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2023-04-03

202.スポーツブッキング ㊱不正の在り方2)Match/Spot FixingとInternal/External Fraud

スポーツの試合の面白さは、一定のルールのもとに行われた場合、どちらが勝つかわからないという不確実性(Uncertainty)や予測不能性(Unpredictability)という要素が常にあるからだ。
明らかに強そう、弱そうと判断していても常に番狂わせは起こりうるし、状況次第では試合の情勢も変わってしまうことすらある。
このゲームのルールをごまかして、選手・監督・コーチ等の直接的な関係者が自らまたは第三者がこれら主体とつるんで、特定の利益を得る目的をもって、試合の推移や結果を意図的にかつ不適切に変えることを目的とする作為あるいは不作為の行為をManipulationと呼称する。
この不正行為には様々なものがあるが、選手だけではなく監督や試合の進行や判定を行う審判員やチーム・リーグの関係者も関わることもある。
例えば、審判員がルール自体を悪用解釈して、特定主体に対し不利になる裁定やペナルテイーを下したり、公正である試合に主体的に介在したり、試合外で偽情報や内部秘匿情報を流す等情報を悪用したりすること等も一種のManipulationになる。
試合の推移や結果を意図的に操作し、一方が有利ないしは不利になるように謀るわけだ。

いわゆるMatch Fixingとは試合(Match)を、悪意をもって操作する行為になり、試合の推移や最終結果(勝ちか負けか)に影響を与える意図的な行為でもある。
とはいってもチームプレーとなるスポーツの試合の結果を意図的にかつ操作すること等単純にはできない。
チームでやる試合となる場合、一人ではまず無理だ。
もっともチーム内の何人かが共同してこれをやればいかさまも実現できる可能性が高くなる。
例えば試合の運び方が速く、得点がどんどん入るバスケットボールやタッチダウンで高得点を得られ、一挙に試合の趨勢を逆転できるアメフト等の場合には、 チーム内の少人数のグループがいかさまをやろうと思えば、少人数でも実現できる可能性が高くなる。
一方これが個人プレーとなるスポーツ種の場合には、試合の結果を操作するくらいはいくらでもできるし、勝つことは難しいにしても、外部から見てわからないように負けることはいとも簡単にできてしまう。
スポーツの種類次第で不正やいかさまの在り方も難易度も異なることになるわけだ。

これに対し、Spot Fixingとは、選手個人が予めアレンジされた行為により、特定の試合、特定のパーフォーマンスの推移や結果等を意図的に操作する行為になる。
期待されたパーフォーマンスを意図的に失敗するなどになり、例えばサッカーだとコーナーキック、ペナルテイーゴール、スローインの回数等を自分のチームに不利になるように意図的に操作するわけだ。
スポーツブッキングでかかる選手の次の展開のパーフォーマンスが賭けの対象になるIn‐PlayでProposition Betの場合には、かかる不正が生じる可能性が高い。
チームプレーであっても、他の選手には関係なく、一人でもできること、試合の結果には全く関係のない側面で、個人のパーフォーマンスが賭け行為の対象になっている場合には、目立たないため、おこりやすいともいえる。
賭けの対象が細分化され、個人のパーフォーマンスになると不正やいかさまが起こりやすい環境をもたらすわけである。

これら不正行為やいかさまは、一般的には、内部から起こる事象(Internal Fraud)と外部から起こされる事象(External Fraud)とに分けられる。
ややこしいのはデジタル時代である現代社会では、不正やいかさま、八百長を仕組むに際し、様々な技術的ツールが用いられていることだ。
単純にスポーツ試合の参加者による直接的な行為ではないわけで、問題の所在が解りにくくなるという特徴がある。
内部から生じる事象(Internal Fraud)とは、例えば、データの捕捉や分析、オッズやラインの設定等のスポーツブッキング事業者のシステムに何らかの人為的操作がなされ、顧客による賭け金行動を意図的に歪め、結果的に不正を実現する行為をいう。
あるいは外部に出ない内部情報を関係職員が活用し、外部での賭け行為で優位な立場になり、勝ち金を取得する行為等になる。
システムに対するセキュリテイーが甘い場合、事業者内部でこれは起こりうる。
いずれも試合の推移や帰結を操作するわけではなく、スポーツブッキング事業者が賭け事を提供する行為に着目し、システムや情報にアクセスし、悪用することで不正を働くことになる。
実際に生じたケースはベンダーレベルでこれが行われ、事業者レベルでの問題の確認と特定化に時間がかかってしまったというものだ。
利害関係者が多くなり、複雑な役割分担や協業がなされる場合、全ての利害関係者によるセキュリテイーが余程しっかりしていない限り、何処かで齟齬が生じるリスクが存在することになる。
システム上の操作は単純に目につかないため、異常な結果から問題の存在を類推する等どうしても後から検証するということになりかねず、問題顕在化した場合、事業者にとっての損害は極めて大きくなる。

一方、これに対し外部から生じる事象とは、外部からハッカーが事業者ないしはベンダーのシステムに不正に入り込み、システムを違法に外部から操作を加える行為、システムを利用し、何らかの操作を加えたり、情報を違法に取得したりして、賭け金行動で優位な立場に立つように謀る等の行為になる。
あるいはユーザー(顧客)データベースや顧客のコンピュータを経由して、ユーザーアカウントを悪用する、顧客の預託金銭や個人情報を盗み取る等の行為になる。
一般論としては事業者のシステムに入ることはセキュリテイーがしっかりしていれば単純にはおこりえない。
一方、顧客のコンピュータに侵入し、盗んだ個人情報から顧客の預託金銭やカード情報を盗み取る不正行為は頻繁に起こる。
勿論これは試合の帰趨を操作する不正行為ではなく、単純な窃盗に近いのだが、全体の仕組みの中で弱い側面が狙われるということでもあろう。

(美原 融)

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