National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-07-03

3.IR:推進とコロナ禍

政府は4月17日、早稲田夕季衆議院議員(立憲民主党)の質問主意書「新型コロナウイルス対策を最優先し,IRカジノの推進を一度踏みとどまるべきことに関する質問」に対する答弁書を閣議決定した。内容は「IR区域整備計画の認定申請受付期間-基本方針案(2021年1月4日から7月30日)の見直しを考えていない、基本方針案に感染症対策を盛り込む」というものである。背景としては同月13日の国土交通大臣による参議院答弁にあり、「新型コロナ感染の状況を踏まえ、国土交通省から申請予定の自治体に影響と準備状況を確認した所、現時点では、各自治体は粛々と準備しており、(新型肺炎の影響が)支障になっていないと聞いている」とある。IRを潰したい議員の質問故、実施の方針に変化なしと答えるのは理解できるが、コロナ禍による緊急事態宣言中に予定は変えないとするこの行動や発言は、その真意をいぶかしがる関係者を増やし、混乱を招いたことは間違いない。都道府県等も民間事業者も、4月以降実質的に推進のための行動ができない状況にあり、国の方針策定もなし崩し的に遅れ、全体の予定を見直せざるを得ない環境になりつつあったからである。

もっとも国からしてみれば、基本方針策定が遅れることは既に公知の事実、かつその内容は既にパブコメにより公表済みで、これとは関係なく自治体は前に進めても可、もし都道府県等の実施方針との間に相異があれば後から修正すればいいといっている以上、当面の遅れ等関係ないということなのだろう。一方、国が定める大枠の予定とは、基本方針原案にある都道府県等が区域整備計画を提出する期限として定義される2021年7月30日になる(第4区域整備計画の認定に関する基本事項、4認定の申請期間)。まだ1年以上も先の話であり、十分時間的余裕はあるはずで、コロナ問題等収束できるはず、それまでに都道府県府等が事業者を選定し、区域整備計画を準備できればいいだけの話という考えなのだろう。オリンピックは1年先の話、何とかなるという発想に似ている。

国のこの予定が変わらないとすれば、都道府県等は何があろうと2021年7月末を期限として準備せざるをえなくなる。行政内部の準備状況としては、(このコロナ騒動にも拘わらず)まだ時間を管理できる範囲内にあり、致命的な遅延の要素が生じているわけではない。問題は、事は都道府県等のみの問題ではなく、民間主体の行動が全ての前提になってしまうことにある。都道府県等は今から来年の7月末までの間に、実施方針を定め、提案公募を実施し、資格審査、提案入手・審査・評価、交渉を経て、投資を実行する事業者を選定する。かつ、この事業者と共同して、区域整備計画(案)を作成、議会承認を経て、国土交通大臣にこの区域整備計画(案)を提出することになる。現状における都道県の行動は全て2021年7月からの逆算で決められており、2021年6月の議会定例会で議会承認を得ることから、おそくとも2021年春過ぎには大まかの区域整備計画の素案が事業者との間で固まっていないとまず間に合わない。区域整備計画案とは単純に選定民間事業者の提案を添付する内容とはならず、都道府県独自の判断や考えを纏める部分や、選定事業者と都道府県等が議論・調整しながら纏めざるを得ない部分もある。これらに相当の時間を取られることが想定されるため、遅くとも2021年初頭には事業者を選定し、実施協定の大枠につき交渉の上合意しておく必要がある。実施方針・公募(RFP)からこの事業者との大枠合意までどの位の時間が必要かということになるが、2020年8月頃にこれを実施しても、4ケ月から5ケ月位しかない。できないことはないが、都道府県等にとっても、民間事業者にとっても、これはかなりタイトなスケジュールであることは間違いない。

但し、上記で欠落しているのは、国・都道府県等は民間事業者がこのスケジュールに対応できると考えていることにある。国・都道府県等は、直接民間事業者の意向をきめ細かくチェックしているわけでもなく、全く対話もなく、市場における実態を正確に捕捉しているとも思えない。一方、応札が期待される主要海外事業者は4月から6月にかけては、全ての海外を含む事業所を閉鎖し、ようやく6月末~7月に事業再開の動きにある。エンターテイメント産業自体が生存をかけた戦いの最中にあり、巨大企業であればあるほど、収入がないまま、賃金や施設維持等固定費、借入金返済等の支出は継続しており、資金繰りはかなり苦しい。投資事業を検討する余裕もなくなりつつある。この問題が何時終息するかはまだ見えてこないが、顧客が安心して移動し、観光やエンターテイメントを楽しめるようになるためにはかなりの時間を必要とするかもしれない。潜在的事業者がかかる状況にある場合、例え開業は3-5年後とはいえ、確実に総事業費が数千億円~1兆円程度になると想定される事業への出資確約をすることはかなり非現実的な想定になる。条件付の事業計画しか出てこない場合、都道府県等や国の目論見は大きく崩れることになる。コロナ問題が収束されていない状況では、将来に向けてのしっかりとした事業計画を立てにくいことは目に見えている。

全ては民の問題、国や都道府県等の問題ではないと考えるのは、直接的な財政負担もなければ、公的主体にとってのリスクも限りなく無い政策の実践となるからである。市場の実態から乖離した、IRの実現はありえない。リスクと費用を負担する主体が、明確なコミットメントをできる市場環境下でない限り、将来の向けての投資確約を取り付けることはかなり難しい状況にある。リスクと起こりうる状況を目の前に突き付けられない限り、何ら判断もしないのは、つい先日迄オリンピックは予定通り実施できると主張していた政府の立場と類似的な所がある。オリンピックと同様に、実態に即して、全体予定を変えることには合理的な側面もある。コロナ禍は複数の公的主体がバラバラに行動する場合、利害関係者間の意思不疎通という課題が生じうることを露呈した。これもIR制度が内包するリスクの一つといえるのかもしれない。

(美原 融)

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