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2023-04-17

204.スポーツブッキング ㊳なぜ不正は起こるのか?1)環境

普通の日本人の感覚では、スポーツにおける八百長や不正、いかさま等は過去にあったかもしれないが、まさか現状のスポーツ界にはあるわけがないというレベルの認識ではないだろうか。
少なくとも日本人の平均的な認識としては、これらはいまそこにある危機ではあるまい。
一方、諸外国ではこの問題を抑止・防止したりすることは従前に増してスポーツ界全体にとり、極めて重要かつ緊喫な課題として捉えられている。
この結果、不正やいかさま等を抑止し、監視し、防止する仕組みや取り組みは多様な主体とネットワークによりかなり複層的にかつ組織的に行われている。
なぜか?欧米諸国のスポーツ界に八百長や不正が蔓延しているからという理由ではない。
放置した場合、不祥事が起こりうる潜在的リスクが高まりつつある環境が生じているからだ。
これには下記事情や背景がある。

一つの重要な背景としては、スポーツの商業化、産業化の進展と周辺産業の活性化とスポーツビジネス自体の成長と拡大がある。
単純にスポーツ試合を提供し、その観戦を興行化するだけではなく、スポーツのあらゆる側面をMonetizeしたり、ファンサービスを徹底したりするスポーツの周辺の業が発展し、スポーツ自体が大きな成長産業になっている。
プロ・アマを問わず、人気を集める一部スター選手の活躍、一部の選手の国際的な活躍も、スポーツファンの拡大とスポーツの振興に大きな貢献をしている。
技術の進展に伴いTVだけではなく、インターネット、スマフォを利用したライブストリーミング等により手軽に、何処でも、様々な手法によりスポーツ観戦を楽しめる時代が到来したという事実もスポーツの更なる発展を支えている。
これがスポーツのグローバル化を促進し、国境を越えてスポーツを楽しむファンも増えている。
スポーツ観戦はどの国においても今や日常的な娯楽やエンターテイメントの一部になっているともいえ、市場が拡大化し、一体化しつつあることも事実といえる。

こういう環境になるとひいきチームが勝ったり、ファンである選手の活躍に一喜一憂したりすることになり、これを更に面白くする様々なサービスがスポーツファンに提供されてくるようになる。
チームが勝つことやファンである選手の活躍に仲間と一緒に小銭を賭ける場があれば、積極的に賭けてみるという一般大衆が増えてくる。
ここからエンターテイメントとしてスポーツの推移や結果に金銭を賭けてみるというスポーツファンが増えてくる。
スポーツを楽しむのと同様に、また同時に簡易なエンターテイメントとしてのスポーツベッテイング(ブッキング)が流行ることも必然の理なのかもしれない。
あらゆるスポーツ種がかかるベッテイング(ブッキング)の対象になると共に、単純にスポーツ試合の勝ち負けのみではなく、試合の推移や選手の行動に着目した多様な賭け方が提供されるようになってきたこと、試合をライブストリーミングで眺めながら、スマフォを用い、オンラインで様々な賭け事ができるように利便性が向上されたこともスポーツブッキングの拡大を広めた重要な要因となった。
スポーツとスポーツ関連ゲーム・スポーツブッキング(ベッテイング)とは相互的連関性が強く、お互いが刺激し、成長しあうような関係にある。
この意味では「スポーツのゲーム化」が進行している。
スポーツの要素を賭け事や予想等に活かし、エンターテイメント性を強めたり、リアリテイとしてのスポーツとゲームを融合させたりして、両方を楽しめるようにしているわけだ。
この逆に「ゲームのスポーツ化」も進展している。
これはスポーツ的な要素をゲームの中に取り込んでいくトレンドになる。
これらのトレンドの結果として、自由にプロ選手を選び、自分だけのチームを編成し、個人のプロ選手の成果を反映し、シーズン毎の総得点を競い合う競技としてFantasy Sport(FS)が生まれ、これがより射幸心の高い、賭博行為により近くなるDaily Fantasy Sport(DFS)へと変化する。
Esportとは身体競技である通常のスポーツではない単なるビデオゲームの対戦試合だが、プロ・アマによるチーム、リーグの組成や対戦試合等の仕組み自体はスポーツと類似的でもあり、ここから興行としてのEsportが始まり、この分野でもスタープレーヤーがでてくると、ESport Wageringという形で限りなくFSやDFSに近い賭博的な遊び方がポピュラーになってくるという事態に発展している。
グローバルな世界でのスポーツのエンターテイメント化、ゲーム行為への接近化は益々進行しつつあり、複雑な仕組みや多様な主体がこれに関与するようになりつつある。
この環境の変化こそが不正やいかさま、八百長を生み出しかねない温床になっているといえる。

スポーツの商業化は、巨額の金銭が動く裾野の広い商業的分野の創出でもあり、巨額の市場を生み出した。
これを利権ととらえ、様々な主体が、様々な意図をもってこの業に参加することになる。
但し、全てがまともな主体ではないことが問題なのだ。
犯罪組織やテロ組織にとり、スポーツ界・スポーツ興行は影響力を行使しやすい業でもある。
利害関係者が複雑に絡むと、実体はばれにくい。
技術の発展に伴う様々なツールの登場は、従来考えられなかった不正やいかさまを助長しかねない環境をもたらしている。
巨額な額の金銭取引や疑似金融行為はマネーロンダリングの恰好の餌食となりかねない側面もある。
スポーツ界とスポーツ関係者、及び監督官庁がしっかりとしたガバナンス体制やモニタリングを発揮しない限り、組織悪や犯罪組織がその中に入り込む環境は大いにあると判断すべきだろう。
諸外国では、スポーツに対する信頼性、信用を確保し、スポーツの健全性を如何に担保するかに関し、様々な政治的、行政的、社会的努力が傾注されている。
健全なエンターテイメントとしてのスポーツはしっかりとした枠組みやガバナンスがあって初めて存在しうる。
一端、不祥事がおこればファンや顧客は離れ、当該スポーツ自体が信用されなくなるからである。

(美原 融)

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