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2023-02-13

195.スポーツブッキング ㉙データ権・肖像権・パブリシテイー権

スポーツ関連データとは公知の情報となるチームや選手に関わる単純な統計的数値・データのみではなく、選手個人の映像やセンサー・AI等を駆使して得られるバイオメトリックスデータ、選手やチームの過去の試合履歴や試合経過データ等から得られる一次情報やこれらを一部加工したものをも含むものになり、一種の知的所有権と同等のものとして認識されている。
欧米諸国ではデータ権(Data Rights)という言葉が日常的に使用され、認められているのだが、勿論制度上の明文の規定があるわけではない。
これらデータ権は、チームスポーツの場合にはスポーツ選手は団体に属して活動を行うことが通例であるため、選手の所属団体・組織(リーグ、チーム等)がこれらデータ権の管理者となり、第三者に対し、有償でデータを供与する仕組みをとることが多い。
勿論選手個人に関わる映像、デジタル画像、肖像ないしはPerformanceデータ等は根源的には選手個人に帰属するため、通常所属する団体・組織と選手との間で団体・組織が承諾することを前提に第三者による選手の写真・映像等の撮影を承諾すると共に、当該組織・団体によるその商業目的利用に同意することを取り決めたり、かかる使用に関し選手への収益還元等を取り決めたりする。

欧米諸国ではスポーツデータに関しては、様々な一次情報データを収集する手法が発展し、専門的事業者がこれらデータを分析し、加工することで更なる付加価値を付けられることに着目したビジネスが発展している。
これに伴い、スポーツ団体・組織がデータ権再販会社・データ収集・分析・提供会社(Data Rights Provider)等と契約し、付加価値を付けた加工データを様々なブックメーキング事業者や関連事業者に提供するという構図が市場において成立していった。
一般的に選手個人のPerformanceに関わるバイオメトリクスデータ等は個人に属する権利になってしまうが、チームや組織、試合のデータ等になると、個人ではなく、団体・組織が一元的に管理することがより合理的になる。
ここからB2BやB2Cのビジネスが展開しているのだ。

これに対し、選手の肖像権の在り方はより複雑になり、国や団体・組織によっても考え方やアプローチの仕方が異なる。
肖像権(Image Right)という考えも制度上明文の規定がある国もあれば、無い国もある。
その定義や考え方も一つではなく、その内容も運用上の解釈に委ねている側面がある模様だ。
米国ではこれをRight for Name, Image. Likeliness(名前、肖像、画像に関する権利、略してNIL権)とも呼称し、判例等により一定の権利として定着している。
一方、我が国では制度の中に肖像権という規定があるわけではない。
但し、学説的には肖像権は、人格権と財産権の二つに分類されると考えられている。
人格権とはみだりに撮影等されない権利や、撮影された写真・肖像等をみだりに利用されない権利をいい、プライバシーに関する権利になる。
一方、財産権とは肖像の利用に対する本人の財産的利益を保護する権利をいい、パブリシテイー権(Right of Publicity)ともいう。
パブリシテイー権とは氏名や肖像等に生じる顧客誘引力を中核とする経済的価値で本人が独占できる価値をいい、我が国でも判例によりその考え方や権利が実質的に認められている。
一方、米国等では州法によりパブリシテイー権を定義し、保護・保全している州が多い。

米国ではこのパブリシテイー権は基本的にはスポーツ選手個人に帰属するものとする考えが根付き、リーグ毎に存在する選手協会(Player’s Association)経由、代理人やエージェンシー企業が活動し、巨大な市場を構成している。
リーグ制の下でのドラフトやトレードに関する代理人、選手個人のマーケッテイングやメデイア露出の代理人、財務・法務アドバイザー等で著名選手になると選手の名前と存在そのものが大きな商品価値になる。
エージェントやエージェント企業はMarketing Agreementでは収入の一定率、ドラフトやトレード等では時間単位固定費等のコミッションを得るが、一定の上限(キャップ)が付くことが通例の様である(NFL3%、NVA/NHL4% , MLB5%)。
米国では4つの主要スポーツリーグ(NFLフットボール, MLBメージャーリーグ野球, NBAバスケットボール, NHLフットボール)で全選手の42 %にあたる1700人以上の選手がこれら代理人やエージェント会社を起用し、その契約総額はなんと$500億㌦以上に達するという巨額な市場にまで成長している。
一部エージェント会社は集約化、肥大化し、あらゆるスポーツ競技の選手のエージェントを担っており、これら企業で市場のかなりの占有率を占めている。

一方、我が国ではパブリシテイー権という概念は比較的新しい概念になる。
当初はスポーツリーグや団体・組織が選手に権利放棄をさせ、独占し、商業的利益の一部を協力金として選手に還元するという仕組みが存在した。
プロ野球では選手会(日本プロ野球選手会)と日本野球機構(NPB)の間で選手の肖像権の機構による独占的使用に関し、係争が生じ、2010年最高裁判決で選手会が敗訴している。
但し、段階的に肖像権は選手個人に帰属する権利という考え方が認識されつつあり、その商業的利用の在り方についても、選手会と機構との関係もより対等になるように変わりつつある。
尚、我が国でも米国と同様に、一部プロスポーツ界では選手が自分の肖像権やパブリシテイー権の管理をマネージメント会社に委託する例も生じてきている。
但し、その規模は米国等と比較すると未だ極めて小さい。
もっとも権利の仕組みやその実践は、洋の東西を問わず類似的で、プロ・アマを問わず、今後更なる商業化が進むものと見られている。

(美原 融)

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