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2023-05-08

207.スポーツブッキング ㊶八百長・いかさま・不正への対策?(1)

一般的にはあまり馴染がないがスポーツ界にはSports Integrity(スポーツインテグリテイ―)という言葉がある。
スポーツに関係する人達(選手、監督、コーチ、トレーナー、チーム職員等)の清廉潔癖性、公平性・公正さ等の守るべき倫理規範になり、外部からの圧力や脅威・誘惑に負けることなく価値ある高潔なスポーツの実践を維持するという意味だ。
スポーツ行為に不正やいかさまが生じたとすれば、スポーツの健全性や価値が損なわれてしまい、ファンの信頼と支持を損ね、離反を招き、致命的な打撃を受けてしまう。
これはアマチュアスポーツでもプロスポーツでも同様で、スポーツ自体の環境が商業化されてくると、余程体制と環境をしっかり整えておかないと、かかるリスクに晒されることになる。
ドーピング、八百長、チート、贈収賄、外部からの圧力、脅し等により試合の結果に影響を与える様々な行為が不正行為となるのだが、金銭が絡むこともあれば、絡まない背景で起こることもある。
八百長やいかさま等がスポーツ界で頻繁に起こる事象であるとは言い難いが、我が国でも過去プロ野球等で起こったこともあり、海外でもサッカーを主体に選手個人、チーム、スポーツ関係者等で不祥事が今でも露見しており、ありえない話ではない。
ロシアが国がらみで行った組織的ドーピング等も金銭の話ではないが、国威発揚のために勝つことを至上目的とし、試合の結果を意図的に操作する不正行為であろう。
上位リーグに這い上がるためのチーム間での勝ち負けの貸し借り等も例え金銭は動かなくでも意図的な試合の操作ということになってしまう。
その他様々な理由で不正行為は起こりうる。
選手による単純贈収賄、外部からの圧力による強制による試合における作為・不作為、選手やチームの内部秘匿情報の遺漏等もその一種でもある。

勿論これら不正行為は、関係するスポーツ団体・組織の内規違反、倫理行動規範違反になる。
露見した場合には、当然制裁を受けることになり、選手の場合には試合出場禁止、当該スポーツ界からの永久追放等の厳しい処分の対象になり、選手生命を絶たれることもありうる。
諸外国ではこれら行為は犯罪とする制度を設けている国も多い。
スポーツ界がスポーツインテグリテイを維持するための方策とは、①しっかりとしたスポーツ団体・組織の行動・倫理規範、これに実効性をもたせるガバナンスの強化を図ること、②スポーツに直接的・間接的に関与しうる人達に対するコンプライアンス教育の徹底、③おかしなことが起こらないよう抑止するためのモニタリング体制の具備とその実践、④内部通報制度や相互監視制度の構築とその実践等にある。
スポーツ界自体の外部からの影響に対する防御力を高め、同時に自己規律をしっかりと実践し、内部の行動規範を徹底するということだろう。

さてもしスポーツブッキング等という賭博行為を幅広いスポーツ種に認めた場合、試合の当事者とは関係の無い外部の世界で試合の勝ち負けや推移・結果が合法的に賭け事の対象になることにより、選手・コーチ・監督・チームオーナーや様々な関係者による八百長、不正、いかさまを増長することに繋がるのではないかという懸念を表明する識者はかなり多い。
これは事実であろうか?一定のスポーツ種、試合がスポーツブッキングの対象になる場合には、当然のことながら、当該試合に直接的・間接的に関与する選手、コーチ、監督、チームの事務員・組織・団体のオーナー、経営者等は制度的にスポーツブッキングへの参加禁止対象者になるはずだ。
これに加え、周辺にいる人達、例えば団体・組織に影響力を行使できる人、選手・コーチ・監督等の直接家族等も参加禁止対象者にすることが多い。
個別の選手やチームに関する機微な個人情報等を外部に遺漏し、これをもとに外部者が不正行為をするリスクがあるからだ。
よって対象者は禁止リストに登録され、少なくとも当人は賭け事に参加することはできない。

スポーツブッキングとは外部からポーツブッキング事業者が第三者として予想し、提供する試合の推移・結果に係るオッズに対し、顧客が賭ける。
よって、事業者も顧客も、基本的には試合の推移や結果に影響を与えられる立場にはない。
もし誰かがスポーツ試合で不正行為を行い、この結果スポーツブッキングが悪用されるとすれば、事業者と顧客双方が被害者となる。
試合の不正が露見すれば、当然賭けは無効となり、顧客の信頼を損ね、事業者も致命的な損害を受けることになりかねない。
不正行為によりスポーツブッキングでぼろ儲けを企図する場合、悪事を働く者は統計的、論理的に想定される顧客の賭け金行動とは逆の行動をとることが多いことが知られている。
よって顧客の賭け金行動をデータとしてシステム的に把握し、AIを用い分析することにより、疑わしい賭け金行動を特定化し、スポーツの試合そのものに不正があるのではないか否かを検証することができる。
スポーツブッキング事業者は顧客のデータ、賭け行動履歴を保持しているため、疑わしい行為がある場合には、対象者を特定し、スポーツ関係者に即時通報し、確実な対応策を取れる体制を保持することが欧米諸国では実践されている。

スポーツブッキングは一見八百長や不正を誘発しかねないように思われるが、スポーツ試合とスポーツブッキングによる賭け金行動は完全に別の世界のものだ。
スポーツ界自体がしっかりとしたガバナンスとコンプライアンスを維持すると共に、別途スポーツブッキングの関係者が顧客の賭け行動を常時モニタリングし、疑わしい行為を特定できる監視の体制と実践がなされている限り、限りなく悪事が生じることを抑止することができる。
スポーツ試合と賭け事を担う主体の双方が自立的に一定の規範を遵守する限りにおいて、問題は避けられるし、スポーツブッキングの存在そのものが八百長や不正行為を誘発するという事象も限りなく避けられることになる。

(美原 融)

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