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2021-08-23

118.IRにおける政治リスク ④Single Issue Referendum 2)

都道府県・市町村の首長選挙は、状況、タイミング及びやり方次第ではシングルイッシューレフェレンダムと類似的な効果をもたらすツールとして利用することができる。
一定の政策の実践を強行に指導する首長一人をターゲットにして、政策に反対する首長候補を擁立し、反対運動を盛り上げていく戦略になる。
このためには、一定の政策に対する争点が明確になっていること、住民に明確な反対運動の盛り上がりがあること、議論の盛り上がり途上に首長選挙が予定されているタイミングにあること等が必要になる。
一定の政策の推進、廃止に関し、それだけ首長の権限は強いと共に、もし、政策推進に反対する首長が選挙に勝てば、当該政策を停止したり、中止したりすることも可能になる。

選挙の争点を一点(シングル・イッシュー)に絞る選挙戦略には、その推進主体にとり下記メリットがある。

  • 争点が一つである場合、単純、解りやすく、注目を集めやすい。
    住民の関心を煽ることで投票率も上がる。
    かつ明確な対立軸があった方がマスコミの注目を集め、話題となりやすい。
    市民生活に密着した政策である場合、これは極めて効果的だ。
  • 政党選択ではなく、解りやすい一点に焦点を絞ることになるため、賛成・反対の住民意思が反映しやすくなる。
    賛否が分かれるテーマの場合、右、左、党派に関係なく票を集めやすく、政治的スタンスを離れて票を集めることができる。
    よって一つの政策を推進する政権与党に対抗する手段として、政治的反対を標榜する政治政党にとり、恰好の選挙ツールになる事は間違いない。
  • この場合、必ずしもエビデンスに基づいた政策判断である必要はない。
    短期間の選挙であるため、ロジックに基づいた冷静な議論の積み重ね等は絶対機能しない。
    感情に訴え、広く共感を呼ぶこと、反対を強く主張することのみが必要とされるからだ。

一方、かかる選挙戦略を取ることは社会全体から見た場合、デメリットも多い。
例えば下記等が挙げられる。

  • 複数の候補者がおり、反対派、賛成派に票が分かれる場合、賛成派が勝っても、反対派が勝っても、勝者の得票総数以上に、異なる意見の市民が多数存在する可能性もある。
    よってこの手法のみでは民意を正確に把握できない。
  • 一定の政策選択を採用するか否定するかに関して、派生的にでてくる諸課題等につき十分な議論をすることなく、YesかNoかの判断を迫ることになり、印象的、感情的に住民が行動する可能性がある。これに伴い結果が歪む可能性もある。他の選択肢や派生的な帰結を示さずに判断を迫るためだが、物事を単純化してしまうと、複雑な実態や関連する課題が見えなくなってしまうことになる。説明の仕方次第では意見を変える市民もでてくる可能性は否定できない。

住民投票自体は、意識的に住民の関心(不安、懸念)がある政策課題の是非を住民に問うという極めて民主的な手法なのだが、やり方次第では後刻禍根を残してしまうということもありうる。
例えば英国のBrexitレフェレンダム等が好例だ。
当時の政権トップは誰もが実現するわけがないと思い込んでいたのであろうが、民意は結果としてBrexitを選択した。
もっとも賛意を示した国民はBrexitがもたらすインパクトや代替案の詳細を良く説明を受けて判断したわけでもなく、かかる議論も存在しなかった。
「英国はEUに巨額の医療費分担金を搾取されている」等の感情的主張は全く根拠がないことが投票後明らかになっている。
賛成派の主張の矛盾が明らかになるにつれ、その後の国政選挙では賛成派議員が減少する効果をもたらしている。
議論が過熱化する場合、何が民意かを判断することは様々な問題を抱えることになる。
民主的に思える手法にも落とし穴はあるものだ。

カジノを含むIRとは賛成反対が常に併存する政策事由になる。
反対運動はおこりやすいし、もしこれを政治的に組織化し、住民の賛同を得ることができれば、これ自体がある程度の力を持つことが可能になる。
現在行われている2021年横浜市長の選挙は面白い事象が生じた。
現職市長はIRに賛成だが、与党の支持を得ることができず、誰も候補者を決めきれない混乱の中で、横浜を地盤とする強力な現職の国務大臣が横浜IRには反対という政策を掲げ市長選挙に立候補したからである。
有力な与野党の候補者が一致して、IR反対を主張した途端に、シングルイッシューとしての争点は、相殺され、消えてしまい、通常の選挙になってしまう。
与党票は割れるかもしれないが、わが国最大の政令指定都市の首長のポジションを維持することの方が、IRを横浜に実現することよりも上位にあるという政治的判断なのだろう。
考えてみれば政治的には極めて論理的なアプローチだ。
IRの制度自体は無くなることはない。
所詮将来の時点で、タイミング、民意の変化を見て再チャレンジすればいいだけの話ということになるのかもしれない。
もっとも政治家に振り回された行政府や様々なステークホルダーからしてみれば、最後の段階で梯子を外され、膨大な無駄働きという結果に終わるわけで、たまったものではない。
これでは横浜市に対するコミットメントも雲散霧消する。
IRを実現するためには首長や行政府のぶれない態度、相当の覚悟・確固たる政治的意思が当初から必要ということだ。

(美原 融)

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