National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-07-03

4.IR:基本方針策定のタイミング

2019年12月中旬の段階で、2020年1月初旬には推進会議の議を経て、与党内調整を実施し、1月末に基本方針を策定・公表する予定が決まっていた。この予定は12月末から1月初旬にかけて生じた国会議員を巡るIR疑惑が噴出し、マスコミが騒ぎ出すと共に、通常国会で野党がIR整備法廃止法案を上程する意思を示した為、急遽取りやめになる。政府は3月末迄2ケ月程遅らせる意向という新聞情報が流れた。基本方針を定めるということは、政府として都道府県等に対し、IR推進のゴーサインを出すことになる。もし、強行すれば野党に恰好の題材を与えることになり、反対運動が活性化することも考えられたため、じっと黙って嵐が過ぎ去るのを待つことが得策ということだったのだろう。ところが3月以降生じたのが新型コロナ感染騒動になる。こうなると国家的危機に近く、不要不急の政策事項等は当然後回しにされる。この結果、IR基本方針策定等は慌てる必要もないということで、なしくずし的に遅れるということになった。もっとも都道府県等に対するメッセージとしては国会答弁・質問主意書等により、今後の予定(即ち、区域整備計画提出期限2021年7月30日)は変えないとする公式な説明がなされている。基本方針の内容は、すでにその内容が開示されており、微修正はありえても、内容自体に大きな変更はないことから、例え基本方針の策定が遅れたところでも大きな問題にはなるまいと政府が考えた節がある。

ではいつ頃基本方針は制定されることになるのか? IR整備法第二章第5条(基本方針)は、基本方針を定めるべき期限を規定しているわけではない。一方、附則第1条四項は、第二章は交付後の日から2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行すると規定している。ということは2020年7月26日迄には当然基本方針は策定されるのだろうと常識的には考えるのだが、必ずしもこの部分をそう解釈しない向きも政府の中にはいる模様だ。遅れた所で政府に罰則はないし、法律の枠組みが崩れるわけでもない。そもそも国難たるコロナ騒動を理由にすれば、いくら遅らせた所で大義名分はあるし、痛くもかゆくもない。閣議決定も変えればいい、何とでもできるということなのだろう。但し、ずるずると伸ばすわけにも行かず、早晩対応を迫られることは目に見えている。

一方、都道府県等にとっての当面の最大の関心は、国がまず基本方針を策定しない限り、区域整備計画提出期限が決まらず、動きようがないし、何をどうすべきか、予定も作業工程も決まらないということにある。当面2021年7月末を区域整備計画の最終提出期限(予定)とし、ここから逆算して全ての準備を整えざるを得ないということになる。この場合、遅くとも本年8月頃迄には、実施方針を定め、募集要項(RFP)を公表し、事業者選定手続きに入れば、ぎりぎり間に合うという所だが、かなりタイトなスケジュールになることは間違いない。都道府県の本音は、潜在的事業者との対話(RFI,RFC等)もコロナ騒ぎで十分なされているとはいえず、ある程度区域整備計画提出期限を延ばした方がより適切ということだ。もっとも誰もが自ら率先して、時間が足りない、遅らせてくれと国には申し入れていない。これは当たり前で、自治体間で誘致競争をしている以上、自分の手の内や準備状況が開示されるのは競争戦略上不利になると考えたからであろう。ところが、国による緊急事態宣言は、全ての官民の動きを止めてしまい、誘致を表明している都道府県等はその全てが、実質的に全体予定を数か月遅らせることを表明した。これは結果的に、どの都道府県等もRFPを実施し、事業者を選定するのは2020年末ないしは2021年初頭と、ほぼ同じ時期になりそうな状況になったことを意味している。

最大の問題は、公募(RFP)参加への準備をしていた民間企業だ。彼らは、存続を賭けた事業再開の最中にあり、新たな事業計画の作成どころではない状況にある。現状は投資家の意欲は減退し、しっかりとした事業計画はできそうもない。表面的には投資への強い意欲を表明しても、競争上のリップサービスかもしれず、ここ半年以内の期間に巨額の投資確約ができるという保証はない。投資家が市場に対する信頼と自信を回復し、この市場・具体の案件に投資をコミットできるまでにどの位の時間が必要かはまだ解らない。勿論確実に市場は回復し、投資家の意欲ももとに戻るのだろうが、さてこれが何時になるかに関しては慎重な見極めが必要となる。

最低半年あるいは1年間、市場の回復を待ち、区域整備計画提出期限を延ばすという国の判断が本来あるべき合理的な考え方なのかもしれない。既に全く何もしない儘、基本方針の策定は半年間も延びている。よって、提出期限を半年延長するといったところで、誰も反対しないし、当たり前と思うだけだろう。もっとも果たしてこれで十分か、慎重を期し、1年程度は伸ばさないと話にならないのではないかという意見もある。一方、もし現状の予定で強行すれば、提案企業が出て来なかったり、例え提案があっても、誰もが投資の確約をしなかったりする場合、制度そのものの実効性を問われることになるのではないかと危惧する意見は多い。もっともこれ以上の遅延となると、仕切り直しになるかもしれず、さすがに都道府県等は持ちこたえられなくなるリスクが高まる。地方には地方固有の事情もあるのだ。もしこうなると、状況次第では、撤退あるいは脱落しかねない都道府県等が出てくることも視野に入ることになるのかもしれない。

(美原 融)

Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.
Top