2020-07-15
8.IR汚職とIR関連法廃止法案
2019年12月から1月にかけて、現職国会議員がIRに絡み市場進出を考慮している中国企業から請託を受け、賄賂を受けていたとして東京地検特捜部が動き、元内閣府秋元副大臣が収賄罪で逮捕・起訴されるに及び大騒ぎになった。国土交通省によりIR基本方針案がパブコメに出され、誘致を考える自治体がRFI, RFC等の手続きを実施中で、これから市場が動き始めるという矢先の出来事でもある。報道や国民の厳しい視線がIR誘致に注がれることになり、出鼻を挫かれたということであろう。やはりIRは利権、癒着、汚職を誘発しかねない仕組み、怪しい制度という印象を煽るような報道が連日なされたことが事実である。この秋元議員はIR推進法の審議・可決時点では内閣府副大臣、IR実施法の審議・可決時点では、衆議院内閣委員会委員長と確かに要職にはあった(参考人聴取の際、委員長席におられたので覚えている)。但し、彼は法案の内容やその施行に影響力を行使し、民間事業者に利する行動をとれる権限はそもそも持っていなかったはずである。この前後にIRを推進する議員連盟の幹部であったことはあるが、同議員が幹部になった時点では、既に制度の枠組みは後戻りできないように固まっており、民間事業者による一国会議員に対する請託は現実問題として成立しえないのではないかと思える。検察のストーリーは利権に群がる複数の国会議員、IRは汚職の巣窟というシナリオだったのであろうが、こんなことはありない。結局国会議員一人だけの検挙・起訴となったのだが、これも公判で請託の事実認定はかなり難しいとも思われ、受託収賄ではなく、単純収賄ということなのであろうか。
さてこの事案だが、そもそもカジノ事業者とはいえない中国ロッテリー系企業とそのエージェントが、日本におけるカジノ参入を企図し、既に推進を放棄した沖縄県で推進のためのセミナーを開いたり、北海道では他の道内地域と比し明らかに劣後する自治体を後押ししたりするなど、誘致の売り込みにしては、ちょっとポイントがずれている(時間とカネの無駄遣いということだ)。新規参入企業故、何処でもいいから可能性が少しでもある地域に売り込む、政治力を行使すればなんでもできる、設置数を増やし、何処にでも実現できるようにさせる、そのために政治家のコネを最大限使う、コネができるのは献金、パーテイー券購入、接待ということなのであろうか。法律をよく読めば、誰もが自由に何処にでも参入できるビジネスではないことを理解できるのだが、おそらく読んでもいないのだろう。中国における政治家に対するビジネス慣行を日本でも同じのはずと判断し、政治家とのコネと裏金があれば何でもできると邪推したのかもしれない。この事案は秋元議員の抵抗により法廷に移りそうだが、請託の有無は別にして、同議員は脇が甘く、その行動自体は大きな問題を抱えていたことも事実だ。IR推進法案の審議過程で、現職国会議員によるIR事業者との様々な面談やコンタクトが共産党議員により痛烈に指摘・批判され、超党派議連内部でカジノ関連事業者と議員との直接の接触は誤解を生みかねず、以後できる限り避けるというルールを設けたはずなのだが、一体これはどうなったのであろうか。
本年1月初旬以降、IRは民間事業者にとり独占的な地位を得られる巨大な利権、腐敗・汚職・癒着の温床であり、必ず政治が動き、カネが動くというストーリーのもとに、様々なマスコミが騒ぎ始め、騒然となった。政治とカネは格好の政府追求の素材でもあり、これに利権が絡んでくるという話は国民の耳目を引く。スキャンダルめいた話は、週刊誌ダネとしてはこれ以外にもいろいろあり、枚挙に暇がない。勿論全てが真実であるとは到底思えないのだが。本来IR等絶対反対として継続的な反対意見を持ち、地方レベルでも反対運動をしていた野党は、それ見たことかということで、第201回国会を「カジノ国会」とし、会期冒頭に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律及び特定複合観光施設区域整備法を廃止法律案」(IR廃止法案)を提出した。勿論これは政治的なスタンド・プレーにすぎず、衆参両院で与党である自民・公明が多数派を占めている以上、審議すれば、否決され、廃案になることは確実だ。但し、野党が一致・団結して、行動を取った場合、政府としてもこれを無視して、一方的に基本方針を確定し、政府としてのIR実現のためのゴーサインを出せる状況にはなくなったことは間違いない。連日でてくるIR汚職報道により、国民の嫌悪感や、IR推進に対しての否定的な意見が世論調査によっても大きくなっていったからでもある。この結果、2020年1月早々の段階で、民意と国会の動きを睨みつつ、基本方針の策定を数か月遅らせ、様子を見るという政治判断が政府によりなされている。その後、桜を見る会問題がスキャンダ化し、COVID-19問題が生じたため、IRに関する動きはなし崩し的に遅延し、6月末以降ようやく動き出しつつある。
第201回国会では、予算委員会の審議の枠組みの中で、政治とカネを主題に「桜を見る会」と同様に、IRも一部話題とされ、議論されたのだが、ちっとも面白くない審議となった。野党はIR整備法案策定時点と同じロジックに終始し、汚職・腐敗・犯罪の温床、わが国にはこんなもの要らないという従来と同様のかみ合わない議論のみであったからである。野党の国会議員ももう少し勉強して、知恵をつければ、建設的な議論になったのだと思うのだが、ロジックではなく、感情を煽る態度は、議論の価値と質を下げる。尚、第201回国会は6月17日に閉会となり、このIR廃止法案も結局閉会中審査の対象となった。よって、いずれかの時点で内閣委員会に於いて審議されることになる。議論はまだ続くということか。国会の意思として、この廃止法案を審議し、廃案にして、初めて政府としても基本方針を策定し、政府としてのゴーサインを出すという道筋が本来あるべき手順なのだが、かかるシナリオが実現できるほど甘くはないということなのであろう。
(美原 融)