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2022-10-10

178.スポーツブッキング ⑫フォーマットの選択(3)

米国における2019年以降の制度的展開は、フォーマットの選択が為政者にとりどの様に判断されてきたのかを考察する上で極めて興味深い事例を提示している。
制度を設けたトップバッターはニュージャージー州で、連邦最高裁の判示前に、連邦最高裁が肯定的な見解を示すことを発効条件にして、2018年6月には州法を成立させている。
この制度は、その後制度構築をし始めた様々な州にとり参照できる先行事例となったため、ニュージャージーモデルと呼ばれている。
問題は誰に、どのようなフォーマットで、どうスポーツブッキングの施行を認めるかなのだが、新しい賭博種を認めるに際し、既存の賭博施設(カジノ、競馬場等)を制度上の施行者とする考えを基本とした。
施行者の清廉潔癖性は既存のカジノ免許付与の前提として担保されている以上、このために新たな制度や新たな行政の枠組みを設けることは一切不要になる。
この場合、既存のカジノ施設内に固定施設としてスポーツブッキングのための対面のラウンジを新たに設けるだけであるならば、カジノに関する免許制度の大枠を超えるようなことはない。
制度としては極めて単純化できるわけだ。
かかるフォーマットはラスベガスに既に存在し、ニュージャージー州の許諾施行者にとってはこれを踏襲すればいいだけの話になる。
但し、これだけではアトランチックシテイを訪問する観光客に対し、遊びの手法を一つ増やすだけの効果しかない。
ニュージャージー州の面白い点は、これら固定施設(Retail)に対し、対面(In-Perso)としてのフォーマットのスポーツブック免許を付与するとともに、同時にオンライン・モバイル(On-Line/Mobile)のフォーマットをも認める措置をとったことにある。
すなわち二つのフォーマットを単一事業者が自由に展開できるようにしたわけだ(これを所謂ハイブリッドモデルとも呼称する)。
これを確実にかつ早期に実現できるようにカジノ等ライセンス事業者と第三者たるスポーツブッキング事業者ないしはソフトウエア・ブランド提供者(Skinとも呼ばれる)が協定を締結し、オンライン・モバイルフォーマットでの施行をリスクと収益を分担して担うことを認めている。
勿論当該スポーツブッキング事業者やソフトウエア・ブランド提供者等は別途免許取得が義務付けられる。
これにより、既存のカジノ事業者等は対面固定施設・オンラインという二つのフォーマットで仕事の幅を広げ、収益を増大できると共に、スポーツブッキング事業者やソフトウエア・ブランド提供者も既存のカジノ事業者等と連携・協力することにより、新たな事業機会を得て、業容を拡大することができるようになった。
今ある現実との妥協案的な側面もあるが、2019年以降初期の段階では、このニュージャージーモデルが、その他の州でも模倣され、施行されることになった。

一方、その後の米国各州の制度構築の展開は、フォーマットの多様化と、その実践の在り方に多様な考え方が採用されるようになってきたことにある。
ニュージャージー州と類似したハイブリッドモデルでも、オンライン・モバイルに登録するためには、まず既存の固定施設(カジノ)で本人確認の上登録する義務を課す州がでてきた。
二回目以降は不要とはいえ、まず本人が既存の固定施設へ赴かなければ何もできない仕組みになるが、無制限でオンラインによる勘定開設を認めることに対する不安要素があったのだろう。
さすがに殆どの州でかかる規定は改正され、現状では手順を複雑化させた州は無い。

興味深いのは、フォーマットの選択に様々な考え方が生じてきたことにある。
州独自の事情により、オンライン・モバイルは認めず、あくまでも既存のカジノ施設や競馬場施設等固定施設のみで対面というフォーマットのスポーツブッキングしか認めない州(デラウエア州、サウスダコダ州、ウイスカンスン州、ノースカロライナ州、ミシシッピー州)がでてきた。
あくまでもカジノと同様に制限的な枠組みにとどめ、オンラインという形で一挙に州民に賭博行為を開放することに躊躇があったためである。
これとは逆にオンライン・モバイルによる施行のみを施行数を限定して認める州(テネシー州)、もでてきた。
オンラインに伴うリスクは管理可能と判断し、ロッテリーと同様に、賭け単価や賭け金額が高くならない遊びに過ぎないならば、積極的にこれを認めるという考え方になる。
これら二つは制度も規制もその内容はかなり異なる。
前者は既存のカジノ施設等の枠組みのみを利用し、あくまでも固定施設を訪問する顧客に対するプラスアルファのアメニテイに過ぎない。
かつ既存のスポーツブッキング事業者との連携・協定を認める仕組みである点はニュージャージーモデルと同じだ。
一方、後者は固定施設もなく、規制の対象はサーバーとソフトウエアを具備した企業体でしかない。
規制やモニターの仕組みも当然全く異なる考え方から構築されている。
その後の制度的展開の特徴は、多様な潜在的主体による施行を認め、施行免許を施行者の分類毎に定義し、免許を付与する州が表れてきたことにある。
例えば野球、アメフトスタジアム施設の所有者・運営者に対し、スタジアム施設内でラウンジとしての固定施設対面のフォーマットを認めたり、MBL、NFL等の特定のリーグやチームとスポーツブッキング事業者が共同で免許を取得したりすること(メリーランド州、アリゾナ州、イリノイ州等)バーやレストラン等にセルフキオスク的な簡易機械を設置したり(モンタナ州)、同様に州内の大手スーパーマーケットに免許を与え、スーパーに同様な施設設置を認める(オハイオ州)等である。
スポーツ試合を担うチーム自身がスポーツブッキング事業者?と訝しがる向きもいるだろうが、単純な勝ち負けをあてるMoney Line以外のスプレッド、トータル、MBLのランライン、プロポジションベット等がオンラインというフォーマットにより主流の賭け方になってくると、どちらのチームが勝とうが負けようが関係ない賭け方になる。
これは伝統的な利害相反の考え方も既に市場では変わりつつあることを示唆している。

複数フォーマットの併用、即ち固定施設、オンライン、モバイル等の提供手法を問わない制度や規制の枠組みは、スポーツブッキング自体が安心、安全な庶民のエンターテイメントとして定着し、人気を集めている証左なのかもしれない。
但し、米国の状況はあくまでも米国固有の事情に依拠している側面もあり、単純な形で米国の制度モデルが他国にも適用できると判断するには若干無理があろう。
規制としてはかなり甘いからである。

(美原 融)

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