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2023-05-22

209.スポーツブッキング ㊸八百長・いかさま・不正への対策?(3) リアルタイムモニタリングシステム (1)

スポーツブッキングにおける顧客の賭け金行動のモニタリングは賭け金行為が電子化されるに伴い、コンピューターがリアルタイムで全取引をモニタリングできるような時代になってきている。
試合前に行われる賭け事のオッズは試合の数週間前にはWEBに掲示されるが、顧客の実際の賭け金行動は試合前ではなく、試合がなされている段階の推移に賭けるIn-Playが過半を占める。
こうなると人間だけでは疑わしい賭け金行動や異常な賭け金行為を捕捉することは難しい。
オッズを提供する側もあらゆる過去のチーム・個人のゲーム履歴や様々なインテリジェンス情報等のビッグデータをもとに、AIやアルゴリズムを駆使し、オッズを推定し、提供することで賭け事に付されるのだが、この過程で膨大なデータベースが蓄積される。
顧客の賭け金行動もこのデータベースの一つだ。
これらインテリジェンス情報を有効にシステム的に共有し、活用することができれば、リアルタイムで顧客による疑わしい賭け金行動のモニタリングを効果的に実践することができる。

現実にかかることを実践している民間企業がいるのだ。
Sportradar Integrity Serviceという独逸企業だが2004年ドイツにおけるサッカー八百長事件を機に、これらをどう根絶するかを目的に設立された企業だ。
やっていることは中途半端ではない。
60ケ国、約300のオッズメーカー、100のパートナー(スポーツブッキング企業、スポーツ団体・組織、各国規制者)とデータを共有し、情報連携・協力のネットワークを構成し、年間約600の世界的なスポーツベッテイング事業者が賭博の対象にする約50万回の試合に関わる顧客の賭け金行動をリアルタイムでシステムがモニターする。
例えば国際サッカー連盟(FIFA)や欧州サッカー協会(UEFA)はこの会社と業務提携している。
全ての賭け金行為に係るデータをフィルターにかけ、一定の判断基準を逸脱する疑わしいと想定される賭け金行動を特定した場合には、関係者に警告を発する仕組みを全試合で実践している。
勿論機械システムだけではうまくいかず、最終的にはシステムと分析チームとの共同作業により判断を下すことになる。
事の仕組みはこうだ。
スポーツブック企業と連携し、全ての顧客の賭け金行動に係るデータをリアルタイムで取得し、過去のデータベース、アルゴリズム、数式モデルで一定の判断基準を設け、全てのデータをフィルターにかける。
スポーツ試合は一般市民の人気やそのシーズンのチームの出来不出来(調子、故障者)、試合情報(ホームかアウエイか、天候等)にも勝敗は左右されるが、過去の履歴データや情報が集まれば集まる程、オッズ次第で賭け金行動がどの程度のレベルになるかをシステム的に想定できるのだ。
もっとも試合ごとに条件は異なるし、市場における流動性の存在や、過去のオッズデータ等のデータや現実のオッズの修正も参照にしながら条件を補正するのだろう。
システムが設定した予想上限値を超える取引・賭け金行動が生じた場合には、直ちに警告が発せられ、この段階で初めてアナリストのチームが参加することになる。
24時間リアルタイムでアナリストチームが状況を分析し、疑いのある行為か、問題無い行為かを判断し、疑いがある場合には直ちに利害関係者に通告がなされ、当該ブックメーカーによる顧客取引は停止、あるいは後刻関係者をトレースし、不正の可否を検証するという手順になる。
モニタリング会社と連携し、かかるリアルタイムモニタリングを全面的に委ねるスポーツブック事業者もいれば、一部は彼らのとの連携・協力を維持しながら、独自のシステムやモニタリングを実施しているスポーツブック事業者もいる。
さる欧州事業者のモニタリングの現場を見たことがあるが、数学の博士号を持っている人達がシステムを駆使し、試合の展開をモニターしている姿は全く理解できなかったが、一種異様な雰囲気があったという記憶がある。

異常な賭け金行動や疑わしい賭け金行動の中には、問題無いとされる行動もあるのだが、中には明らかな違法行為、犯罪摘発へと進むものもでてくる。
上記Sportradar社はこの分野では世界最大の企業になるが、2022年3月の同社報告書によると、彼らが提供するUniversal Fraud Detection System(UFDS)は2021年10種のスポーツで903件の疑わしい賭け金行動を特定し、関係者に通告したとある。
勿論これら全てが犯罪摘発の対象になったわけではない。
この事実を見て、それみろ、やはりスポーツブッキングは八百長やいかさまを助長しているのではないかとコメントする識者がいるかもしれない。
但し、これは全体の試合総数・賭け金行動から見ればほんの僅かでしかない。
スポーツブッキング事業者が提供するスポーツブックとは年に100万回の試合数に達し、疑わしい行為が散見されたのは全体の0.18%でしかないことになる。
全てのスポーツ試合ということで平均すると545の試合の内1つにかかる事案が発生したということだ。
勿論このすべてが犯罪行為であったということではない。
スポーツブッキングが無くても。
また金が動かない世界でも、下位リーグへの脱落や将来優位なポジションにチームが位置できること等を理由にし、不正、いかさま、八百長等が生じることもある。
事実、欧州サッカーでは、プレミアムリーグでは最早かかる不正は殆どないのだが、下位のリーグではチーム間でのかかる不正行為が多くみられるということの様である。
不正・いかさま・八百長は人間がしかけるものである以上、スポーツの世界では完璧にこれを防止することはできない。
但し、システムや過去のデータベース等を活用し、ある程度確実に疑わしい賭け金行為を特定できる技術があることも事実だ。
いたちごっこの様なものだが、デジタル化、システム化の発展が、不正行為の抑止と摘発に繋がり、限りなく問題を縮小化しつつあることは事実であるように思える。

(美原 融)

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