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2022-07-25

167.スポーツブッキング ①公営競技とどこが違う?

公営競技(競馬、競輪、競艇、サッカー)も所詮スポーツ、これも日本において認められているスポーツブッキングの一部だと主張する人がいる。
後者をスポーツに係る賭博という広い概念として捉え、現在の公営競技の範囲を広げようとする主張なのかもしれない。
欧米諸国でも両者は存在するが賭け金をプール化して勝者に分配する競技(Racing)賭博となる日本の公営競技と欧米で今流行しているスポーツブッキングとはかなりその内容は異なり、通常これらを峻別する。
全てをひとくくりにしてスポーツ関連賭博は同じという考え方には若干違和感がある。
解かり難い話だが、この二つは何が異なるのだろうか?

公営競技のオッズは顧客の人気(投票)で決まる。
売り上げから税と費用として一定率を控除した金額をプール化したものが配当総額になり、勝者(あたりとなる券を購入した人々)がこれを総取りする。
配当総額は一定故、人気がある券は、当然配当は低くなる。
人気の無い券があたるとこれが大当たりとなるわけだ。
配当の計算は機械的に処理できるが、トータリゼータと呼ばれる大型コンピューターを利用し、券を売ると同時に配当の増減を同時に計算し、大画面(ボード)に表示する。
顧客は券を買う前にどの位の配当(どの位の人気)かを把握し、賭け金行動をする。
こういう賭博の仕組みをパリミュチュエル賭博(Parimutuel betting)という(仏語で、「顧客同志の賭け事」という意味だが、1867年仏蘭西人オレールが発明した賭けの一手法で、オッズを機械的・公平に決められ恣意性が入らない考えになる)。
Totoやバスケットの予想系はこれとは少し異なるが類似的で、15ゲームの勝ち、負け、引き分けを予想し、全て正解なればあたりになる。
これも一定額を控除し、プール化した配当総額を勝者が取るという基本は同一だが、オッズが提供されないことが違う。
あたる確率は極めて低く、オッズも提供されないため、高額では賭けず、低額で賭け合うことが通例だ。
(英国ではオッズの無いかかる賭博をSports Pool Bettingという。
更にややこしいのだがネバダ州ではパリミュチュエル以外のスポーツブックをSports Poolと定義する。
誤解を招きやすいので他州ではあまりこの用語はみかけない)。
これら公営賭博は、控除率は法令で決まっており、費用もほぼ硬直的で、何もせずとも売り上げが伸びれば伸びる程、主催者の取り分も増えてくる。
公的主体が胴元となりやすいのは、公的主体が自ら賭け事をしているわけではなく、場と仕組みを提供し、顧客に賭けさせているだけで、リスクも限定され、確実に税収を上げる可能性が極めて高いビジネスとなるからだ(因みに法律的には地方財政法上は地方公共団体等がなす営利事業として整理されている。
公営賭博とは国や自治体にとり、税収を増やすビジネスということになる)。

ではスポーツブッキングとは何か?上記と何がどう違うのかということになるが、プール化した賭け金を勝者が分け、オッズは顧客の人気が決めるという賭博方式ではなく、胴元がデータ・ベースやAI、アルゴリズムを駆使して、どちらのチームが勝つか、負けるか、どの位の総得点になるのか等を二組のオッズの選択肢で提示し、この胴元のオッズを評価・判断して、顧客が賭けるわけだ。
あらゆる賭けのオプション(どちらのチームが勝つか、どの位の点数を挙げられるか等)が顧客に提供される。
賭け方の選択肢や組み方が多様であることも大きな特徴だ。
例えば単純勝敗予想(Straight betting)、この中にはマネーライン(プラスマイナスで勝ち負けの各々のオッズを提供する)、ハンデイキャップ付き点数予想(Handicap, Run Line, Point Spread等と呼ばれる。
最終スコアにハンデイを与え、結果を予想する), 両チーム総得点予想(Over/Under,合計得点が胴元設定値を上回るか、下回るかを予想する)等がある。
その他、複数の賭けを組み合わせる(Parlays), 特定の事象が起こるか否かを賭ける(Proposition)、単一のゲームではなくシーズンの結果に賭ける(Futures)、現在行われているゲームの際中にその推移を予想し、賭ける(In Game betting)等で、誠にきりがないが、スポーツファンにとり結構楽しめる仕組みでもある。

この様に公営競技の胴元は何もしないで券を売るだけだが、スポーツブッキングの胴元は試合の推移を想定し、一定のオッズを顧客に提供するという賭博行為への積極的な関与が前提になる。
勿論このためにデータ・ベースや、AI、アルゴリズムを用い、システムを駆使して、オッズを設定、調整し、大きなリスクを取らず、一定の利益を確保するという行動が必要になってくる。
基本の最適解はシステムが設定するが、市場の動きを判断し、オッズを調整するには一定の経験と能力も必要だ。
一般的にプール化した賭け金を勝者で分配する手法では、限られた賭け方しかできない。
一方スポーツブッキングは、賭け方やオッズを胴元が自由に設定でき、顧客の遊ぶ選択肢を増やし、ゲームの推移や状況変化を判断し、次の展開を賭けられることがその面白さでもあるのだ。
尚、今や公営競技もスポーツブッキングも通常インターネットを介在し、特定のWEBサイトをプラットフォームとして開設し、ここで券を販売したり、顧客に賭けさせたりするという意味では、デジタル化された対顧客インターフェーズは似ている。
但し、賭け行為への胴元の直接的関与という意味では、公営競技とスポーツブッキングは根本的に異なり、誰が施行者となるべきか、公と民の関係はどうあるべきか等、異なる前提での議論が必要になり、あるべき規制の在り方や制度はかなり異なったものになることを理解する必要がある。

競馬、競輪、競艇、オートレース等は賭博の目的のためだけに行われる競技になる。
一方サッカーやバスケットボールは、スポーツ試合を楽しむために行われるもので本来賭博行為とは直接のリンクは無い。
一方世の中の趨勢は、賭博とは関係無いスポーツ種が段階的に外から賭博行為の対象にされつつあるともいえる。
これはスポーツ界(団体・組織・関係者)とスポーツブッキングとの関係性をどう定義していくべきかという新たな課題を提示することになる。

(美原 融)

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