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2023-05-15

208.スポーツブッキング ㊷八百長・いかさま・不正への対策?(2)

米国のプロスポーツ界では表立った形でのプロスポーツ選手やチーム関係者の不正、いかさま、八百長等はここ数十年に亘りあまり無い。
昔はプロスポーツ選手やコーチ、監督、球団・リーグ関係者等の社会的地位や報酬レベルは低く、だからこそ裏の報酬を餌として、スポーツ関係者を不正に導くマフィア的な組織が跋扈したと言われている。
この状況は根本的に変わり、米国のプロスポーツ花形選手はいずれも億万長者だ。
選手の平均報酬レベルもずば抜けて高く、今や裏の報酬?等で選手生命を反故にして八百長や不正に手を染める選手等は殆どいなくなったといわれている。
単純に経済的にペイしないのだ。
悪事に手を染めてその場でもらう金よりも選手でいることの経済的価値が遥かに高い場合、誰も好んで現状を捨てて悪事に走る選手等いなくなってしまう。
一方大学スポーツは別だ。
クラブに参加する選手は給与や報酬をもらうわけではない。
合宿や移動費用、必要備品等はクラブから支給されるが、学生本人は大学に高額な授業料を払いつつ、勉学と平行して運動活動に参加しているわけで、裏からの報酬や金銭対価をもらうことによりスポーツ試合の不正な操作に加担してしまうというリスクはプロ選手と比較するとかなり高いというのが通常の見立てになる。
よって米国では自州で行われる自州の人気のある大学のスポーツ試合を賭け事の対象にすることを制度上禁止する州が多い。
ファンが過熱し、大学スポーツに熱中し、賭け金総量が増えればそれだけ不正のリスクが高まるということなのだろう。

一方、チームで競うスポーツ試合ではなく、個人対個人の試合となる様々なスポーツ種(ゴルフ、テニス等)の場合、試合で実力を出さずに手加減することは個人の意思で可能となるため、不正やいかさまは起こりやすいというリスクがある。
もし不正やいかさまがあったとしてもこれを特定し、摘発することは極めて難しく、単純にはばれないからだ。
同様な事情で、ゲーム開始後の試合の展開に賭けるTier 2のProposition Bet(Props)で選手個人のパーフォーマンスが賭けの対象になる場合も、不正のリスクは高くなると考えられている。
例えばサッカーで花形選手Aが次のハーフタイム後半でレッドカードを審判からつきつけられるか否か等の事象が賭け事の対象になることを考えて欲しい。
こういう事情は本人の意思次第で操作が可能になってしまう。
試合の勝ち負けではなく、スポットで生じる一定の事象が起こるか否かが賭けの対象になった場合、個人の選手の意思で結果をゆがめてしまうことをいう。
勿論この裏に金銭の授受等の枠組みや複雑な理由があることが前提でもある。
もっとも 選手本人の意思で決まる行動がやらせなのか偶然の行為なのかを判断することは極度に難しい。
かつこれが不正か否かは傍から見ているだけではまず解らない。
かかる事情により、米国の一部州では、個人や組織のパーフォーマンスを賭けの対象にするProposition Betを禁止する州もある。
リスクが高まる賭けの種類は認めないということだろう。
同様の理由で試合が始まってからその推移に賭けるLive Bettingやこれと対になるBetting Exchangeを禁止する州もある(例えば打者Aが次のイニングでホームランを打つか否か等という賭けだ。
)ころころ変わる状況やその場で提供されるオッズを判断し、賭ける行為がスポーツブッキングの醍醐味!なのだが、これにリスクを感じる為政者も米国にはいるということだ。

スポットではなく試合の帰結がどうなるかという賭けで、複数人のチームで行われるスポーツ種の場合は、基本的に一人の人間だけで試合の帰趨を左右することは極めて難しく、単純な形で試合の帰結を操作することはできない。
このため、単純には不正は起こりにくい。
チームの複数人を抑えなければ試合の推移を意図的に動かすことはまず難しくなるからだ。
もっとも不正に関係する人間の数が増えれば増える程、不正はばれやすいし、実際の試合でもチーム全体の行動がちぐはぐになり問題が露見しやすくなる。
勿論審判員が個人の判断で恣意的に特定のチームに有利となる判定を下すこともあるが、これとて試合の結果をそれだけで決定することには繋がらないことが多い。
個人試合ではなく、チーム試合の場合、不正や八百長をすることは左程単純ではないということに尽きる。
勿論スポーツブッキング事業者もかかる不正やいかさまが生じないようにあらゆる監視行為を実践したり、様々な防止措置をとったりしている。
大手事業者や業界団体は各々内部監視ユニットを設け、24時間顧客の行為をモニターしている。
おかしな賭け金行動があった場合、これを特定する監視体制を構築しているわけだ。
スポーツブッキングはFavoriteとUnderdogの二つの賭けが対になり提供されるが、賭けの総量が一方に偏らないように常にオッズを調整する。
短期間に一方のポジションに通常生じえない異常な賭け金額増や賭け金行為があると判断する場合、事業者はオッズの提供を遮断することもある。
顧客の賭け金行動は経験的に予測でき、異常な行動から、不正やいかさまの可能性を特定できる。
かかる場合、直ちに事業者の専門官が異常行為の背景や理由を分析し、不正や八百長が絡んでいないかを判断する。
この様にスポーツ試合の意図的な操作は、必ず異常な賭け金行動に反映されることになり、これを常時複数の目が監視することにより、不正行為を特定し、摘発できる可能性が高まる。
米国のNBAを例にとると、30以上のスポーツブッキング事業者やデータープロバイダー、スポーツアナリテイック事業者等が各々内部監視ユニットや監視システムを設け、賭け金行動を常時監視する体制がとられている。

不正、いかさま、八百長等の不法行為を避ける効果的な一つの手法は、不正行為に繋がりやすいリスクの高い賭け方を禁止することにある。
但し、単に禁止するだけでは顧客の不評を買うことになると共に、せっかくの面白さを否定することに繋がり、スポーツブッキングを健全に発展させることには繋がらない。
リスクをどうコントロールし、その発生を未然に防止することができるのかを考え、実践することの方がより有用な政策になる。

(美原 融)

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