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2021-08-25

119.IRにおける政治リスク ⑤住民請願と首長リコール

賭博行為の是非は如何なる国にあっても、住民による反対の対象になりやすい。
社会的不安や風紀・治安の乱れをもたらし、反社勢力の関与や犯罪の増加、未成年に対する悪影響、依存症の増大等国民の心に訴える感情的な反発に繋がりやすい側面があるからだ。
勿論これら弊害は何らの規制もなかった半世紀前の事象であって、しっかりとした規制下にある先進諸国ではこれら潜在的弊害の縮小化に成功している。
公営賭博や遊技等我が国には様々な賭博ないしは賭博類似行為が存在しており、状況は同じのはずだが、大きな問題が顕在化しているわけではない。
既に社会的認知が進んだ行為として、社会に溶け込んでいることになる。
一方、新しい賭博種の導入に関しては、激しい反対運動が起こる。
経験の無い事象は何をもたらすか解らないという漠とした不安感が国民の間にある場合、反対を感情的に煽ることが容易になる。
政策論として国民の感情に訴えることのできる事案は、政党選択に関係無く、賛同を集めることができ、野党にとり恰好の題材として政争の具にしやすいのだ。
自然発生的に市民運動が起こるということもありうるのだが、特定の政党や組織がバックにおり組織的に対応し、反対運動を盛り上げているというケースが多い。
全国どこでも反論の主張や論点は全く同じぺーパーが利用されている。
自治体による説明会やセミナー等にも組織的に参加し、同じ人間が同じ質問をしたり、ヤジを飛ばしたりすること等もざらにある。
是非を議論するわけではなく、反対することが目的化しているのだ。

行政府による政策や行動に対し、住民による反対が一定数の意見として結集できる場合、その意見を反映する方法は地方自治法で認められている。
勿論単純には実現できず、相当のエネルギーを必要とする。
このハードルは結構高いのだが、例えば下記等がある。

  • 首長解職請求、リコール(地方自治法第81条):
    政策の実践を担う行政トップの信任を問う手法である。
    有権者の一定数の著名を集めて首長の解職を要求する直接請求権で、これを実現するために住民投票を請求する。
    議会の解散を要求すること(76条)もできるが、ターゲットは一人である方が成功率は高くなるし、やりやすい。
  • 政策の是非を住民投票にかけることを求める請願(地方自治法第74条):
    一定の政策の是非・賛否を問うために住民投票を実施する条例制定を請求する行為になる。
    有効な請願数と確認されれば、市長は議会に条例案を提出することになり、議会の判断に付される。
    可決されれば住民投票が実施されるが、与党主流派が政策の推進主体である場合、否決されることもある。
    勿論住民の請願数が多い場合には、民意を尊重することで議会が動くことも多い。
  • 住民監査請求・住民訴訟(地方自治法第242条):
    公有地の貸付や行政府による委託費支出等の務会計上の違法若しくは不当な行為又は怠る事実があると認めるときは、住民が監査委員会に監査を求め、当該自治体の被った損害を補填する、あるいは行政杭を差し止めるために必要な措置を講ずべきことを請求する行為になる。
    認められない場合には住民訴訟という法的手続きを取る。

横浜市のケースは、上記全てが生じたという興味深いケースとなった。
勿論一部は既に失敗、継続中のものあるが、選挙の結果が出たため早晩収斂する。
興味深いのはかかる住民運動を支持する複数の市民団の動きは一体感がなくバラバラであったことだ。
またある程度の活動資金が無ければ活動できず、ボランテイアで長期に亘る運動継続を市民のみで担うことには当然限界がある。
野党の政治団体が直接的間接的にこれら市民運動を支援していることは当然だろう。
政権与党の政策に反対し、その実現を阻止するという意味では、共通的な利害があるからだ。
横浜市のケースは、これらすべての動きが市長選挙へと収斂し、これが功を奏したということであろう。
但し、候補は乱立し、票は割れ、感情的な議論以外の議論があったようにも思えない。
果たしてこれが本当に民意かどうかに関しては懸念が残る。

倫理観・道徳・感情に訴える手法は一定率の住民同意を得ることができる。
但し多数派となりにくいのは、現実と論理と倫理観との間にギャップがあるからで、どうしても説得力に欠けるからだ。
もっとも汚職等のスキャンダル、首長の政策姿勢への批判、あるいは政権与党施策に対する反発等情緒に訴えられる効果的なツールがあれば、どうなるかわからない。
感情に訴える手法は汚職・賄賂・政・官民の癒着等住民の反発を招きやすい事象の方が訴える力は強くなる傾向にある。
一般的に、住民の生活に密接にかかわる事案の場合は、住民の賛同を得やすい。
また巨額の税金を投入する案件や自治体が強く関与する大型施開発事業等に関しても反対が生じやすいという事情もある。

行政府に対し、市民が直接行動を起こす手段は、確かに民意を行政に伝えるには効果的な手法でもある。
但し、間接民主主義を取っている制度の下では例外的な手法でもあり、話題を提供する効果はあるが、実現のためのハードルはかなり高い。
政策を進める行政府にとり、かかる市民による直接行動は政策実現のためには乗り越えるべき課題になってしまう。
これを避けるためには、行政による丁寧な説明、疑問や懸念の払拭、デメリットは極小化でき、メリットがデメリットを上回ることの説明等をどう効果的に実践できるかにかかっている。
IRの場合、この時間をかけたプロセスが重要で、これを経ない限り、市民の反対運動は起こる可能性が高くなり、安定的、継続的なIRの実現を期すことはできなくなる。

(美原 融)

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