National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-10-23

36.カジノ入場回数制限施策

カジノ場入場回数規制とは、一定期間における顧客のカジノ施設への入場を制限する規制の考え方をいう。
顧客の入場回数を恣意的に規制すれば、顧客は嫌がり、来訪客が減少すると共に、回数を超えて訪問しようとすると、入場できなくなる。
よって、売り上げも税収も減ることになるため、世界レベルでみるとあまり見かけないポピュラーな施策ではない。
諸外国においてもかかる手法を採用している国は極めて限定されている(実践されている例としては、韓国、カンウオンランドカジノがある。
欧米にはかかる事例はない)。
ところが我が国においては、カジノがもたらす弊害防止対策の一環として、入場回数を制限すれば、賭博依存症に陥るリスクを軽減できうるという論理から、専ら行政府主導にて、当初から入場回数規制を制度の中に盛り込むという議論がなされてきた。
推進会議の取り纏めでは、「一か月程度の長期間における回数制限と、一週間程度の短期間における回数制限を組み合わせて設ける。
入場回数は24時間以内を1回と数える」としている。
対象はアクセスが容易な日本人及び国内居住の外国人とし、カジノ管理委員会が一元的にこれを把握し、事業者の照会に応じ、規制回数を超える顧客を排除するという考え方・手法になる。
この制度設計の発想は、普通の人はこの程度の回数しかいかないだろう、これ以上行くとなると依存の傾向があるのではという極めて単純な考え方に基づいている。
確かにそうかもしれないが、結果的にお上が市民の自由な行動を規制する発想でもあり、適切といえるかどうか、この是非の議論は過去も、今も存在する。

IR整備法は第69条(入場規制)四項において、過去7日間に3回、過去28日間において10回を上限回数制限とすると規定しており、これを超えた場合、カジノ事業者が当該顧客を排除する義務を負うこととしている。
当面全国には三か所の区域、三か所のIR施設と三カジノ事業者が生まれることになり、顧客が異なった各地域の事業者施設を別々に訪問した場合、回数制限の価値はなくなってしまう。
もっとも一日の内にかなり離れたところにある複数事業者を顧客が行き来するとも思えない。
かつまた一か月の内に複数場所を行き来してまで異なるカジノ施設を訪問する顧客等どれだけいるのであろうか。
現実にはかかる顧客等殆どいないはずだ。
但し、制度として入場規制を設けるとした場合、複数の施設に跨り、法の抜け穴的行為を排除する制度的仕組みが必要で、これを公平かつ完璧に実践せざるをえないことになる。
この場合、どうしても国(カジノ管理委員会)が対応せざるをえなくなる。
僅かな数しかありえない法の抜け穴等無視して、個別事業者が自らの責任で、顧客の入場回数をカウントし、回数オーバーとなる顧客を排除することは入場システムの枠組みでできるため、殆ど追加的な金はかからない。
国が全国一律の仕組みを構築する場合、カジノ管理委員会がわざわざシステムを構築し、三事業者とオンラインで繋ぎ、事業者の照会に即刻オンラインで回数を超えたか否かをチェックし、(自動的に)制限回数を超えていないかのみを返答するということになる(IR整備法第70条第2項:カジノ事業者の照会に対する回答)。
システム構築のための潜在的システム事業者との対話は2019年に実施され、準備入札は2020年1月に公募されている。
このためのシステム構築はカジノ管理委員会がこれを担い、三つのカジノ事業者が個別に構築する入場管理システム(マイナンバーカードによる本人確認、未成年者排除、入場料賦課等)とデータのやり取りを瞬時に行うことが想定されている。
システムとしては複雑なものではないが、このためにかける資金(税金)、労力は相当のものになるため、果たして合理的なリソースの使い方といえるのか懸念が残る(もっとも確認していないが、これはカジノ管理委員会にとっての制度上必要な経費となるため、IR整備法第192条に基づき、カジノ事業者に全て転嫁されることになるのかもしれない)。

さてこの入場回数規制だが、その効果に関しては疑問視する意見も多い。
依存リスクの傾向が強い顧客に対しては、確かに効果的な側面もあるが、一般消費者に対しては、かなりの抑止行動をもたらすことになる。
逆に入場回数が制限されるならば、限られた滞在の中でより大きな金額を賭けるという衝動をもたらすこともありうる(予想しない帰結もありうるということになり、Unintended Consequenceと呼称する)。
入場料を高く設定すれば顧客に抑止効果をもたらすと考えることも同様で、この場合には、高い入場料を取り戻そうとする衝動が働き、いくら高く設定しても抑止効果は機能しなくなる。
依存リスクの傾向が強い顧客に対しては、確かに効果的な側面もあるが、一般消費者に対しては、かなりの抑止行動をもたらすことになる。
逆に入場回数が制限されるならば、限られた滞在の中でより大きな金額を賭けるという衝動をもたらすこともありうる。

入場回数を制限し、顧客の消費行動を抑止しようとする考えは、その本来の目的が依存症になるほどのめりこむ人を抑止しようとする点にあるとすれば、あまり賢い施策とはいえない。
全体消費を抑止するよりも、個別個人の行動に着目し、異常なのめりこみに入っているか否かを観察し、個別に対象者を素早く特定化し、個別の状況に応じて対応することにより、当該個人の行動を抑止した方がより効果的になるからだ。
全ての顧客全員に依存症が顕在化するリスクがあるわけではない。
顧客が全て同じであるという前提の下で一律に規制を設けることは、一見「公平」に見えるが、健全に遊び、健全なゲームを楽しむ多くの人からすれば、過剰な規制に映る。
顧客の消費行動を過剰に規制する考えは市場を縮小化する効果をもたらすことになりかねず、好ましいとも思えない。

(美原 融)

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