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2023-03-27

201.スポーツブッキング ㉟不正の在り方1)Point ShavingとTanking

バスケットボールとは試合の運びのピッチの早い、高得点になるスポーツだ。
こういう高得点試合になるバスケットやアメフト等のスポーツの賭け方はPoint Spreadが基本で、得点差が胴元の提示する範囲の得点差を上回るか、下回るか(Spread)、総得点が一定値を上回るか、下回るか(Total)を賭けるわけだ。
例えばアメフトの試合のSpreadで、A team +6.5(-110)、B team -6.5(-110)とオッズが提示された場合には、Bが勝ちそうなチーム(Favorite)、Aが負けそうなチーム(Underdog)になる。
Bに賭けると7点以上の得点で勝てば、これをSpreadをカバーしたといい、賭けに勝つ。
Bに賭け、Bが6点以下で勝つか負ける場合には、どっちにころんでも賭けは負けだ。
一方Aに賭ける場合は、得点数が6点以内なら、試合に勝っても負けても、賭けには勝つことになる。
賭け金額はいずれも$110で、勝てば$100を取得できる。
要は賭けたチームが、胴元が設定するSpreadをカバーすれば賭けには勝てる。
これは負けそうなチームに賭けようとする場合、例え試合には負けても、賭けには勝てるかもしれないことを意味する。
逆にチームが勝ってもSpreadをカバーできなければ賭けは負けということだ。

上記は単純な勝ち負けには関係なく、賭け事が成立することを意味する。
こうなると限りなく不正や八百長はできない、あるいは意味が無いのではないかと一見思えてしまう。
ところがこれができるのだ。
Point Shavingと言われているが、得点(Point)を剃り落とす(Shaving)という意味だ。
何もしなければ強いチームはどんどん得点をとっていってしまうが、強いチームの選手が、自チームの得点数が胴元のPoint Spreadを絶対カバーしない(超えない)ように意図的にこれを抑える行為を意味する。
例えば、ショットをミスしたり、ファウルをとられたりするなどして意図的に得点数を一定範囲に抑えるようにすれば、賭け行為の結果を変えることができる。
バスケットボールは、プレーヤー個人のスキルが得点を確保する行為に強い影響力を与えられるスポーツで、かつテンポが速く、お互いが得点数の取り合いになることが多いので、かかる操作が可能になる。
勿論たとえバスケットでも一人のみではうまくいかない。
ところがチーム内の中心となる二人や三人の選手がつるんでかかる行為に加担してしまえば、誰にもばれない形で獲得点数を意図的に操作することは不可能ではない。
たまにこれに審判員も絡むことがあるが、例えばこれはファウル等を理由に意識的にコールをしたりして、試合の時間や流れを変えさせ、得点差のコントロールに影響力を行使するなどの行為になる。
勿論これら選手等は裏で金をもらい、このPoint Spreadを仕掛けた裏の御仁がスポーツブッキングで通常起こるであろうと想定される賭け方の逆を張り、大儲けをしようという仕組みで、八百長の一種でしかない。
米国ではこれは明らかに、連邦法違反(1970年RICO法Racketeer Influenced& Corrupt Organization Act, 1964年スポーツ贈収賄罪法Sports Bribery Act)であり、露見・摘発された場合、重罪(Felony)となってしまう。

この八百長がおこりかねないのはプロチームではなく、アマチュアの大学スポーツ(バスケット、アイスホッケー)といわれている。
大学生は高い報酬を約束されたプロでもなく、スポーツで糧を得ているわけでもない。
学費や生活費負担だけでも経済的に苦しい境遇にあることが普通だ。
学生がこういう状況にある場合、ほんのお小遣い程度、経済的に支援するという形で外部からアプローチを受け、その誘いについつい乗っかってしまうということが現実に過去何回もありえたのだ。
確かに学生の場合には、洋の東西を問わず、かかる可能性は常にあるのかもしれない。
1978年から79年に生じたボストン大学イーグルズ・バスケットボールチームのPoint Shaving スキャンダルはマフィア組織が巧妙に選手の友達から芋づる的に、かつ段階的に八百長を仕組んだ事案で、全く別件でFBIに逮捕されたマフィアを捜査している段階で偶然問題が発覚し、詳細が明らかになったといういわくつきの案件である。
当時はこんなことがありうるのかと一大スキャンダルとなった。
これを契機にNCAA(全米学生スポーツ選手協会)は、この八百長に過敏となり、Point Shaving撲滅のための教育等を学生に対し徹底したり、Point Shavingは犯罪、絶対に甘い声にのらないようにと強いメッセージを常に発出したりして、現在に至っている。
過去をたどると1950-51年のニューヨークシテイ大学事件、1961年複数大学とNBAを含む事件、1985年チュレーン大学事件、1993年アリゾナ州立大学事件等、忘れたころに大学バスケットボールやプロのNBAでときたまSpread Shavingに関するスキャンダルが生じている。

一方、金銭の授受を全く伴わない八百長というものもある。
米国以外ではあまり見かけられないTankingという八百長だが、閉鎖的なリーグ制で、リーグ内の内規を悪用して試合の結果を操作してしまういかさまになる。
米国のMBLでは、今期最下位となるチームは来期に向けてのドラフトが行われる場合、選手を選ぶ優先権が与えられる。
シーズン後半になり確実に下位のチームとなりそうなことが明らかになる場合、チームとして意図的に試合に負け、最下位のポジションを得て、高額の移籍金でトップの選手群をドラフトでスカウトできるようになる。
今は負けても将来は勝てるチームにしようとするわけだ。
勿論これは金が動く八百長ではなく、米国の制度の仕組みを悪用する行為なのだが、組織としてのいかさまであることには間違いない。

スポーツ行為で八百長やいかさまが生じうるのは、自己を利する場合と自己ではなく第三者を利するためという二つの場合がある。
かつ金銭的な利得が目的の場合と、目的が金銭的利得ではない場合もある。
また選手や監督・コーチ等の直接的関係者の意思で行われる場合もあれば、第三者の意思が存在し、何らかの誘引や圧力により、かかる関係者が悪事に関与してしまうということもありうる。

(美原 融)

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