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2022-10-24

180.スポーツブッキング ⑭ブッキング企業とスポーツリーグ・チームとの関係

当たり前の話だが、米国でもひと昔前までは、組織としてのスポーツリーグやリーグ傘下のスポーツチーム自体がスポーツブッキングを推奨したり、自らがスポーツブッキングに関わったりすることはタブー視されてきたといってよい。
スポーツ興行のマネージメントに参加するリーグやチーム、あるいは選手・コーチ・監督・審判等がスポーツ賭博に関与すれば、スポーツ自体の清廉潔癖性を問われることに繋がりかねないという懸念があるからだ。
勿論現在でも、選手、監督、コーチやチーム、リーグ等の関係者はその家族を含めて、個人としてスポーツブッキングに参加することは制度的に禁止することが通例だ。
これは例えば選手個人のけがや不調等の非公開個人情報を把握している主体が、この情報を悪用し、当該選手が関与するベッテイングで有利なポジションにたつことが想定されるからだ。
昔はプロスポーツ界は給与レベルも低く、外部からの誘惑がありえたのかもしれないが、今や一部リーグでは選手を含め極めて高給のビジネスになっている。
不正に手をそめる報酬は、自分の正当な報酬を超えることはないだろうから、露呈した場合、一生を棒に振るわけで、最早不正は選手にとりペイしなくなってきているといえる。
更にはスポーツブッキング事業者や関連しうるスポーツデータ分析がスポーツブッキングの顧客の賭け金行動をAIを用いて常時モニタリングしており、通常みられない異常な賭け金行動やその原因となった試合の運び方を特定し、不正や八百長等を摘発できる仕組みが存在する。
不正に係る賭博はオッズの高い側に大きな金が瞬時に賭けられることよりシステムで監視すれば露見しやすいのだ。
かかる背景により、昔のように不正や八百長等のおかしな試合ができにくい仕組みが存在していることも事実といえる。
またスポーツの賭け方も単純にどちらのチームが勝つかではなく、得点数が多いアメリカンフットボールやバスケット、ホッケー等は得点差(Spread)や総得点の多寡(Over/Under)等を賭けの対象にする賭け方が主流になっており、こうなるとどっちのチームが勝とうが負けようが関係ないわけで、八百長や不正が成立しにくい環境の賭け方であることは間違いない。
かかる事情が相まって、米国民の認識もスポーツブッキング自体の健全性や安全性を認知する方向にあるといえる。

一方組織体としてのプロリーグやチームは全く別で、ここ数年の間に急速にスポーツブッキング事業者や関係者との連携・協力・協働等のパートナーシップやネットワークによる連携を深めつつある。
米国ではTier2のスポーツブッキング種に関してはリーグが各スポーツブッキング事業者に対し、有償で公式リーグデータやその他の試合履歴を取得することが既に慣行になっている。
かつ、データ供与の関係は単純ではない。
大手スポーツ関連データ分析・処理会社はリーグの元請けとなり、公式データを分析・加工し、付加価値をつけて様々なスポーツブッキング事業者に再販売・提供している。
また彼らはリーグや傘下チームに対しても今度は別の角度からこれらデータを分析・加工し、試合の戦術や展開等に関し有益なデータ分析情報を提供するという相互関係にある。
かつスポーツブッキング事業者に対しても、AIを駆使し、オッズを提供し、顧客動向を24時間分析し、その調整をしたりするなどして全体の枠組みの中でコアな機能を提供するまでに至っている。
米国スポーツリーグはこれらデータ分析処理会社と複数年のパートナーシップを締結するとともに、新株発行引き受け権をも取得し、何とこれら企業の株式をも取得している。
またリーグ傘下のスポーツチームは独自に様々な大手スポーツブッキング事業者と個別の複数年パートナーシップを締結する動きが広がっており、一定地域に関し、独占的に広告宣伝や選手の肖像権・試合データの使用・共有等の連携・協力の事例があちこちに生まれている。
これはチームにとってはチームの無形資産のMonetizingであるとともに、スポーツブッキング事業者にとっては、チームに関わるベッテイングの売り上げ増、チームロゴを利用した広告宣伝等お互いに金銭的なメリットがあるためでもある。
チームのホームスタジアム内にスポーツブッキングラウンジを設けることなどもかかる連携・協力パートナーシップの一環だ。
更には、スポーツリーグやチームがスポーツブッキング事業者と共同でスポーツブック免許を申請することを認める州もでてきており、実際の申請行為もなされている。
これはリーグやチームが自分たちの試合を含むスポーツブックの施行者になることを意味し、昔であれば考えられない事象が生まれているともいえる。

これは

  1. スポーツ試合とこのスポーツに関わるスポーツブッキングとは直接的な関係は薄く、特段の利害相反の関係は限りなく薄くすることが可能になるというスポーツ関連主体の認識が拡大していること、
  2. ベッテイングのオッズの設定や調整をソフトウエアシステムやAIが担うようになると、そこに人為的な操作ができる余地は限りなく少なくなり、公平性・透明性が貫徹するようになるという認識が段階的に広まりつつあること、
  3. スポーツに関わる八百長や不正は理論的には起こりうるが、現在では様々な技術等により限りなくその発生を抑止したり、全ての賭け行為をAIが常時モニターしたりすることにより、限りなくできにくい状況が存在していること、

等の事情があるからなのであろう。勿論現状のシステムはいまだ十分とは言い難い。かつ米国における現状の規制の網は完璧とはいいきれず、技術的なループホールも理論的にありえるため、今後の実践において仕組みを補強することになっていくのだろう。

スポーツ試合や選手等のスポーツ関連情報のデジタル化の進展は、データの分析・加工・付加価値化により、リーグ、チーム、ファン・観客、スポーツブッキング関連事業者間で情報のやりとりや共有というネットワーク化をもたらし、スポーツとスポーツブッキングとをより親和性の高い関係にすることをもたらしたのかもしれない。

(美原 融)

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