2021-11-15
132.カジノ事業者のIR参画の在り方?
IR整備法は、原則として設置運営事業の整備と管理が一つの設置運営事業者により一体的かつ継続的に行われることを前提としている。
IRは中核施設群とカジノ施設とで構成されるが、これら施設を一体的に整備し、かつ管理することになる。
区域認定を受ける認定設置運営事業者がIRの資金調達を担い、施設を整備し、管理・運営すること、この認定設置運営事業者が別途カジノ免許申請を行い、カジノ免許を得てカジノ事業者たることを自明の前提としているわけだ。
勿論認定設置運営事業者が事業の一体性を保持しながら、中核施設の一部の運営等を第三者たる協力事業者等と連携・協力し、彼らに委託し、一部施設の所有と実質的な運営を分離することは認可の対象となるが認められている。
この場合の協力事業者とは認定設置運営事業者の株主であることもありうる。
一方、カジノ事業・カジノ行為に関しては、認定設置運営事業者がカジノ行為を切り出し、第三者へ委託することは禁止されている。
上記は、法が定めるIR事業の原則とは、所有と経営が一体化することを要求していると判断することができる。
但し、IR整備法は制度として上記原則の例外を認めている。
認定設置運営事業者が土地を第三者(認可施設土地権利者)から借り受ける場合、あるいは認定設置運営事業者は施設整備をせず、第三者(施設供用事業者)が施設を一体的に整備、所有し、この第三者から継続的に施設の共用を受ける場合である。
土地権利者は認可の対象、施設供用事業者は免許の対象になり、かつ後者の場合には認定設置運営事業者(IR事業者)と施設供用事業者とが事業協定を締結することが要求され、これも認可の対象にすることで、全体としての一体性を確保するという仕組みになる。
この施設供用事業という考えは極めて解かりづらいが、施設整備のための資金を調達し、全てのIR施設を整備・所有し、この一体を長期間認定設置運営事業者にリースする業務で我が国ではジェネコンやデベロッパーが得意とする所掌でもある。
認定設置運営事業者の所掌から資金調達と施設整備を切り出し、これを特定第三者に委ねるということだ。
この仕組みが複雑で解かり難い理由とは、①IR事業者(認定設置運営事業者)とは、施設整備を担わずソフトの運営・経営のみに特化する主体になる。
資金を調達し、施設を整備する施設供用事業者はあくまでも二次的、静的な機能を果たすにすぎず、事業をリードし、全体を経営する主体はIR事業者になる。
②この場合、IR事業者は資金調達リスクや資産保持リスクはゼロとなり、Asset Lightな会社になるが、事業の主要な収益を稼ぎ出す主体でもある。
一方、施設供用事業者は資金調達リスクを負い、施設を整備し、これを所有することになり、借り入れ返済原資、事業収益は全てIR事業者からもらう賃料になる。
投資規模が巨額になると、借入金の返済等の負担も大きく、かなりの賃料をもらう必要がある。
この仕組みは理論的には成立するのだが、実務的には機能しにくい。
リスクを担う主体がより大きな収益を自ら稼ぐ仕組みの方が、責任の一体感がより強固になり、理に適っているからである。
認定設置運営事業者は投資負担も資金調達リスクも無く、過少資本で巨額の収益とリターンを享受し、施設供用事業者が資金を借り入れ、ハコを整備し、その返済リスクを負うという仕組みは金の流れや事業としてのガバナンスに均衡がとれず、どうしても複雑になり、一体性の保持に歪みをもたらしかねない側面がある。
上記はカジノ事業者がIR事業にどう係わりあうかにつき、明示的ではないが、一定の制約があることを示唆している。
即ち、
- カジノ事業を含む一体的なIR事業の運営を担うのはIR事業者(認定設置運営事業者)であって、カジノ業はIR事業者が内部的に体制や人員を組織化し、管理し、実践する業になる。
第三者への一部業務委託は分野が限定され、カジノ業自体の委託はありえない。 - カジノ事業者がIR事業者に出資せず、あくまでも外部から、何等かのサービスを提供し、IR事業に関与することはありえないことではない。
但し、カジノ行為の委託や責任を伴う外部委託はできず、業務内容は限られる。
ブランド名提供や技術支援・指導等が考えられるが、ロイヤリテイーやその他の名目で巨額の収益を得る仕組みは、IR事業者からのカジノ収益の遺漏とみなされ、かかる仕組み自体をカジノ管理委員会が認めるか否かに関しては懸念が残る。
かつ、かかる関わり合いはカジノ事業者にとり経済的メリットがあるとも思えない。 - カジノ事業者が認定設置運営事業者に少数株主として出資する場合もありうる。
この場合にはカジノ事業者の一株主として参画することになるのだろうが、事業全体のガバナンスとコントロールは他の主要株主が担うことになるため、収益を生み出すカジノ行為を内部的にどう管理運営していくかという課題が残る。 - IR事業者から資金調達と施設の整備・所有を切り離す施設供用事業のスキームは、名目的な一体性は保持できても、事業のガバナンスは実務的に複雑になり、機能しにくい。
カジノ事業を担うIR事業者がリスクを担い、資金調達を担うことこそが一体性を確実に確保する手法だからでもある。
かかる理由により過去手を挙げた全ての都道府県等は、施設供用事業は採用しないことを公募の前提条件としたという経緯がある。
カジノ行為は収益の核となる事業となるため、主体的にカジノ業を管理・監督できる能力と経験・体制を持つ主体が主要株主となり、IR事業全体のリスクを管理し、責任を担うことが事業の一体性という観点からは好ましいことは明らかだ。
勿論これが全てではなく、他の可能性もあるのだが、事業のガバナンスやコントロールを余程しっかりしない限り、事業の一体性を保持することが難しいこともある。
(美原 融)