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2020-07-20

9.IR:ポストコロナにおける政策の整合性

国土交通大臣が基本方針を策定するということは、区域整備計画提出期限がこれで固定化することを意味する。
誘致を表明している都道府県等にとり、提出期限が決まらなければ、いつまでに何をするという作業手順と行動計画を立てられない。
一方、基本方針を国が策定すれば、一斉に準備に入らざるを得なくなる。
基本方針に準拠し、直ちに実施方針を定めて、民間事業者の事業提案を募る公募手続きを始めることになる。
IR推進に関する政府方針に揺らぎはないことは確認しているが、何時、基本方針を策定するのかに関しては、政府全体の他の事情との関連もあり、どうなるかは未定である。
遅れれば時間がなくなり、都道府県等が困るだけとなるため、時間の問題で方向性を決めることになるのであろう。
おそらく都道府県等の準備状況、彼らの意向を確認し、政府の事情等をも斟酌し、調整することに手間取っているとみた。
既になし崩し的に当初の予定から半年間遅れている。
もっともこの半年間、新型コロナウイルス問題で、あらゆる組織の行動は制約を受け、国も都道府県等も民間事業者も動けなかったというのが実態に近い。
かつ、経済活動自体が、短期的には元に戻らない状況が続いている。
観光、エンターテイメント、MICE等も顧客と需要が突然蒸発してしまうという事態が短期的に生じており、その回復にはまだ時間がかかりそうである。
出入国に際し、検疫と経過待機が義務づけられたりする場合、誰もが国境を超える活動を避けるようになる。
ビジネスや観光で自由に往来、移動できる環境には今はない。
世界中の国民国家が、国境を閉じ、瞬間的に鎖国に入ったようなもので、グローバル化に対する強烈なアンチテーゼをもたらしたことは間違いない。
勿論これが「新しい日常」として固定化するとは考えられず、感染の状況やワクチン等の対処方法を慎重に見極めながら、少しずつ「できる限り元の状態」に戻していくのであろう。
人との交流は人間社会にとり必須の要素であり、これが無くなることはありえないし、MICEやエンターテイメント活動の全てが遠隔に変わってしまう等ということもまずありえない。
ビジネスの現場では、おずおずと活動を再開しつつあるが、元の状態に戻るには、まだ時間がかかるだろうというのが常識的な判断になる。

コロナ禍はまだ過ぎ去ってはいないのだが、コロナ前の時点においてなされていた制度や政策の内、ポストコロナにおいては当然短期的に、一部を修正せざるを得なくなるものもでてきそうである。
いずれかは元に戻るとの期待感はありつつも、これが早急に期待できない場合、短期・中期の対応策を考慮し、過去の政策との整合性を図りながら、適切な着地点を模索し、政策を修正しながら実践するというのが本来取るべき正しい行動であろう。
民の場合には当たり前となるこのロジックも、法律に基づき行動する行政府にとっては、なかなかできにくいハードルになる。
一端法令に則り施行し始めた枠組みを修正することは極度に難しく、複雑な合意形成の手順を必要とするからだ。

観光やMICE・エンターテイメント等の集客産業は、一端市場が落ち込んでしまうと、回復にはかなりの時間がかかる。
リーマン・ショック等の場合は、単純な経済的理由で解かりやすいのだが、それでも元の水準に戻すのに数年かかっている。
今回の場合には、社会的、複合的、国際的な事由が複雑に絡んでおり、単純ではない。
一国だけでは解決できない問題を孕んでいるからである。

市場が激変している現状において、将来を見据えた事業計画を立案することは誰が考えても難しい。
昔考えた前提は崩れて役に立たないかもしれない。
4~5年先の市場や需要は大きく変わっているかもしれない。
かかる状況を前提とし、将来に向けて巨額の投資事業にコミットすることは、誰がやろうとしても二の足を踏むことになる。
数年先ですら先が見えないのに、更にその先はどうなるかはまず解らない。
この混沌とした状況の中で、政府が基本方針を定め、これに伴い都道府県等がIRに係る実施方針を定め、募集要項を公表しても、民間事業者は真面目にこれに対応できるのかどうか大きな懸念が残る。
市場が回復し、投資意思決定が冷静に判断できる状況になるまでにはまだ時間がかかると想定されるからである。
この場合、応札するものがいなくなるか、しっかりとした投資確約のある提案が出てこない可能性が高い。
金融機関も余程しっかりとした事業計画を提案しない限り、融資の確約をするとは限らず、事業者も金融機関も全てがsubject to clauseがついた条件付の提案になりかねない。
都道府県等にとってもこういう条件付の事業計画を評価し、事業者を選定することは極度に難しくなる。
かつ、かかる不確実な事業計画を前提とした区域整備計画を国が評価し、認定できるとも限らない。
確実に評価や判断が鈍るリスクが高まる。

投資環境に不確実性が増しているとはいえ、国際観光やインバウンドの振興、世界的な機能を保持するMICE施設の整備とその運営というIR整備法の政策的価値が崩れているわけではない。
国の観光政策の大枠も基本は変える必要はないだろう。
IRも法規定や政令まで踏み込んで改正すべしという意見もあるが、積み上げた政策論理と議論を単純に崩せるわけがない。
当面の間、市場の回復を待ち、実現のタイミングの軌道修正を図るつという変更が必要となるのかもしれない。
場合によっては、制度を変えずに、運用・解釈行為により、期待された機能を充足しつつ、投資規模を合理的なレベルに調整する等の知恵や工夫も必要になりうる。
民によるリスク、民の資金を前提に全体の事業構築が図られている以上、しっかりとした事業者がしっかりとした内容の提案ができる環境であることが全ての前提になる。
実施のタイミングを若干ずらし、投資環境の回復を待つ施策は、コロナ禍の現状を判断すれば、おかしな政策変更ではない。

(美原 融)

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