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2022-04-25

154.IR:本邦事業者の投資行動 ⑱出資者と出資金

巨額な投資事業において、案件を開発する主企業がその他の賛同する出資者を募る行動をとるのには、様々な理由がある。
最大の理由は、リスクの大きい巨大投資事業を単独で担うよりも、当該分野に経験や実績があり、しっかりとした財務基盤を持つ企業で協働して案件を開発し、実現するパートナーを見つけ、共同して事業を担う体制を取ることができれば、事業を実現する確実性の向上、リスクや負担の分散化・分担化、事業を担う当事者の信用力の強化等の明らかなメリットがあるからだ。
事業パートナーを見つけ、競争力を高め、リスクや負担を分散化することは巨大事業遂行の第一歩となる戦略的判断になる。
事業パートナーを特定化することはその他のメリットもある。
例えば、自社にはない能力・経験・資力を保持するパートナー企業を仲間に入れることにより、能力を補完し、競争性を増すことができる。
あるいは、政治的判断・政策的判断より、単独であるよりも地元有力企業等を仲間に入れることが案件推進に得策になることもある。
また投資主体が外資企業である場合には、制度や慣行に熟知した我が国企業をパートナーとして選ぶことにより、事業遂行がやりやすくなること、行政府や規制機関あるいは地域社会との良好な関係性を保持するために必須の要素になること等だ。

この様に、巨額の投資事業を推進し、実践する場合には、如何に有力な戦略的パートナーを見つけ出し、共同で事業を開発・推進していくかが有効な企業戦略になる。
もっともかかるパートナーシップは出資パートナーの数を増やせば増やす程、関係性は複雑になり、効率的な業務遂行にならないことが多い。
出資行為の企業目的や理念・手法は企業毎に異なり、必ずしも同じとはならない。
一緒に業務を遂行する場合、コンソーシアムとしての合意形成や意思決定、ガバナンスの在り方も、一定の手続きが必要で時間も費用もかかるという制約要因を抱えるからだ。
もしこれが外資と本邦企業との関係である場合、言葉や文化の相違からくる相互理解の難しさ等の要因も加わる。
かかるコンソーシアム企業群が確実に効果的に機能するのは有力企業数社程度である場合のみだろう。
これに対し、一つの企業コンソーシアムが4~5社の等分された株式比率等で構成される場合や代表企業の出資率が低かったり、実質的な親会社が単一ではなく複数の企業から構成されたりしている場合等は誰がリーダーシップを取るのかが解らなくなる。
こうなると確実に意思決定に時間がかかり、脆弱な企業体になりかねない。
複数の企業が共同して投資事業を開発し、推進する場合には、明確なリーダーシップを取る企業が重要な出資比率で参画し、当該企業が開発行為を強力に引っ張っていける能力と実力、それを支える株主支配力とガバナンスの仕組みがない限り、一定期間内に目的を達成することは難しいのが世の中の実態だ。
この点、本邦企業はかかるアプローチには慣れていない。
業務所掌とリスクを明確に細分化して、分担し、お互いが自らの所掌をバラバラに担い、SPCの残存リスクを極小化さえすれば案件は自動的に実現すると日本人は考えてしまう性向がある。
事実かかるコンソーシアム形成が我が国には多いのだが、こういう仕組みは外部環境の変化には弱いと共に、巨額、複雑、リスクの案件の場合には時間と費用をコントロールできなくなる可能性が高い。
日本的な予定調和的なアプローチは巨額な投資が必要となる案件には向いていないのだ。

戦略的な出資パートナーを募るという行為が最も重要な出資行為の側面なのだが、案件の枠組みが一定レベルに成熟するまで代表企業が全ての開発行為を支え、その後一定率の株式を少数株主に譲渡することで追加的出資を募るという戦略もある。
これは資金調達というよりも、実質的なDilution(資本の希薄化)で、事業を推進するガバナンスとリーダーシップは代表企業が引き続き保持しつつも、群小の少数株主を募り、代表企業のリスクと財政負担を軽減するために実行する。
例えば地域の地元企業や潜在的な物やサービスを提供しうる企業、工事請負企業等を対象として一定額の出資を要請する行為になる。
案件がうまく纏まりつつある段階(IRでいえば、都道府県等による事業者選定後になる)に至ると、勝ち馬に乗りたいとする企業の出資を効果的に募ることができる(関西空港のコンセッション事業に係る出資Dilutionはこれである。
大阪のIRも同じ事業者による同じ発想に基づく)。
日本の企業はこのような奉加帳的出資には結構慣れていて、詳細な検討無しに出資に賛同する企業は多い。
もっともこの手法での少額出資者を募る資金調達は全体投資額のせいぜい10%から20%程度が管理可能な範囲というべきで、これが40%以上となる場合は本末転倒で、最初から対象を特定できない少数株主を期待することが資金調達の前提になっていることを意味する。
これではうまくいくか否かは最後迄解らず、資金調達計画自体が不安定なることを示唆している。
少額出資者の数が増えると資金調達に時間がかかると共に、出資確約に至るまでは結構な時間が必要になる。
尚、一部都道府県等のIR案件で最後迄少数株主や出資者名を開示しなかった企業がいたのだが、出資総額が必要投資額を充足していないのだろう。
これは、上記のDilutionとは似ている様で全く異なる。
あるものを分散化し、譲渡する場合と足りないものを募る場合の差で、強気で少額出資を募る立場にあるか、弱気で少額出資者を募る立場の違いでもあろう)。
勝ち馬は強者だからこれに乗るのであって、弱者では誰もが心配になり乗りたがらないのだ。

尚、事業会社株式をIPO(Initial Public Offering)により不特定多数の一般株主に分散して、譲渡する資本調達もありうる。
もっともこれは事業が開始され、順調に推移している場合に既存株主のExitとしての手段として用いられることが多い。
大株主の株式の一定率を市場でプレミアムを付けて売却する行為になるが、株式を上場し、一般株主を増やすことは、事業体としての健全性と継続性・安定性を補強する行為になり、IR等の様に政治的に恣意的な判断を受けやすい業の場合、事業の安定性を強化できる一つの手法になる。

(美原 融)

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