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2022-11-14

183.スポーツブッキング ⑰オッズは誰がどう作るのか?(3)

スポーツブッキングのオッズはMoney Line, Point Spread, Total, Proposition等賭け事の種類毎にかつ賭けの対象毎に設定される。
この内、試合におけるチームの単純な勝ち負けを競うのはMoney Lineのみで、Point SpreadやTotalは各チームの得点結果が一定の範囲以上か以下か、両チームの総得点数が一定の値以上か以下か等を賭けの対象とする。
スプレッド(一定の範囲内の結果)という賭け方は1940年に米国人Charles K McNeilが発明したのだが、勝ち負けではなく、試合の結果の正確さを予測することを賭けの対象とする。
勝ちそうなチームが何点以上で勝てるのか、負けそうなチームは何点取れるか、両チームがあげる総得点数はどの位になるのか等ということだ。
この場合、チームが勝っても、賭けで負けることもあり、この逆もある。
顧客にとっても、胴元にとっても、単純な試合の勝ち負けは関係なくなってしまう。
胴元は、当初に提示したオッズに顧客がどう反応し、賭けてくるか次第で、範囲の設定を自由に変えることができる。
オッズとはFavoriteとUnderdogが以上、以下で対になるのだが、一定の比率でViG(コミッション)がオッズに反映されているため、両側に同等のボリュームの賭けがなされれば、リスクもなく、事業者は収益を確定できる。
オッズは顧客が賭け行為を行い、胴元がこれをアクセプトした段階で当該顧客との賭け行為は固定するが、その後の状況次第で胴元はオッズを変えるため、顧客にとってもどの時点で賭けるかは、勝ち金が変動するためかなり重要な要素になる。

尚、このPoint SpreadとかTotalは、得点数が大きくなるスポーツ種に向いている。
例えばバスケットボールやフットボール等だ。
バスケットは短時間に高得点を取り合うことはごく普通のゲームだ。
フットボールも、フィールドゴールで3点、タッチダウンで6点と、状況次第では大きく点数が動いてしまう。
得点数の動きが大きくぶれる可能性が高いわけで、一定の範囲をとると、この枠内に得点が入るか否かを予想することは試合の推移を楽しみながら、賭け行為そのものも楽しむことができる。
一方野球はそうはいかない。ホームラン一発、1点差で勝負が決まってしまうため、得点差や総得点があまり大きくならなくても勝敗が決まってしまうのだ。
このような低得点で推移するスポーツ、例えばメジャーリーグ野球MLB(Major League Baseball)にはRun Lineと呼ばれる賭け方があるが、これはPoint Spreadの野球版みたいなものだ(同様に、NHLのホッケーにはPuk Lineと呼ばれる賭け方があるが全く同じである)。
MLBのRun Lineは、(Favorite)― (一定の数値)、(Underdog)+(同じ数値)として提示され、デフォルトの数値は1.5で範囲が極めて狭いことがわかる。実際の野球のオッズの表示は例えば下記のようになる。
これでは賭け方が頭にはいっていない日本人にとり、解りづらく、小数点方式でないと誰も興味を示さないかもしれないが・・

ホームチームは下Run Line OddsMoney LineTotal
巨人+1.5 (-120)-130Over 7.5(-110)
阪神+1.5 (+100)+110Under 7.5(-110)

SpreadやTotalは引き分け(Push, Tie)もありうるため、0.5単位で設定されることが通例だ。
引き分けで賭けが不成立となり、賭け金返却となる手間を避けるためでもある。

これらオッズ設定のタイミングはスポーツ種、試合によっても異なり、かなり前から開示されるものもあれば、試合の1~2週間前というのもある。
胴元からすれば早めにオッズを開示し、賭けを募る方が全体の賭け金額は大きくなる。
特に大きな試合や人気を呼ぶ試合等はかなり前からオッズが提示される。
NFLのシーズンになるとかなり前から各週毎に提示されるし、シーズン中のMLBとなると毎日オッズが改訂され、公表される。
人気のある試合や注目を集める試合には関心も高く、一般顧客の勝ち負けに関するパーセプションが、顧客の賭け金行動を誘引し、これが胴元によるオッズ変更をもたらすという関係にある。
胴元はどちらのチームが勝つかを予想すること等には興味がなく、ラインの両側にできる限り同量の賭け金が沢山集まるようにラインやオッズをどう修正していくかが彼らの行動原理なのだ。

オッズ・コンパイリングというオッズを作る業務の判断は、情報や過去・現在の統計値等の分析と共に、専門家の経験・感等をベースとするのだが、スポーツ種によっては、統計学的・数学的に判断しやすいスポーツ種と経験がものをいうスポーツ種に分かれるようである。
複数の選手がチームとなり相対するスポーツ試合は、総合された力が試合の趨勢を決める傾向があるため統計的・数学的判断がしやすい。
一方、一対一となるスポーツ試合は試合の趨勢を決める要因次第では結果が大きくぶれてしまう可能性もあり、統計的判断だけではうまく推定できないという性格もある。
前者に関しては一定のアルゴリズムに基づき、最適オッズを判断し、提供できるソフトウエアが開発され、これが実践に採用されている。
後者に関しては、統計的判断は補完的にしか機能しない側面もある。昔はインハウスで専門家グループを社内で囲いこんでオッズメーキングをしていたのだが、今でもこれが完全になくなったわけではない。
但し、2000年代以降、BtoBとしてカジノ施設やスポーツブック事業者にオッズを計算し、提供する専門企業が生まれたり、BtoCで専門事業者に運営を丸投げするビジネスモデルが実現したりするようになり、ラスベガス等でも過半のカジノ施設がかかる専門企業と連携・協力し、オッズを提供する体制が生まれた。
ITC技術の進展やビックデータの処理技術の向上、AIの導入等は、この世界にスポーツデータ分析会社が参入することを可能とし、今やこの業は複数の企業が複雑に絡み合い協業する仕組みになりつつある。

(美原 融)

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