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2020-10-30

37.コロナ禍中のIR基本方針改定案

コロナ禍は世界中で経済活動を麻痺、停滞させ、大きなインパクトをもたらすことになった。
明確な対処療法が見えないために、各国ともロックダウン、国境閉鎖等を2020年3月から6月まで行ったために、これが更に悪化する。
我が国も4月7日から5月25日迄新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言の状態が続き、実質的な活動自粛・制限を行い、経済的・社会的活動が停滞し、政府も緊急対策としてのコロナ対応に追われた。
感染症外の国の様々な施策は予算や重要政策以外はあまり動かず、遅延するという状態に陥った。
環境に大きな変化が生じている場合、慌てて無理やり政策を推し進めても意味がないという政策もある。
法の施行に、国、都道府県等の自治体、民間事業者が各々異なる立場で方針と枠組みを取り決め、実践を試みるIRの場合には、複雑な状況を醸し出すことになった。
各々が異なる制約を抱え、ニッチもサッチもいかなくなってしまう状況となったからである。
秋元衆議院議員のIR関連汚職事件と国会での追求・IR整備法廃止法案提出・審議は、昨年末から本年初頭にかけて政府による積極的な推進を躊躇させる行動をもたらし、その後生じたコロナ禍は、本来1月末に策定するはずの予定であった基本方針の策定、公表を何の説明もなくずるずると引き延ばすという結果をもたらした。
基本方針策定は、関心ある都道府県等にとり今後の予定が固まるため、実質的に案件推進のゴーサインとなるのだが、肝心の都道府県等もコロナ対策で余裕がなくなり、それどころではないという状況に陥った。
一方民間事業者も、国際間の移動と交流が規制され、経済活動自体が抑制される状況になると、全く何もできなくなる。
海外のIRカジノ事業者も本業をどうもちこたえさせるかに集中せざるを得ない状況下となり、新たなIRの開発どころではないということになった。
誰もが各々の課題を乗り越えるのに必死になっている段階では、新たな共通的課題となる政策が動くことはまずない。

終息が見えない段階では、何も動かない、誰も動きようもない。
単純に黙って推移を見守ればよかっただけになる。
その意味では、このコロナ禍の時期に政府は基本方針案の内容変更を検討していたわけではない。
現段階でもコロナ禍は終息からはまだほど遠いのだが、第二派に若干落ち着く気配が見え始めたこと、国民の経済・社会活動も次第に冷静さを取り戻し、経済再生が緊喫の課題になりつつあること、政権が交替し、臨時国会が始まることになり、少なくとも年末迄には停滞している政策の見直し、行政手続きが停滞している施策の施行等に関しては推進せざるを得ない状況に陥ったこと等が、政府が動き始めた背景になる。
紆余曲折を経て2020年10月9日に観光庁は基本方針案(改定版)のパブコメを開始することにより、実質的にスケジュールを再胎動させた。

では2019年レベルでの基本方針案ドラフトと何が変わったのかというと、本質的な変更は殆どない。
2019年段階でのパブコメを踏まえて一部字句修正はあるが、基本的には内容を変えず、カジノ管理委員会が本年になり追加的に指摘したコメントを基本方針案に取り入れただけになる。
但し、その内容は大枠の方針規定を若干追記したにすぎず、大きな内容変更ではない。
唯一の国にとっての検討事項は、区域整備計画提出期限を何時迄のばすかとという一点だけであったことになる。
都道府県等の中には政治的判断により、あまり伸ばさず早く実施することを要請した所もあったようだが、過半の都道府県等は、民間事業者の対応の遅れや投資判断ができにくいことより、遅延することは妥当と考えていたのが実態である。
市場の変化や実態を見ずして当初の予定通りやるべきとした一部都道府県等の意見は真に現実離れしてしまっている。

結局、1月に実施方針を公表する予定が、実質9ケ月間遅延したことになる。
ということは本年11月末から12月初旬にはその後の行政手続きは終了し、この後どこかのタイミングで基本方針が策定されることになる。
区域整備計画の申請期間は令和3年10月1日から令和4年4月28日迄(7ケ月)としたことより、パブコメ開始時点から、整備計画提出迄は実質的に19ケ月の余裕がある。
都道府県等にとりぎりぎりまで内容の検討に時間をかけることが得策になることから、おそらく逆算して予定を考える。
地方議会への区域整備計画案の提示と説明は令和4年の2-3月の定例会になる。
区域整備計画を官民双方が議論し、纏める時間を含めると、恐らく令和3年12月末から令和4年1月の間に民間事業者を選定せざるを得なくなる。
RFPは交渉期間を含めると、その準備には長くて6ケ月程度は必要だ。
こう考えると都道府県等が実施方針を策定し、公募(RFP)に入るもっとも遅いタイミングは令和3年の春~初夏頃になり、秋頃がRFP提出期限と考えるべきであろう。
勿論都道府県等がこれより早く動くことは可能だが、市場環境が安定し、民間事業者が将来に向けて確信を持てるようになっていなければ、得策ではあるまい。
十分な期間を設け、潜在的に応札する民間事業者と対話を重ね、準備の程度や民間の意向を詳細に確認し、慎重なステップをとるはずだ。
タイミングに関し、重要なのは国や都道府県等の都合ではなく、対応する民間事業者がしっかりとした提案ができるか否かになる。
区域整備計画提出のタイミングに関しては、政治的には複数の選択肢が提示されたことが知られている。
本来もう少し長いタイミングをとることが好ましいのだが、9ケ月としたのは、単純に1月に決めようとしていたところ9ケ月遅れたので、その分延長するということだろう。
説明が単純になるからである。
但し、現実はこれでもタイトなスケジュールであることは間違いない。

興味を持ち、応札する民間事業者、これに資金供与する金融機関も、コミットメントのかけらもない条件付の提案書を都道府県等に提出するわけにはいかないだろう。
政令や基本方針に記載された前提条件が変わらないとすれば、しっかりとした確約を応札までにできるか否かは極めてチャレンジングな課題になる。
投融資行為に対し、確約ができない状況がもし継続したとすれば、案件形成に重大な波乱要因をもたらすことになりそうである。

(美原 融)

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