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2020-10-19

34.規制機関(カジノ管理委員会)の費用分担

カジノ管理委員会は、IR整備法に基づきカジノの規制・免許付与・監督・監視のために内閣府の外局として設けられた独立した国の機関で2020年1月7日に創設された。
その所掌は、カジノに関する規則等の制定及びその執行、カジノ事業免許等に係る厳格な審査(免許基準、申請、審査、有効期間と更新等)、カジノ事業者等に対する監督(内部統制・財務・会計制度)、カジノ関連機器等の技術面の監督、反社会的勢力の排除、マネーロンダリングの犯罪防止、ギャンブル依存症対策等)外国規制当局との連携、国際対応等かなり幅広い。
委員は5名、事務局は2019年カジノ管理委員会事務局組織令に基づき構成され、既に創設段階で95名以上の人員を抱え、増えつつあり、今後とも更に増える可能性が高い。
令和元年度予算では、カジノ管理委員会の設置等 2,910百万円、委員会の設立準備 345百万円, 委員会の運営 2,562百万円が計上され、令和2年度予算案(2019年12月20日閣議決定)では運営費用として3,813百万円が計上された。
いずれも一般会計からの支出になる。

諸外国ではカジノの規制を担う国ないしは州政府等地域の機関は行政府や立法府から独立した行政委員会として位置付けられ、規制の任を担うことが通例である。
これは利権が絡みやすい業の構図である以上、規制機関が立法府・行政府からできうる限り中立的な立場にあり、政治的・恣意的な影響を受けないようにするための制度的配慮でもある。
一方、これら規制機関の費用の財源は、税ではなく、主たる受益者たるカジノ事業者が負担すべきとし、特別会計を設け、様々な手法によりカジノ事業者から費用等(例えば規制機関運営費用、免許料、審査費用、罰金等になる)を徴収し、規制機関の運営財源に充当するという場合が多い。
税収をもたらすという公益性があるとはいえ、遊興施設は本来市民生活に必須のサービスではなく、税を投入し、これを規制し、管理する価値はないとみられているためでもある。

制度設計の議論を担った特定複合観光施設区域整備推進会議でも、納付金の一部としてGGR(売り上げ)比例部分の納付金と共に、「固定的なカジノ管理委員会の経費に相当する定額部分」を徴収すべしとしている(取り纏めP72)。
必要となる行政コストに対し、一定の定額負担を民間企業に求める事例は電波法に基づく電波利用料の例等もあり、中間報告は「固定部分に関しては必要な行政経費に相当する額を賦課する」としている。
所謂民間主体が負担する納付金にはGGR(売り上げ)連動となる30%と共に、この固定部分経費負担があることになる。
IR整備法第192条(国庫納付金の納付等)二項はこれを「カジノ管理委員会が行うカジノ施設に関する秩序の維持及び安全の確保を図るための必要かつ合理的な施策に要する費用のうち当該カジノ事業者に負担させることが相当なものの額としてカジノ管理委員会が定める額」としている。
「必要かつ合理的な施策に要する費用」とは一体何を示すのか、かつ「カジノ事業者に負担させることが相当なもの」との判断基準は一体何か、極めて不透明で、行政の裁量により恣意的に決められる内容になっている。
立法過程での議論は、カジノ管理委員会の全費用(人件費、活動に伴う全ての費用)となっている。
一方、企業組織や個人の個別の背面調査等の費用や許認可実務に係る費用は別途実費を徴収するという立て付けでもあり、この固定費用とは人件費や事務所等の費用で、令和二年度予算案でいえば、一般会計から拠出している38億円のことを示唆していると判断される。
尚、上述せる推進会議でこの固定費につき議論がなされたことがあるが、過去に遡り全てのカジノ管理委員会費用を累積的に負担せしめるのではなく、あくまでも免許交付以降の費用負担ということを確認している。

今後カジノ管理委員会の規則で詳細を取り決めることになるのであろうが、実体がどうなるのかに関しては様々な憶測を呼んでいる。

例えば;

  1. 立法政策途上の議論は全ての規制機関費用をカジノ事業者負担とし、年度毎に全ての規制機関の費用を転嫁しようとする考えでもあった。
    もし、この考えを充当すると三つのカジノ事業者が毎年最悪(あるいは最高)約40億円程度の費用負担を強いられることになる。
    これが「必要」かつ「合理的」な費用といえるか否か。
    どの程度の恣意的な判断がなされるかに関しては、カジノ事業者は知りようもない。
  2. 上限三つの区域認定がなされた場合、三つのカジノ事業者がこの固定費用を負担することになる。
    地域毎に売り上げ規模も事業の在り方も、収益の構図も異なることが予想され、どういう判断基準で三つの事業者と分担を取り決めるのかは現状不明である。
    口頭では政府高官は公の場で均等割りを示唆した経緯もある。
    均等割りが好ましくないのは、事業規模が異なる場合、公平な負担にならないからである。
    売り上げ比率に連動して固定費を決めない限り、施設間の不公平感は高まる。
  3. 全ての規制機関の費用をカジノ事業者が負担する構図は、規制機関とカジノ事業者の間で、好ましくない関係を醸成するリスクがある。
    規制を甘くしない限り、規制機関の歳入を確保できなくなるからである(この現象をトラップされるという)。
  4. 規制機関の費用の妥当性、監査、検証は本来第三者がこれを監査・評価し、冗長な支出を制限し、必要、かつ合理的なレベルに留めることが本来求められる。
    規制機関の費用に関するブランクチェックを規制機関自ら保持することは好ましくない。
    何等かの合理的メカニズムを設けない限り、官僚組織による歯止めのない肥大化・費用増をもたらしうるリスクが生まれる。  法規定が曖昧で、官僚組織による恣意的な解釈や判断を残す場合、第三者委員会が介入し、その結果に対し、支出の合理性を検証できる立法政策としての仕組みが必要であろう。
    自らの判断により自らの歳入と歳出を肥大化できる可能性のある官僚組織の枠組みは民主主義国家では、必ずしも好ましいものではない。

(美原 融)

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