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2022-08-08

169.スポーツブッキング ③スポーツブッキングは違法?

インターネットで検索すると、日本語・英語による日本人向けのスポーツブッキングサイトがあり、J-リーグサッカーのIn-Playゲーム等が賭博の対象になっており、実際のゲーム進行がリアルタイムで図示されているのにはたまげた(映像ではなく画像で数秒の時間差があるがゲームの進行状況は解る。
勿論情報の精緻さは無い)。
外国ブッキング事業者が堂々と日本人を相手にライブでJリーグのIn-Playスポーツブッキングを提供していることになる。
ライブは実際の試合を見てネットで中継していることを意味し、裏で支援している人達がいるのだろう。
当然これは賭博幇助に近い行為になる。
様々な識者や事業者がこれは違法なのか、合法なのかとコメントしているが、ブッキング事業者自身の説明も含めて過半の結論はグレー、顧客が個人で遊ぶ分には警察に逮捕されることは無い等という生半可な説明が多い。

スポーツブッキングはあきらかに賭博行為であり、わが国で行われる賭博行為は別途法令によりその違法性が阻却されない限り、当然のことながらその行為は「違法」である。
もっとも我が国の刑法は我が国の領土内(日本国籍の飛行機・船舶を含む)でのみ適用され、外国に存在する企業や外国を訪問している日本人には適用されない。
よって米国で合法なら、米国を旅行しスポーツブッキングを楽しんだ所で犯罪にはならない。
外国にいる企業がインターネットを通じで日本にいる日本人にスポーツブッキングを提供し、日本人顧客がこれで遊んでも、在外国の外国事業者を日本の法律で摘発し、罰することはできない。
我が国の刑法は明治30年代の産物だ。
刑法制定時はインターネットもスマホも無く、かかる形式の賭博等は想定されていない。
かつ賭博罪とは双方向犯と概念され、どちらか片方だけを摘発、逮捕するということは相手がサイバー世界にいる場合、不可能に近い。
違法行為ならば規制すればいいではないかとなるが、外国にいる事業者を規制したり、摘発したりすることは不可能だ。
ごまんといるかもしれない日本人顧客も自室からコンピュータにアクセスして遊ぶならば、これも摘発したりすることは不可能になる。
要は明らかに「違法」だが、法の執行を可能にする体制も、制度も手段も無く、摘発もできないということになる。
正確にいうと、ネットを通じた海外からの賭博行為の提供、これへの日本人の参加は、犯罪の構成要件が成立しないのだ。
検察当局が犯罪として立件できず、公判を維持できないと判断すれば、警察が摘発、逮捕しても無罪放免になる。
2016年スマートライブカジノ事件というのがあったが、海外オンライン賭博に参加した3人の日本人を京都府警が単純賭博罪で摘発、逮捕した事案だ。
日本人デイ―ラーとチャットでの対話、このプレーをSNSで流したりした等の状況証拠で、わが国における賭博行為とみなし、見切り発車したのだが、内2人は罪を認め単純賭博罪で略式起訴、1人は冗談ではないと裁判に訴える動きをした所、検察は立件不能と判断し、1人のみ無罪放免になったという警察の失態を見せた誠に劣る事案でもあった。
現在の我が国の法制度では、余程の事実が積み重ならない限り、あるいは別途厳格な取り締まりを可能にする新たな法令や法の運用ができない限り、警察当局による厳格な取り締まり等ありえない。
もっとも違法サイトへの情報やデータの提供や顧客の入出金行為への積極的関与、あるいはアフィリエイト等の支援行為等は現行制度でも賭博幇助と解釈される余地は常にある。
違法賭博の存在が社会不安や、マネーロンダリングを増長していることが問題視されたり、これが政治家を動かし、新たな立法措置を図ろうとしたりする場合には、当然規制と取り締まりは厳格になるかもしれない(この構図はカジノIR立法時のパチンコ業いじめと変わらない)。

もっともかかる事情は必ずしも日本だけの専売特許ではなく、他の先進諸国も類似的であることを理解する必要がある。
例えば米国には2006年違法インターネット賭博執行法(UIGEA)という連邦法があるが、海外からのネット賭博事業者と資金決済関係者(銀行、クレジットカード会社等)を規制する法律で、米国民がオンライン賭博に参加すること自体を禁止し、犯罪とする法律ではない。
2011年以降、オンラインカジノ、スポーツブック、オンラインポーカー等の許諾は連邦政府ではなく、州政府管轄となり、その後現在に至るまで30以上の州政府がスポーツブッキングを可能とする州法を制度として成立させた。
ところがどの州法にも自分の州内での許諾、免許、規制は詳細記載してるが、海外(違法)スポーツブッキングに自州の住民が参加することを違法と規定していない。
結果、合法サイトと違法サイトの奇妙な共存状態が継続している。
厳格な規制の下で免許を受けた事業者のサイトと税金も払わない海外事業者のサイトがサイバー空間で共存しているわけだ。
UIGEA法の網はあるが、裏をかこうと思えばループホールはある。
この状況は日本と同じで、違法ではあるが現実には海外事業者ネットサイトは存在し、摘発も取り締まりも無く、一定数の米国民は違法サイトを使用している。
米国民から見れば、これは極めてグレーな状況だ。
連邦政府・州政府から見れば勿論これは好ましくないし、税収の遺漏になる。
違法海外サイトを規制すべきとする業界団体のロビー活動や連邦議会議員の声も強い。
何らかの連邦規制が必要ではという意見もあるのだが、州境を跨るサイバー世界の法規制は米国では連邦政府と州政府との管轄権の問題にも触れるため、単純ではない。
州政府や事業者が、海外違法サイトではなく、州政府の認可を得た許諾サイトの利用をと広告宣伝で周知徹底しても、決めるのは米国民だ。
サイトの使いやすさとか情報の多さ、大判振舞いのプロモーションやボーナス等は許諾サイトの方が優れている。
もっとも肝心のオッズは(税負担等無いのだから)違法サイトの方が利用者にとり有利という事情もあり、微妙な競合状態が継続しているというのが現実の様だ。
こんな状態が永続的になるわけがなく、どこかの時点で、何らかの理由、何らかの形で新たな法規制や整理が生じるのかもしれない。
グレーな状況は緊張感が高まればどこかで破裂するリスクがある。
これは日本とて、同じであろう。

(美原 融)

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