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2022-12-05

186.スポーツブッキング ⑳オッズメーキングのリスク管理(1)

勝ち負けのオッズを胴元が提供するスポーツブッキングは明らかに胴元に理論的なリスクは残る。
勝ち負けに賭けるのは顧客だ。
チームや選手の強さ・弱み、過去の実績等の情報は胴元も顧客も当然織り込み済みになり、胴元が提供するオッヅの高低次第では、人気が偏り、試合の結果顧客が勝ち、胴元が大損するという可能性はゼロではない。
例えばラインの両側に一対のオッズが常に提示されるのだが、確実に強い、勝ちそうなチームがある場合、例えオッズは低くとも顧客の人気と賭け金行動は一方のチームに偏ってしまう性向がある。
反対のポジションのオッズをある程度魅力的にしても顧客が反応しなかったとすれば、結果的に顧客が勝ち、胴元一人のみが大損することになりかねない。
勿論こうならない様に胴元としてのリスク管理を図ることが運営の常道になる。
では如何なるオペレーションをしているのであろうか。

オッズ提供の仕組みは、顧客の賭け金行動が賭け金総額で見てラインの両側に平均的になされれば、原則負けた方の顧客の賭け金で勝者となった顧客への払い戻し見合いとして相殺できる。
オッズの仕組みにコミッションを予め埋め込んでおけば、胴元にとり勝ち負け等は関係無くリスクが無くなり、コミッションのみを取得できることを意味している。
よって胴元の行動パターンとはどちらか一方の側に顧客の賭け金総額(胴元にとってのエキスポ―ジャー)が偏る場合には、オッズを修正し、できる限り両側のエキスポ―ジャーが同等になるように顧客を誘導する行動を取る。
エキスポ―ジャーが両側でバランスする限り、大きなリスクを取らずに、確実に収益を得ることができるためで、オッズの頻繁な修正は効果的なリスク管理の一手法になる。
これは結果として賭け金行動の平準化を志向する胴元のリスク管理の一つになるが、必ずしも積極的なリスク管理とはいえない。

より積極的なリスク管理とは胴元にとっての一定のロスリミット(Loss Limit エキスポ―ジャー総額としての損失上限)をプログラム化してシステムの中に組み込み、顧客の賭け金行動を見て、オッズを修正していくことにある。
事業者にとっての一定の理論的許容損失額上限を設定し、理論的な損失が積み重なり上限迄いくとそのセグメントの賭けのオッズをシステム的にブロックし、顧客が賭けられないようにするわけだ。
実態は賭けても同じ金額しか戻らないオッズにすれば、誰もかけずに賭けは成立しなくなる。
勿論顧客が反対側に賭ける場合には、損失が減ることになるため、これは胴元としても積極的にアクセプトし、状況次第で反対側のブロックを解除し、オッズも再度設定する。
尚、人間がこれを個別にモニターし、処理しているわけではなく、コンピューターが全ての賭け金行動をモニターし、フィルターにかけ、一定のロスリミットに到達すると警告(Alert)がなされ、常時これをモニターしているリスク管理責任者が(オッズを変えるという)必要な行動をとる。
このロスリミットの考え方はMarket Limit, League Limit, Event Limit, Node Limit, Player Limitという形で、マーケット全体、リーグ戦、個別の試合、個別の顧客という具合に一般的な考えから始まり、個別の試合、顧客に至るまで多層的なヒエラルキーとして構成されることが通例だ。
通常これに加え、顧客による大きな金額の疑わしい賭け方や予測可能値とは反対の方向への異常な賭け金行動が生じる場合等もシステムがリスクとして判断し、ブロックや警告の対象となる。
これら要素をシステムが自動的に捕捉できるように全ての賭け金情報をフィルターにかけ、必要な場合警告を出すように予め設定しておくわけだ。
この前提で事業者のリスク管理職員がモニターすることになるのだが、システムが機能している限り、職員は全体のリスク管理ではなく、払い込みがなされる顧客の賭け(ベット)金行動の動向のモニターのみに集中できる。
考慮すべき事象が生じると、その時点で職員が調整や対応が必要となる事象か否かを判断し、必要な措置をとることになる。
安定的な運営とリスク管理の一部をシステムに委ねつつ、潜在的リスク事象とエキスポ―ジャーの管理のみを人間が必要に応じ、対応するという考え方なのであろう。

尚、その他のリスク管理の一手法としては、Layoff Wagerと呼ばれる胴元による行為が制度的に認められている。
これは胴元の賭け金行動が一つの方向に極端に偏ったりする場合で、オッズの修正のみで顧客の行動が変わらないときに、このリスクとエキスポ―ジャーを縮減するために、別のスポーツベッテイング事業者から(自らの名を開示し)リスクの一部をオフセットするベットを購入する行為をいう。
要はオッヅを支えずに、その反対のポジションを別の事業者から買い、相殺することにより、まんが何時のリスクとエキスポ―ジャーを減らすことを意味する。
また市場全体からみても、一つのゲームで市場参加者の誰かが大負けすることのないような事業者間の協調的な行動でもある。
これにより一部リスクを効果的にヘッジすることになるのだが、勿論これは市場には情報を開示せず、こっそりとやるわけだ。
スポーツブッキング事業者は一義的にはmarket makerであることが求められ、個別試合の勝ち負けには関係なく、安定的な収益を志向することが求められているといっても過言ではない。
尚、米国では州際間のLayoff Wagerは連邦法の規定(有線法)により禁止されている。

この様に、スポーツベッテイングにおける胴元のオッズ設定とは、胴元のリスクが一方に偏らないように、常にバランスをとり、両側のオッズを調整しながら設定することにある。
これはリスク管理の王道でもあるのだが、胴元が大負けする確率は少なくなるとはいえ、逆に胴元が大勝ちするようなオッズ設定もありえないことをも意味している。
この意味ではスポーツブック事業者は、彼ら自身がギャンブルをしているわけではない。
潜在的なリスクを縮減しながら、安定的な収益レベルを志向しているともいえる。
例え安定的な利益でも顧客層をネットにより幅広く増やすことができれば、薄利多売を実現し、ビジネスとしてペイできるようになる。

(美原 融)

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