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2020-10-30

38.IR:段階的実現(フェーズ展開)の考え

カジノを含む統合型リゾートは我が国では過去に実績のない施設群になり、どの位の顧客需要があり、総体として売り上げがどうなるのか、その内訳はどうなるのかに関しては、合理的な推論しかなく、確実といえる需要予測やその評価は正確には十分できていない。
コロナ禍に伴う需要の急激な落ち込みや事業環境の変化に伴い、事業者が需要予測・投資計画を見直し、過剰なサービス・機能を無くし、施設規模や投資規模も見直すことにより、これらを最適化することは企業としては当たり前の行動であって、おかしな話ではない。
最適化の考え方の一つの手法として、IRの投資行為、施設整備自体を時系列的に段階的(フェーズ)に分けて実現することが考えられるのだが、IR整備法の下では、施設整備は一体として整備することが全ての前提になっており、段階的実現は想定されていない。
これには下記事情がある。

  1. カジノ外の施設(例えばホテル、MICE、劇場等中核施設となる1号~5号施設)を先行して開業し、これを一次フェーズとし、残りの施設を二次フェーズとすることは理論的に認められている。
    但し、当初の整備計画の中で残存施設の資金・工程等が明らかであること、資金調達も確実にできていることが条件となる。
    ということはフェーズに分けても予め全ての投資行為を固定せざるを得ず、フェーズ展開の価値は薄い。
    また、事業者にとりメリットが無くなるのは、事業性の高いカジノ部分の完工が遅れ、事業性が弱い施設群を先行せざるを得ないためで、この結果、事業リターンは減る。
  2. 一方、カジノ部分のみを切り出して、先行して開業し、残りの施設を段階的に建設・開業することは制度として認められていない。
    実は経済的にはこれがもっとも合理的な考えになる。
    欧米等ではまずカジノ施設のみを先行開業し、配当等せずにキャッシュを積み立て、これを原資として残りの施設を段階的に建築する慣行も行われている。
    建中期間に生み出せるキャッシュフローを残りの施設整備に使うことができれば、計画中の事業費、施設整備費(総投資費用)を少なくすることができる。
    所与の前提に変化がなければ、それだけリターンは増える。
  3. 都道府県等が提出する区域整備計画自体を当初から複数のフェーズから構成するように展開することも理論的にはできる。
    但し、この場合も全てのフェーズの詳細な実現に向けた工程、資金計画等をも提出することが要求されており、これではフェーズに分ける意味は殆ど無くなってしまう。
    フェーズ展開とは、事業者の裁量的判断により、需要の増減や環境変化を考え、投資規模や施設が展開するサービス等を柔軟に変えられることがその妙味であって、自由にタイミングも設定できないとなればこれもフェーズに分ける意味はない。

なんともはや、頭の固い人が全く柔軟性のない考え方を法規定にしたものだ。
要はフェーズでの段階的施設整備等を認めてしまえば、当初の整備計画ではしっかりとした全体計画を詳細に提示しながら、まずカジノを先行して営業させ、その他の中核施設は全て後回し、第二フェーズでやるといいながら結局何もしないという状態が生じかねず、IRがカジノだけの施設にならないようにという論拠のようである。
但し、これでは倒錯したロジックになる。
カジノ部分を先行させ、その他の施設は後回しにしても、事業者や建設業者から完工保証を取り付けるなり、残存未払い資金を全額供託させるなどの手段をとれば、カジノを先行させ、中核施設の建設がある程度遅れて第二フェーズになっても、全てのIR施設は確実にできる。
最初からフェーズ展開を提案してきた場合も、当然、一定期間内に整備を実施しない場合、資金を調達できない場合等には、親会社から銀行保証をとりつける、あるいは致命的な違約行為として区域整備計画の認定取り消し事由となることを利害関係者と合意すれば事足りる。
民間事業者の裁量を認めつつ、抑えるべきところは確実に抑えればよいだけだ。
何も法規定によりフェーズ展開を拒否する等規制を複雑にする合理的な理由等どこにもない。

但し、上記の制度としての考えは整備計画の枠組みが当初出される提案で固定的になることを前提としている。
本来は中核施設施設等の規模、機能、サービスの内容等は、環境の変化に応じ、事業者の裁量で大きくしたり、小さくしたり、変えてみる等の柔軟性があった方が好ましい。
これができないのは、政令により中核施設の要件規定が詳細に規定されており、様々な議論の積み重ねとしてかかる結論となったため、これを単純に変えることが難しいという理由による。
一端作った法制度を変えるには、それなりの行政手順と合意形成が必要で単純にはできないのが現実である。
勿論できないことはないのだが、相応の手順・時間とかなりの政治力や合意形成も必要で、行政府はまず動かない。
尚、当初の一部政府の人たちの考えは、世界最大級のハコを作ることが重要な政策目的、まずハコさえ作れば何とかなるというものでもあった。
ハコ物中心の発想は、要求水準を詳細化し、これをアップフロントに固定する政策をもたらした。
重要なのはハコではなく、提供される機能やサービスであって、質の高さを求める事こそが本来志向すべき方向性であったのだが、そうはなっていない。
コロナ禍の状況は前代未聞の将来に亘る不確実性(Unprecedent Uncertainty)をもたらしており、ハコ物の整備に巨額の資金を投入することがWorkableか否かを問うている。
例えこれが今から6年後に実現する施設であってもだ。

(美原 融)

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