National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-09-03

21.IRは三密の典型?

三密とはよくいったもので、コロナ対策として避けるべき代名詞となってしまった。
いうまでもなく、これは(換気の悪い)密閉空間、(人が沢山集まる)密集場所、(人が接近して会話や発声をする)密接場面の三つの「密」ということになり、これを避けるための施策としてStay Home(外へでるな、家にいろ)という活動自粛要請がなされたことになる。
感染症が市中にて横行している場合には有効な施策でもあろうが、これは人間社会のコミュニケーションを絶つことに等しく、長く続けられるものではない。
移動・交流・対話を否定することは、国にとってみれば鎖国主義、グローバリゼーションの否定になる。
組織や個人からみると、最低限の社会・経済活動、仕事自体の自粛、自宅への巣ごもりということを意味してしまう。
社会はヒトとヒトとの繋がりでできている。
移動・交流・対話を遮断すれば、人間社会の発展はありえない。

文化や芸術・スポーツを含めた娯楽・エンターテイメント等はヒトを密集させて、一定場所に集めさせ、興奮や楽しさを伴うサービスを提供するというビジネスモデルとなるため、人の集まりと交流を否定すれば、業自体が成立しなくなる。
無観客興行、顧客数限定興行等が試みられたが、ビジネスとしてはペイしない。
バーチャルはリアルを超える楽しさを提供できるとも思えない。
外国人観光客等最早不要、経済成長を外国人訪問客に依存するなどもってのほか、内需ファースト、国内の消費を活性化することに注力すべきという考え方も、一種の極論でしかない。
国を超える枠組みでの移動や交流を否定することは、現代社会の否定に繋がる。
グローバル化した社会を否定することは、進歩の否定でもあり、殻に閉じこもるだけでは、社会の発展も国の発展もありえなくなってしまう。

IRとは、ヒトを集め、交流させ、楽しませ、滞在させ、消費させるビジネスでもあり、三密の典型になる場になる。
IRを構成する施設であるMICE施設(展示場、会議場等)、劇場・アリーナ、ホテル等宿泊施設等は全て集客施設でもあり、一か所に大量の集客を実現するビジネスになる。
エンターテイメントとしてのカジノ自体も密閉空間・密集環境・密接場所で、時間を忘れさせ、遊びを提供する業であることは間違いない。
何も問題がない平和な時であるならば、何ら問題のない、賑わいと消費を呼び込む施設群でもあるのだが、感染症が横行している時点では、好ましくない施設、近寄るべきではない施設の典型ということになってしまう。
勢い、かかる環境にある場合、当然でてくるのがIR不要論となる。
こんなものはいらない、あっても無用の長物、なぜかかるコロナ禍にある最中に三密を実現しようとするのかという意見がでてくるのだが、これも短期的な視野に基づく感情的な見解に近い。
もっとも現下の状況では、IR推進など表で主張できにくい雰囲気があり、かかる環境がIR反対派を動かし、政治的反対意見を誘発する場を提供していることは間違いない。
国民の間の不安や不信感情が存在する場合、政治的にこれを利用するという考えは、残念ながら、政治の世界では常道になる。

三密を当面避けるということが現時点での正しい政策なのであろうが、三密自体が悪いわけでもなければ、これが無くなること等ありえない。
感染症が終息すれば、何もなかったように三密は許容され、確実に元に戻る。
現状の問題は、感染症の蔓延に終息の様相が無いこと、政府や都道府県等の努力にもかかわらず、対応のための政策が効果的なのか否か、国民の間に漠とした不安や疑心感があること、将来の方向性が全く見えにくいこと、かかる将来に対する不確実性が個人や組織に否定的な感触を与えていることにある。
こうなると、国民は当面の国の施策を注視はするが、将来、コロナ終息後の国の政策の在り方等目に入らなくなってしまう。
企業にとっても同様で、今を乗り越えることが先決であり、将来の事業計画や投資等、今後修正が必要となる戦略や施策は軸足が定まらなくなってしまう。

具体のIRの実現は今から5~6年後になるのであろうし、その頃にはコロナも確実に終息していることは間違いない。
市場は確実に回復するだろうから、民間はこの間のリスクを取ればいいだけの話、市場の将来展望、需要予測に対し確固たる信念が民間側にあれば、現状のコロナ禍等本来大きな問題ではないはずという意見もある。
但し、このままの現状が半年から1年間程度持続するとすれば、将来に向けての5~6年先の事業計画を、確信をもって今作成することは至難の業になる。
この意味では、民間事業者にとっても投資意思決定のタイミングとしては最悪の環境になる。
経済が成長軌道にあり、数年先がみ通せる段階にあれば、確信をもって事業計画を策定できる。
一方、市場の動向が見えない時点で将来のことを推定することは、あらゆる事業計画も砂上の楼閣ということになりかねないリスクを孕んでいる。
事業環境が不安定な中で、事業計画の策定・確実なコミットメントを要求する提案要請(RFP)を強行したとすれば、おそらく評価できにくい条件付の事業計画しかでてこないことになることが予想できる。
国も都道府県等も曖昧ながらこのリスクを認識しているのであろう。
だからこそ、予定を決めきれないでいる。
将来展望が描ける市場環境の好転迄推進の判断を待たざるを得ないとすれば、もうしばらく時間が必要だ。
既に当初の予定は8ケ月も遅れている。

(美原 融)

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