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2023-03-20

200.スポーツブッキング ㉞スポーツの不正は犯罪か否か?

日本人はスポーツは、アマチュアスポーツ精神の考えが頭に浮かぶのだろうが、本来潔癖、清廉で何らの疑念もなく、公平、公正に試合が行われるものという先入観がある様だ。
プロであれ、アマであれ、一端スポーツという呼称を与えられると、不正やいかさま、八百長等はありえないし、絶対あってはならないものと信じてしまう性向がある。
かつスポーツ界とは本来純粋にスポーツを楽しむ個人の集まりであって、自主的、自律的な組織がスポーツ試合を行うという意味で極めて独立的な組織がこれを自主的に運営するという建前で、スポーツ組織や団体が組成されている。
かかる事情によりスポーツの規則(ルール)とは彼らが自主的に決めるものであって、法や規制が押し付けるものではないとする考えも強い。
これをSport Autonomyと呼称する。

公正であるべきスポーツ試合に不正、いかさま、八百長等は本来ありえないし、かつあってはならないものになる。
このためにルールが設けられる。
もし、かかる不正、いかさま、八百長等がありえたとすれば、あくまでもスポーツ界内部での独立的な規範・内規等により規則違反ということで処分するということが基本になる。
不正、いかさま、八百長等はスポーツ試合の帰結そのものを意図的に変えてしまうことになり、当然厳格な規律が課せられるべきなのだが、常識的にはそのレベル、関与次第により、罰金、一定期間出場・試合参加停止、関連スポーツ界からの永久追放等の社会的制裁措置が課せられるだけである。
我が国ではかかる行為自体は社会的な非難の対象になるとはいえ、犯罪ではないし、違法でもない。
もっとも公営競技や、そのスポーツ行為の結果が外部で第三者の賭け事の対象になるサッカー、バスケットボールに関し、もし、選手・監督・コーチ・審判員等が賭け事の結果を左右する意図的な操作を(第三者とつるんで)行い、そこから個人的な利得を得ていたとすれば、これは関連公営賭博法に基づき犯罪行為になってしまう。
アマチュアスポーツ界の人々にとってみれば、こんなのはスポーツではないし、例外にしかすぎず、関係ないといわれるかもしれない。
でもそうなるとプロスポーツ界の人々にとり事は微妙だ。
プロの世界ではスポーツも興行であり、現実には金が動く商業的活動でしかすぎず、アマチュアスポーツ程単純ではない。
勿論、プロアマを問わず、公平、公正なルールに基づき試合がなされていることがスポーツ試合の前提でもあり、顧客はこの前提で試合を観戦し、楽しんでいる。
この場合、これを担保するのは、組織としてのガバナンスの在り方や組織構成員としての選手・監督・コーチ等スポーツ関係者の倫理行動規範・これを補完する教育プログラムやガイドライン、ガバナンス・コード等になり、これらがしっかりと機能していることが唯一の防止策ということになってしまう。
これが日本の実体でもある。

一方、諸外国、特に欧州諸国やオーストラリア等では、スポーツ試合における不正・いかさま・八百長等は、本来、公正かつ競争的であるべきスポーツ試合の廉潔性を損ね、社会的、経済的、文化的価値を棄損することに繋がるとし、単純な内部的なルール違反ではなく、あきらかに公益を損ねる犯罪の一つという考え方をとり、行政罰あるいは刑事罰が科せられることが一般的である。
歴史的にプロ・アマを問わずスポーツ試合を賭け事の対象としてきた歴史的背景や、これにつけこんだ犯罪組織が、試合の操作に関与しようとした過去の歴史的事実がその背景にあるのかもしれない。
これらの国においては、プロ・アマを問わず対象となるスポーツ試合における不正・いかさま・八百長等で試合の結果を意図的にかつ直接的・間接的に操作することにより、何らかの排他的利益を取得しようとする行為は犯罪になってしまう。
刑法上の犯罪となる以上、かかる行為が生じないように徹底的な監視をするとともに、違法行為を特定化し、摘発する国としてのあらゆるインテリジェンス体制やAIを活用した疑わしい行為の摘発、利害関係者への早期警戒情報の提供等情報の相互交換等のネットワークが成立され、これが機能している。

このように世界のありようは、スポーツにおける不正・いかさま・八百長等を犯罪として断定する国と、あくまでも当該スポーツ団体・組織における内部規律違反とする国の二つに分かれている。
どちらが適切な方向なのかに関しての正解等はない。
犯罪とした場合、当然のことながら、これを防止する様々な施策がとられ、法の執行もより厳格になることより、これがかかる行為をさせないという効果的な抑止効果に繋がるとする考え方も強い。
一方、スポーツ行為一般が(その周辺において)、賭博の対象になるとすれば、より不正・いかさま・八百長が増える可能性を否定できないとする見解もある。
尚、スポーツにおけるドーピングも類似的な問題を抱える。
ドーピングは運動能力を意図的に向上させるための薬物の使用になり、選手や監督・コーチ等による一種の協議規約違反になる。
ドーピングを防止するための国際条約(UNESCOスポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約)や法規範(日本では平成30年の「スポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律」)は各国にもあるが、我が国では防止に努める努力を促す内容でしかない。
この適用は国によっても異なる。
ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア等ではスポーツ行為におけるドーピングは国内法において犯罪になる。
一方、英国、米国、日本等のその他の国々ではこれを単純にスポーツ規約に対する違反としてとらえ、もし露見した場合には、入賞のはく奪、一定期間の試合参加禁止等のスポーツ団体内部での措置はとられるが、それ以上の制裁措置は存在しない。
もし、スポーツブッキングを我が国で制度的に認めようとする場合、不正、いかさま、八百長等にどう対応していくかに関しては、様々な対応策がありうる。
このためにはスポーツ界を含めた慎重な議論が必要になるのかもしれない。

(美原 融)

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