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2023-01-09

190.スポーツブッキング ㉔Product FeeないしはIntegrity Fee(1)

スポーツブッキングとはスポーツ試合とは全く関係無く、スポーツ行為の枠外で、スポーツ競技を対象にし、第三者が行う商業的利益行為になる。
これはスポーツ団体・組織の側からすれば、試合の推移や成果を利用して、利益活動をしていることになり、自分たちの権利が侵害されているという判断をすることはおかしな考え方ではない。
スポーツ試合のTV放映で放映権が成立し、放映料をスポーツ団体が受領できるのと類似的な構図となるからだ。
そこから、スポーツ競技団体・組織は主催者として試合を一種のプロダクト(製品)として顧客に提供しているのであって、第三者がこれを活用し、利益行為を担う活動をする場合、その利益の一部を対象となるスポーツ競技団体にも支払ってしかるべきという考え方がでてきた。
これがプロダクトフィー(Product Fee)と呼ばれる考え方になる。
いわばスポーツ競技の提供、推移や成果に関わる情報を一つの知的財産として考え、これを利用して金儲けの対象にする場合、一種のローヤリテイーを賦課するという考えに近い。

これに対し、インテグリテイ―フィー(Integrity Fee)とは、賭博の対象となるスポーツ試合・競技が公正に行われるためには当該スポーツ団体・組織との協力・連携が不可避で、公式なデータ共有や試合の監視、疑わしい賭け金行動の場合の警告等スポーツ団体・組織による廉潔性確保のための負担・協力に対し、スポーツブッキング事業者による負担により、何等かの補償・対価を支払うべきではないかという考え方になる。
スポーツ試合を賭け事の対象にする場合、スポーツ関係者による不正や八百長を助長しかねない側面も存在するため、これを防止し、監視するためにはスポーツ団体による特段の措置や行動が必要とする考え方が欧州諸国や国際スポーツ団体には強い。
このための費用負担を受益者たるスポーツブッキング事業者に求めるということでもある。

スポーツ団体・組織が、スポーツブッキング事業者から一定の報酬分担を得るという意味では実質的には同じ考え方なのだが、この二つの考え方の両方を採用し、スポーツブッキング制度の枠組みの中に位置づけるというアプローチを一部先進諸国は取りつつある。
勿論制度の枠組みとして規定し、徴収を義務とする国・地域があると共に、制度としては考慮せず、市場の実態・ニーズに委ねて、市場慣行として実践することを誘導しようとする国・地域もある。
国や地域が事業者から一定率を直接徴収し、関連スポーツ団体・組織に配布する考え方もありうると共に、関係者の交渉により価格を決める考え方もある。
何を対象にどの位徴収するのかも様々で固定的な考えがあるわけではない。
制度としてこの考えを取り決めている国はフランス、オーストラリア等になる。
その他の国・地域はかかる考えを制度上の義務とはせず、市場において利害関係者が類似的な考え・行動を取るという慣行に至っていることが現実になる。

フランスのケースをみてみたい。
フランスは、1992年のスポーツ法典L331-1条において「スポーツ試合の主催者はその試合の運営権を保持する」とし、「当該試合を賭け事の対象に付す権利をも含む」と規定している。
2010年5月12日付法律2010-476号にてスポーツブッキングを含む特定のオンライン賭博が認められることになったが、この中で「賭博に付す権利(Droit au Pari)」が新たに定義されている。
スポーツ試合の主催者による知的所有権としての固有の権利(Droit sui generis de propriete intellectuelle)として想定されており、放映権、広告権、商品化権、入場券販売権等と同様に、第三者(スポーツブッキング事業者)へ販売できる権利になる。
具体的な手順としては、規制当局から免許を得たスポーツブッキング事業者は賭博の対象となるスポーツ団体・組織と交渉し、支払うべき対価、不正行為特定化に関する相互協力、情報交換等を取り決め、これを「賭博に付す権利に関する契約(Contrat de droit au pari)案として規制当局に提出、その認可を得て、契約を締結する義務がある。
ではどの位の対価を支払うのかということだが、特段ルールがあるわけではなく、市場において交渉により取り決められるとある。
フランス規制当局が2013年に調べた報告書によると平均値はハンドル(即ち顧客勝ち分を差し引く前の総賭け金)の1.1%(最低はハンドルの0.75%、最高は2.5%、殆どが1%)とかなり高い。
事業者の儲けがハンドルの5%と仮定し、これを事業者の収入ベース(adjusted wagering revenue)に引き直すとハンドルの1%でも全体収入の約20%程度になる。
興味深いのは、このハンドルの1%程度がスポーツ団体・組織の取り分になるということが一つのベンチマークとして市場に根付いていった様相があることだ。
尚、EU内で、かかる「賭博に付す権利」を制度として規定したのはフランスのみで、その他のEU諸国にはかかる法令は存在しない。
EU委員会はこの考え方自体に反対はしておらず、強制的ではない形で、加盟国が類似的な考え方を実務的に採用することを推奨している。
よってこの規定はフランス国内で行われる試合、国際試合等には適用されるが、フランス外の外国で主催されるスポーツ試合には適用されない。
一方、フランスで行われる国際試合の場合で、外国のスポーツブッキング事業者が賭博の対象にしたい場合には、国内企業と同様の手順を要求される。
もっとも制度に基づかないまでも、フランス外の国々では慣行として類似的なスポーツ団体・組織とスポーツブッキング事業者との間での対価のやりとりが行われていることが定着しているといってもよい。
尚、スポーツ団体・組織との契約は当該シーズンのみの単年度契約が過半で、長いものでは5年契約等もある。

尚、スポーツ団体・組織の取り分を制度等で明確に規定せず、当事者間の交渉に委ねる性向が強いのは、スポーツ種毎に事情が異なると共に、需要と供給の関係は固定的ではなく、変わりうるし、かつ市場においてどこかの点で均衡する。
よって、規制当局や監督省庁の恣意的な判断で一方的にこれを決めるべきではないとする考え方に立脚している。

(美原 融)

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