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2023-02-06

194.スポーツブッキング ㉘学生スポーツ選手の肖像権

米国でアマスポーツ団体・大学組織と学生選手の関係は結構複雑で、かつ長い歴史がある。
19世紀後半から大学間でのスポーツ試合が始まり、20世紀以降、バスケやアメフトは国民的人気を呼ぶようになってきたのだが、人気が高まれば高まる程、強いチームや選手を抱える大学は有名になる。
学生の人気が入学者増を支え、大学の収益に貢献すると共に、学内外やOBからの寄付金も増える。
これは洋の東西を問わず、どこでもそうなる。
当然大学は強い選手を呼び込むために奨学金や様々な便益を学生に付与するという競争が大学間で生じることになってしまった。
そこで大学間での学生スポーツに関する共通的な規律や規範を定め、大学スポーツ試合の改革、健全化や大学間の連絡調整、管理など、さまざまな運営支援を志向して1910年に過去の組織を引き継ぎながら創設された非営利組織がNCAA(全米大学体育協会)になる。
1921年以降NCAAは大学間スポーツ試合を主催するようになり、1951年以降TV放映権の管理権を取得したこと等により、NCAAは大学間スポーツ試合を巨額の収益を生み出す興行へと発展させるドライバーとして機能することになった。
今や参加大学は1200校、登録学生選手は50万人に達し、大学バスケットボールでは年10億㌦、大学フットボールでは年40億㌦の収益を上げる巨大なビジネスへと発展している。

今やNCCAは大学にとってみれば巨額な富を生み出すツールなのだが、NCCAも大学当局も参加する学生選手に対しては、学生が報酬のために試合に参加すること(Pay for Play)や、何らかの金銭的・非金銭的報酬を得てスポーツに参加することはアマチュアスポーツの精神に反するということで罰則付きの厳格な内規で禁止している(NCAA By Law 第12条)。
これを認めなければ、NCAAへの選手登録もできず、学生スポーツには参加できなくなるわけだ。
NCAAと大学、大学関係者(監督、コーチ等)は巨額の報酬を得ているが、学生には殆んど何も報酬はないとするのがアマチュアスポーツでもあった。
これが学生OBや学生による不満を高めることになり、法的係争が頻発し、この状況は確実に変わることになった。
端緒となったのは2009年著名な学生バスケットボール選手OB等が、卒業前の過去の選手の肖像・画像(NILという。
Name, Image, Likeliness、選手の名前、肖像、画像の略で肖像権ないしはこれに伴うパブリシテイ権になる)がNCAAにより不当に商業的利用されていることを訴えた集団訴訟事案である。
地裁、連邦控訴審を経て2016年連邦最高裁判所は被告NCAAの上訴を棄却し、NCAA内部規則は取引に関する非合理的な制約で、買手独占禁止の観点からアンチトラスト法違反と判示した(大学スポーツを特殊なアマチュア試合と見ず、通常の取引と同様と判断し、その不公正さを指摘したことになる)。
これを契機とし、2019年カルフォルニア州ではFair Pay to Play Act(Student Athlete bill of right)が成立、NCAA登録選手が肖像権(NIL)の利用に伴う報酬を取得できる制度を州法として制定した。
その後の2年間でフロリダ、アラバマ、ジョージア、ミシシッピー等28の州が類似制度を制定し、内12州の法律は、2021年7月1日に施行された。
一方未だかかる考えを認めていない州があるとともに、NCAA自体はこの段階では内規を変えることはせず、静観していた。
その後の類似訴訟(特にNCAAが内規により制限していた非金銭的な便益供与(Non-cash compensation)の対象範囲の拡大~例えばコンピューター,実験器具、楽器その他の目に見える物等の供与)は2021年3月に統合審議の対象とされ、この訴訟も連邦最高裁は2021年6月に裁量審判により、上訴を棄却した。
極めて狭い範囲の判例でしかないが、スポーツ学生による試合参加に対する報酬への制約や肖像権(NIL)に対するNCAAの過去の内規自体が今後の訴訟案件次第では、確実に総崩れになることを示唆するものとなった。
この最高裁判定後間もなくして、上記12の州の州法が施行される直前に、NCAAは、内規を暫定的に変更、州法に準拠することを条件に、学生がNIL活動(肖像権を商業的活動として利用すること)を担い報酬を得ることを認め、代理人等を起用しこれを実践することも認めることになった。
但し、NCCAの内規として①試合の代償として報酬を得ること(Pay for Play)も②学生勧誘の手段として試合への報酬を誘引策とすることも禁止という前提は変えず、肖像権利用のみを認めたことになる。
NCAAはNCAAの内規自体の有効性が最高裁により問われたわけではないとして、これ以外の内規を変えていない。
かつ肖像権への報酬取得は大学及びNCAAへの報告義務が課されうるとしている。

今までは学生が自らの肖像権を商業目的として報酬を得る等もってのほか、アマチュアスポーツ精神に反するということだったのだが、何と2021年7月以降、人気の高い学生スポーツ選手は堂々とこれができるようになったのだから驚天動地の制度改定となったことは間違いない。
但し、様々な混乱も生じている。
州別の新たな制度を見ると、どうやら州毎に事情もかなり異なるのだ。
大学の事前許可を必要とする州もあれば、一切情報開示すら不要という州もある。
また大学生としてキャンパスに来る迄はかかる契約を禁止する州もある。
代理人・弁護士起用の際は、州政府・大学に登録義務を課す州もあれば、一切不要とする州もある。
報酬は公正市場価格とすべき州もあれば、何ら拘束の無い州もある。
あるいはNIL対価の75%を大学が吸い上げ、エスクロー口座で管理し、卒業時点で本人に支払うという州もでてきた。
これではまるでパッチワークの諸制度だ。
本来これは州制度ではなく、何らかの連邦による法令等で共通的な規範のもとで施行されるべきなのだろう。
その動きはワシントン連邦議会にはあるのだが、当面混乱は続きそうである。
但し、これは本来アマチュアスポーツとは何かという課題の検討を避けて通れない。
米国学生スポーツはあらゆる側面で商業化しているし、プロスポーツとの境目も曖昧になりつつあるのが現状だからだ。

(美原 融)

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