築は公・民を含む利害関係者のネットワーク構築と情報共有、協力・連携の仕組みが有効であることが欧州諸国では確認されている。
同様の仕組みを我が国で構築できるか否かは今後の課題でもあろう。
(美原 融)