National Council on Gaming Legislation
コラム
  • HOME »
  • »
  • 199.スポーツブッキング ㉝スポーツ・アナリテイックス(3)

2023-03-13

199.スポーツブッキング ㉝スポーツ・アナリテイックス(3)

ところでこれらスポーツアナリテイックスを担う企業やスポーツデータの分析・加工会社等とスポーツブッキング事業者とのビジネスとしての関係はどうなっているのであろうか?その前提としてスポーツブッキングとデータや統計値との関係を理解する必要がある。
スポーツの試合でどちらのチームが如何なる試合を展開し、勝つか、負けるか、どちらが強いか、弱いか等を予測することはスポーツブッキングの要だ。
このためにスポーツブッキング事業者は、試合に参加するチームの過去の試合の結果やチームの選手の過去の統計的データを調べ、様々な要素を検討しつつ、試合の動向や結果を予想し、オッズを設定していたのが過去の実態だ。
昔はブッキーズ(Bookies)と呼ばれる専門的な知識・経験をもった主体がこれを職人芸的にマニュアルでやっていた。
この仕事を根本的に変えたのはコンピューターによるシステムの導入である。
データ量が増えると統計的・数学的処理、機械学習等により、シミュレーションや一定のアルゴリズムにより、予想や機械学習が可能になってくる。
これをオッズの設定やその調整等スポーツブッキングのコアな業務に採用するわけだ。
データの捕捉(Data Capture)も画像処理やGPS端末等の技術的発展により、選手個人や試合におけるボールやチームの動き、座標情報等も全てデータとして把握できるようになると、AIやシステムを用いて試合の動向や結果を予想したり、様々なシミュレーションをしたりすることも可能になってくる。
過去、現在、リアルタイムにおける膨大なデータを収集し、処理し、分析、加工することは誰もができる作業ではなく、個別のスポーツブッキング事業者にとっても単純にはできない専門的な業務になってきたことも事実だ。

勿論個別のスポーツブッキング事業者が自ら技術開発し、かかるコア業務を担うことも可能である。
この場合、データや統計値を処理したり、シミュレーションを可変値で動かせたりできるアルゴリズムを作れる数学者が必要になる。
これに基づき、予測やオッヅ・ラインの基本設定、価格設定を行うわけだ。
このアルゴリズムをモニターしつつ、実際のオッズの販売状況をモニターするスタッフも必要となる。
かつIn-Game(スポーツ試合の開始後なされる賭け事)の場合にはリアルタイムで試合の進捗をモニターし、リスク要素をアップデートするスタッフも必要だ。
もしPre-Game(スポーツの試合前に行われる賭け事)で対象となる試合数が限定されるならば、少人数のスタッフで何とか対応できるかもしれない。
ところがこれではビジネスとしてはペイできず、現実的には対象試合数を多くし、賭け方も多様な賭け方を提供するとともに、Pre-Gameと共にIn-Gameの賭け事をも提供しなければ、顧客も集まらず、かつ売り上げも増えない。
こうなると全てを自社の技術、自社のスタッフで賄うことは費用的にも採算に合わなくなり、不可能に近い。

個別のスポーツブッキング事業者では対応できない膨大な業務を、様々なシステムやAI,機械学習を駆使して、組織的に提供する主体がスポーツデーター・プロバイダーとかスポーツアナリテイックス企業等と呼ばれる専門企業群である。
2010年代頃以降、これら企業群はスポーツデータやデーターベースをスポーツ組織・団体から有償で提供を受け、これを分析・加工し、様々な形でスポーツブッキング事業者に提供するという企業間のビジネス構図が定着した。
自動化されたシステムにより、ラインを設定し、オッズを設定・調整する業務を請け負っていることになり、これをベースに各スポーツブッキング事業者が自分でカストマイズし、オッズを調整した上で、顧客に提供しているわけである。
スポーツブッキング事業者は、データ収集・分析・加工と予測・ライン設定迄下請けに出しているわけで、業務をより効率よくするために、自動化されたシステムがいわば生のProbabilityを計算し、提供しているようなものだ。
今や対象となる試合数は100以上、賭け方に至っては1000以上というオンラインサイトも珍しくないのが現状だ。
Basic Packageとして毎月固定費用で一定数のGame/Lineを提供したり、一定数のOpening Lineを提供し、これを随時アップデートしたりする方法や、Data Packageと300位のIn-Game Linesを提供したりする方法、一定の提供数のキャップを超える場合、追加的なオプションを購入できるなどスポーツブッキング事業者の状況に応じて、様々な組み合わせを提供できるらしい。
この様に、スポーツブッキング事業者の中には外部協力企業からのLive Data Feedに依存し、運営している事業者も多い。

一見、様々な事業者が競合しながら市場にて活動しているように見えるが、実体は限られた数の巨大データプロバイダー・アナリテイックス複合企業が市場を寡占化している。
数千名の職員を動かし、24時間市場をモニターし、常に状況をアップデートできる主体は他にいないのだ。
勿論中小規模の企業も活躍してはいるが、上位の寡占企業が実質的にこの業界のスタンダードになりつつあるというのも現実といわれている。
こうなるとB2Cの接点となるスポーツブッキング事業者のみを規制の対象にしても、スポーツブッキングの廉潔性が担保できるかどうか不明となる。
システムの中に不正がありえた場合、誰も察知できなくなるからだ。
国、地域によっては、かかるデータプロバイダー・アナリテイックス複合企業をも免許の対象として規制・監督する所もあるが、全てではない。
市場の進展が早すぎて、制度や規制の枠組みが追い付いていけないのだ。
かかる状況がいつまで続くのか、潜在的問題は既に顕在化しているのではないか等懸念は尽きない。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top