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2023-01-16

191.スポーツブッキング ㉕Product FeeないしはIntegrity Fee(2)

オーストラリアのスポーツブッキングの制度は国家スポーツ計画の一要素として2017年に特別委員会に諮問され、2018年の答申( Review of Australia’s Sports Integrity Arrangements通称Wood報告)において提唱されたスポーツベッテイングの運営モデル(Sport Betting Operational Model~Governance model)に基づいている。
国(連邦政府)はスポーツの廉潔性(Integrity)を担保するために独立した連邦政府の単一統合組織(Sport Integrity Australia)のみを設けることとし、個別の許認可に関わる制度や規制・監督は各州政府(Province/Territory)の裁量に委ねる仕組みを原則として採用した。
よって州毎に異なるスポーツブッキングの制度が存在するのだが、先行した主要州であるNSW州、Victoria州の制度は類似的なものになっている。
その特徴は個別のスポーツ団体・組織をSport Controlling Body(SCB,スポーツ管理団体)として州の規制機関が認証し、スポーツの廉潔性の維持と担保をスポーツ管理団体が遵守すべき義務と規定していることにある。
スポーツに関わるドーピングや腐敗・汚職、不正・いかさま・八百長、暴力、差別・セクハラ、児童虐待等を防止するように努め、かかる不正が生じた場合これを摘発する義務がスポーツ管理団体に課される。
一種のセルフモニタリング、自己管理をスポーツ団体に要求しているのだが、(国や州政府等の公的機関ではなく)現場を熟知している主体こそが自己管理や不正摘発の主体者となり、相応の責任を担うべきという考えがここにある。
これを国全体として統一的指針の下に支援できる体制と組織を設けている(上述した国の機関となるSport Integrity Australia)わけだが、スポーツ団体の担うべき責務として廉潔性担保を法的な義務として明確に位置づけ、これを実践している国は少ない。

各州のスポーツブッキングの制度も、上記原則を踏まえたものとして構築されている。
対象となるスポーツをスポーツブッキングの対象とする前提として、関連スポーツ団体は州規制機関に申請し、スポーツ管理団体(SCB)としての地位を承認されていることが前提になる。
このためには、スポーツ試合を主催し、管理していること、必要とされる廉潔性確保の手段と措置、手続きを法令に基づき担っていることが条件になる。
実践のための手順としては、スポーツブッキング事業者(Wagering Service Provider, WSP)が州の規制当局に対する免許申請前に、賭博行為の対象となるスポーツを主催するスポーツ管理団体(SCB)と交渉し、対象イベント/試合、賭け方の種類と手法、情報の共有と交換、不正行為監視義務と必要な警告措置と共に、事業者が収益の一部をスポーツ管理団体に支払うProduct Feeを交渉により合意する。
これらを契約(Product Fee and Integrity Agreement PFIAsという)として取り纏め、州の規制機関に事前に提出、承認を得て、初めてスポーツブッキングの施行を実現できる。
このProduct Feeだが、基本的にはフランスと類似的な考え方を取る。
Product Feeとは「スポーツブッキング事業者が特定のスポーツ種を賭け事の対象とする権利に対する当該スポーツ団体・組織に支払うべき対価(right to run booking on their product)」と定義されている。
いわばスポーツ試合の推移や結果を営利活動に使用することの対価というべきものになるが、これに加え、スポーツ管理団体が競争の廉潔性を担保するために必要となる費用への補償という意味合いもある。
このFeeのレベルをどう設定するかは当事者間の交渉に委ねられ、制度として何らかの数値が規定されているわけではない。
ニューサウスウエルス州の場合には、GGR(売り上げから顧客勝ち分を差し引いた金額)の2%という数値が慣行として定着した模様だ。
一つのスポーツ管理団体と一定の%を合意すると、他のスポーツ管理団体もそれに倣うという習性がある。
同州の場合には、州政府に対しGGRの10%(GST付加価値税込み)をPoint of Consumption Taxとして支払う義務があり、事業者にとってはライセンス料等と共にこれらの総体が公租公課となる。

興味深いのは、各州の規制当局はスポーツ団体・組織・選手の廉潔性担保につき、特段の関与をしないことにある。
規制当局はスポーツ管理団体が国・州の法令に則り、適切な手順、考え方により内部的に廉潔性を担保し、かつこれを実践する体制をとっているか否かのみを検証する。
よって、実際の不正行為の監視・モニタリングや摘発は行わず、これを全てスポーツ管理団体に委ねている。
制度上の義務規定があり、なおかつ、これに対する相応の対価をインセンテイブ報酬としてスポーツブッキング事業者から得ている以上、スポーツ管理団体の責任で施行を監視し、不法行為の摘発を実施すべきという考え方なのであろう。
ここでの連邦政府機関(Sport Integrity Australia)の役割は過去ドーピング、八百長、不正、いかさま、贈収賄等バラバラに管理されていた体制を一元化し、国としての統一的な考えに基づき情報を管理し、ガイドライン策定、指針マニュアル策定等を担うとともに、ホットラインを設け全てのクレーム、情報、告発等の統一した受付窓口を設けていることにある。
これにより連邦政府法執行関連機関や州政府規制機関、スポーツ管理団体と協力・連携しながら不法行為等を効果的に摘発できる仕組みを設けている

因みに日本等ではスポーツの廉潔性担保に制度上の義務をスポーツ団体や組織に課しているわけではない。
あくまでも各スポーツ団体・チームが自主的に管理するという建前になる。
この意味では実践の在り方は極めて甘くなる。
義務も罰則もなければ、きちんとやっているといわれても、実質的にはモニタリングも監視もルーズになってしまうことが多くなってしまうからだ。
制度的に金銭的なインセンテイブを設け、スポーツ団体・組織に制度的な義務を課すというアプローチは、メリットもデメリットもある。
これも一つの効果的な施策なのだが、我が国のスポーツ団体・組織がかかる考えを受け入れるか否かに関しては、様々な意見がでてきそうである。

(美原 融)

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