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2022-05-02

155.IR:議会による区域整備計画案否決

4月20日和歌山県の臨時県議会におけるIR区域整備計画案の審議は本会議で否決され、国への計画案提出が不可能となり、同県のIR推進は最後の段階で頓挫することなってしまった。
IR合意形成の難しさの一片を見せつける結果でもある。
あまりにも野心的な整備計画に必要な巨額の投融資金調達につき十分な説明ができず、目途がついていないことが明らかなこと、事業者の能力や信憑性に対する不信感が存在し、審議付託を受けた特別委員会議員の懸念を払拭できなかったことが原因だろう。
常識的にはこうならないようにしっかりと議会対策と根回しをし、委員会審議はシャンシャンで終わらせるのだが、前代未聞の事態が生じたことになる。
議員に説明ができず、不信感を抱かせたのは致命的となった。
県庁職員に問題があったとは思えないが、事業者が資金を拠出する主体の名前すら開示できない状況では何も詰まっていないという印象を与え、十分な説明責任を果たしきれなかったことは事実だ。
どこでボタンの掛け違いが生じたのであろうか。

IRの投資提案公募は国や都道府県等による一定の満たすべき要求水準等の要件はあるが基本的には民設民営事業でもあり、民間主体による自由なコンセプト、整備計画、事業計画、資金調達等により、整備され、運営されるべきものになる。
大規模な事業投資となるとコンセプト立案から事業構想・計画策定・資金調達等段階的に精緻化していくもので、自治体による選定や国による認定等大きなハードルが途中にある場合、その達成度に応じて内容が固まっていくという性格をもっている。
都道府県等もIRに関し、RFI, RFP等の段階的手順をとったが、都道府県等の意図に反し、民間事業者の提案はコンセプトに終始し、事業者として選ばれてから具体化を検討するというものでしかなかった。
ここに最初のボタンの掛け違いがある。
事業者の提案は完璧な実行可能な提案ではなく、県による審査も実現可能性や実行性を厳格に評価したわけではなかったのだ。
和歌山県の場合には、これに加え、最高得点を得た事業者が辞退し、この結果、競争環境が無くなり、残った1社を選定せざるを得なかったことも混乱に拍車をかけることになった。
選定されたクレアベストの提案は明らかに充分に練った内容とは言えず、落札後に追加的に運営者・出資者を募り、かつ当初公表された面子はその後変更されたという経緯もある。
これが為落札後すぐに締結するはずだった基本協定の締結に数か月も要している。
クレアベストはしっかりしたカナダ企業で27.5%を出資するが、残りの27.5%はクレアベストニームベンチャーズという別会社で、同社が開発や資金調達の主導者の様だが、これは本邦企業が所有する導管体で、ここに海外個人投資家等が投資組合を組成し出資する構図になっている。
要は誰が代表企業で案件を推進しているのか見えず、しっかりとした主体が事業リスクを支えるという構図ではない。
尚、少数株主かつ運営者として米国カジノ大手であるCaesars Entertainmentが5%出資するが、名目的な出資額に留まり、意欲的に出資し、事業を支える意図が無いことは明白だ。
残り40%を海外投資家、ファンド等9社の出資者を公表したのだが、殆どが外資でもあり、確約があるか否かは開示されず、中長期に事業を支える安定的な出資者といえるかに関しては懸念も残った。
70%の借り入れはCredit SuisseよりHCL(Highly confident letter)を入手したとのことだが、LOI(意向表明)やHCL等は確約とはいえない、営業上誰にでも出す類いの書類だ。
尚、国との確認や邦銀の参加に関し、県当局の説明が実態と異なることが発覚し、虚偽の答弁ではないかとして県議会は調査特別委員会(100条委員会)設置を可決する展開にもなっている。
これも提示された書類や内容をどう解釈して、説明したかという意見の差異で、単なるボタンの掛け違いだろう。
但し、クレアベストによる資金調達計画は全体から見ても不透明、説明不足、あるいは説明ができていないということには変わりはないし、昨年の12月以降の議会の度重なる要求にも拘わらず、何ら進展が無く、議員の不信と不安も増大したということだろう。

尚、和歌山県の区域整備計画は、施設整備計画やコンテンツ等は相当にもんだ後もあり、しっかりとしている。
但し、残念ながらこの巨額の投融資を一体誰が拠出できるのか、提案の実行可能性は本当にあるのかに関しては、十分な説明資料もなく、内容があまり詰まっていなかったことが現実だ。
少なくとも出資部分に関しては本来明確な確約が無ければならないし、融資部分に関しても、例え確約ではなくとも、もう少し説得力のある書類を出すべきであった。
もっとも本来しっかりとした事業計画の案件であるならば、出資者や金融機関を探すことに苦労するとも思えない。
絵はきれいだが、事業性は甘いと見られたことが資金調達に苦労した理由ではないのか。
うまくいっていない資金拠出の実態を開示せず、覆い隠せば、確実に信用されなくなる。
地域社会の合意形成はIRにとっては重要な前提だ。
市民や議会の構成員の理解や支援は必須の要件でもあり、議会の同意を得られない状況では、案件が実現することはありえない。
内容が不備でも何とかなるとした行政府の一方的な判断・評価のみで突っ走ったことが失敗の主原因ではないのか。
民の資金による巨大な再開発事業は行政府にとっては魅力的だ。
但し、きらびやかな事業提案も実現可能性が無ければ単なる絵に描いた餅でしかなくなる。
これを冷徹に評価・判断せず、まずは事業ありきとして案件の推進を押し通す場合、どこかの時点で問題が露呈してしまう。
民のリスク、民が担う巨額の投資事業の提案は知らず知らずのうちに、かかる問題を引き起こしかねない誘因を制度の中に抱えているといっていいのかもしれない。

(美原 融)

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