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2022-11-07

182.スポーツブッキング ⑯オッズは誰がどう作るのか?(2)

「ラインを設定する」あるいは「オッズを設定する」という表現をスポーツブッキングでは用いるが、類似的な表現になる。
例えば、バスケットの試合の場合等でスプレッド(勝ち点の差異)やトータル(総得点)に関しては、胴元は勝ちそうなチームにマージンを設定し、ハンデイをつけることにより、二つの結果(勝つ側と負ける側)のオッズに対する顧客の賭け金が胴元から見れば同レベルになるようにする。
このマージンをラインと呼び、ラインの両側に異なるオッズを設定することになる。
ラインやオッズは、胴元が一つの試合をどう評価したかの指標になり、これを見て顧客が賭け行為を判断する。
ラインを設定したり、オッズ設定したりすることは、昔はスポーツブッキング事業者のもとにプロの専門家(Odds Compilerという)がおり、過去の統計データや、経験、かん等を駆使して、設定していた。
こうなると芸術作品のようなものという評価が昔はあった位で、素人には理解できないノウハウがあったのだろう。
一方現代社会では、さすがにこういうことは過去の遺物になっている。
過去の膨大な統計データ等を分析したり、個別の選手のパーフォーマンスを画像診断から事細かく解析したりして、あらゆるデータをデジタル化し、これを加工・分析し、チームとしての勝敗の基本的な予測可能性を合理的に判断するのは今や人間ではなく、ソフトウエアやアルゴリズム、AI等を用いている。
勿論全てではなく、ベースとなるオッズの判断をシステムにより選択させ、リスク並びにエキスポ―ジャーの最終的な判断、追加的な情報等の評価に関しては、事業者のリスクマネージャーが判断し、必要な場合にはオッズを修正するという仕組みが過半の様である。
もっともラスベガスのストリップ地区の過半のカジノ施設は、第三者たる事業者にスペースを貸し、スポーツブックラウンジを運営させ、単に収益を分担する仕組みとなっているが現実なのだが、これはあまり知られていない。

スポーツブッキング事業者がどうオッズを設定するのかは、各事業者固有の手法や考えもある模様だ。
もっとも全てのシステムやソフトウエアは類似的な原理やアルゴリズムに基づき動いており、ここに大きな差異があるわけではない。
微妙に異なるのは、各事業者が固有の事情により、リスクやエキスポージャーを判断したり、新たな情報をどう評価するかに違いがでてきたりするためである。
特に試合前になると、直前迄のチームや選手の情報・状況の変化を反映し、頻繁にオッズを変えることになる。
よって試合前は、毎週、毎日オッズが変わることもある。
もっともたまにはUnderdog(負けそうと事業者が予想するチーム)とFavorite(勝ちそうと事業者が予想するチーム)のオッズが別事業者間で逆になるということもあるみたいだ。
これを見つけ、異なる事業者間のオッズをチェック・比較し、鞘をかせぐという芸当をする顧客もいる。
米国ではかかる顧客をデータ上支援するために有料会員向けの専門オッズ比較サイトなるものも存在し、簡略に異なる事業者間を比較し、戦略を立てられるため、結構な人気がある。
事業者程ではないにせよ、顧客側もしっかり様々な情報を得て動くため馬鹿にできない。
一方、ほぼ全てのスポーツブッキング事業者は、サブスクリプション契約により競合他社のオッズを取得し、比較し、分析することを実践している。
市場にてどちらが賢く立ち回り、顧客の賭けを引き寄せるかというゲームみたいな側面もある。
とはいえ将来的には人間的要素が少なくなり、AIとマシーンラーニングに代替される時代がくることになるのだろう。

オッズの設定も過剰なリスクを取らない配慮がなされる。
事業者にとり、試合でどちらのチームが勝とうが負けようかは関係なく、全体の賭け行為の枠組みとして利益(コミッション)を得ていると考えた方がよいかもしれない。
設定するラインの両側のオッズが顧客から見て合理的で、両側に同等レベルの賭け金が蓄積すれば、胴元にはリスクはない。
もっとも勝ち負けの合理性や得点の正確性の判断は、様々なデータとアルゴリズムを駆使して、オッズを設定する。
このためあらゆるスポーツ種やチーム、選手毎の過去の履歴、対戦相手との得手、不得手、出場選手の強さ・弱さ、市場における人気等あらゆる情報やインテリジェンス、データーベースをAIやアルゴリズムを駆使して、勝ち、負け、得点数等のオッズを設定し、顧客に提供する。
この様な情報収集と共に、オッズの設定もシステム的に処理してスポーツブッキング事業者に提供できるIT事業者が欧米諸国には存在する。
同様に顧客の賭け金行動をモニターし、全データをリアルタイムでフィルターにかけ、疑わしい賭け方や異常な賭け金行動を特定し、警告を出すシステムを提供する協力事業者もいる。
カジノの様に単一事業者が自らの能力で、個別施設内で全てを管理するというビジネスではないわけで、ソフトウエア・ハードウエアを提供する企業や、これを利用し一種のプラットフォームをサイバー空間に構築し、顧客とのインターフェースを担うスポーツブッキング事業者、情報やデーターベースを提供したり、オッズを提供する企業、顧客の賭け金行動をモニターしたりする企業等様々異なる機能を果たす企業群が欧米のスポーツブッキング業界には参加している。

このように、スポーツブッキングの機能や業務の一部が多様な企業によりなされ、全てがシステム化され、分散化されることは全体のリスクを縮減する合理的な考えではあるのだが、逆に制度的には関係者が増えることにより、どうこれを規制の対象にし、システムや施行の廉潔性を担保できるのかという課題を抱えることになる。
もっともデジタル化、業務の分散化は、スポーツブッキングへの参入障壁を低くする効果がある。
米国では今や大企業から中小企業のスタートアップ迄スポーツブッキング業に参入しつつある。
この場合、規制はどうあるべきかという新たな課題が生じることになるのかもしれない。

(美原 融)

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