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2022-11-28

185.スポーツブッキング ⑲事業者はどの位儲かるのか?

スポーツブッキングの事業者はスポーツブッキングの施行によりどのレベルの収益を実現できるのであろうか?単純でないのは、市場の大きさ(規模、構造)や認められるスポーツ種、賭け方の手法が制限的か否かとか、実効税率がどのレベルになるか等によってもかなり大きな差異がでてしまうことにある。
前提が異なると評価しにくいのだ。
対面のみである場合には、実際の顧客が集まり、賭け行為がなされなければ意味がないわけで、顧客の数が制約要因となり、どうしても売り上げには限界がある。
一方これと並行的にオンライン・モバイル手段でのスポーツブックが認められている場合には、市場規模が一挙に拡大し、売り上げも飛躍的に伸びる。
米国の州によっては総売り上げの60%~80%をモバイルが占めるという州すらある。
モバイルを認めない州の場合には、大きな売り上げや収益を期待することはできにくい。
制度の仕組みとして制限的、抑制的であればあるほど、市場は小さくなり、売り上げや収益が減少する傾向があるのは当たり前だろう。
米国でもこれは州毎に事情が異なり一律ではない。

一定期間の間に顧客がスポーツブックに賭けた金額の総額をHandle(ハンドル)と呼称するが、これは顧客の勝ち分も含むため、これだけを見ると市場の過剰評価になってしまう。
このHandleから顧客への払い戻し(Payout)を差し引いた金額が事業者の税・費用控除前の収益になる(Revenue、Gross Gaming Revenueと呼称する)。
Hold%とはHandleのどのくらいの%が事業者の残るかを示す数字になり、これにより事業者の取り分を推定することができる。
米国ではこのHandle, Revenue, Hold%は各州が各月毎に数値を公表しており、これをフォローすることで市場の規模や成長の推移が解る。
Hold%は一定ではなく、州単位で集計しても毎月のように変わる。
各事業者にとっても同様でスポーツ試合のシーズンになると売り上げも収益も増える月が多いが、これが落ち込む月もある。
2018年6月から2022年11月迄のスポーツブッキングが施行されている州の全米各州の平均Hold%は7.4%になる。
最低はネバダ州の5.7%で最高はデラウエア州の14%になり、この間にすべての州の平均値が入る。

では特定の月を対象に、州毎の平均値を見ることにより市場の規模、地域毎の事業者の収益レベルを見てみよう。
個別事業者の収益レベル比較は各州内における競争環境や個別事業者が抱えるSkinの数によっても変わってしまうため、州単位でのグロス収益を比較する。

2022年9月のニュージャージー州(既存9カジノ施設+3競馬場で対面・モバイル両方が認められ、各施設に2つのSkinの枠があるが、現状は19のみ。
人口922万人)の場合、Handleは8.66億㌦、事業者Revenueは9718万㌦で、Hold%は平均7%、月単位でのスポーツブック税収は1212万㌦になる(税率は固定施設9.75%、モバイルは14.25%で、Revenueから販売促進費等が一部控除されるため、Hold%は単純割り算になっていない。
尚ハンドルの80%はモバイルによる)。
ネバダ州(陸上カジノ施設等176施設、内半分は小規模Kioskで対面・モバイル両方が認められている。
人口324万人)では同年同月でHandleは7.6億㌦、事業者Revenueは7062万㌦でHold%は9.28%、同月のスポーツブック関連税収は476万㌦(税率は一律6.75%)になる。
一方おそらく州民が顧客の主体となり、人口の少ないデラウエア州(陸上3施設対面のみでモバイルは認められていない。
人口約100万人)では2022年8月レベルでHandleは290万㌦、Revenueは42.9万㌦、Hold%は14.8%、税収は19.1万㌦(収益分担方式で政府50%、事業者40%、競馬施行者支援10%と税率はかなり高い)でしかない。
人口集約州であるニューヨーク州(人口1941万人、既存カジノ・Racino施設では対面、その他Mobile事業者も別途認められ、2つのプラットフォームに8つのSkin)の場合は、2022年9月単月でスポーツブッキングのハンドルは12.65億㌦、Revenueは1.45億㌦、Hold%は11.5%、当月税収は7300万㌦に達する。
税率も51% と高いが、売り上げ、事業者収益、税収も現状米国一位となり、モバイルでの勘定開設者は既に1130万人に達している。
ワイオミング州は西部山岳地域の小州(人口57万9000人)で、固定施設はなくオンライン・モバイルのみでのスポーツブックの提供となる(事業者は5社)が、2022年9月単月のHandleは1357万㌦、Revenueは193万㌦、Hold%は14.2%、税収は11.5万㌦(税率は10%)に過ぎない。

米国では州毎に制度も規制も異なるため、一般解は無いのだが、オンライン・モバイル手法を認め、一定の競争環境の下で施行している州では、市場自体を大きく捉えることができるため、売り上げも多く、事業性もかなり良くなる。
人口が大きい都市を抱える州の場合には更に市場は大きくなり、売り上げも収益も向上する。
勿論これに加え、制度や規制を抑制的にするか否かでも、売り上げや収益は大きく左右されることになる。
要は如何なる市場を構築していくのかという為政者による考え方次第で市場の大きさや収益レベルも変わってしまうことになる。
これには米国でも様々な考え方が存在し、異なる制度と市場が州毎に併存しているといえるのかもしれない。
スポーツブッキングの施行はリスクをうまく管理し、一定数の顧客を集客できれば安定的な収益をもたらすことができる。
更に、設備投資コストは巨額とはならないため、顧客を囲い込み、市場を拡大することができれば、売り上げ、利益も増し、事業性は格段に向上する。
このための最適な手法はオンライン・モバイルしかなく、(閉鎖的な施設内では無く)サイバー空間でできる限り多くの顧客を囲い込むことでこれが可能になる。
かつ提供できうるスポーツ種や賭け手法をできる限り柔軟に認め、制度的な制約要因をできる限り排除することが、スポーツブッキングの理想的な市場としての発展をもたらすことに繋がるといえる。

(美原 融)

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