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2020-09-03

22.競争がもたらす情報非開示の動き

市場において異なる主体が競争しあうことは、競争当事者お互いがより良い提案をすることに切磋琢磨することを促す。
これにより、モノやサービスを調達しようとする主体は、より有利な条件やより良い提案を得ることができる。
健全な競争環境を維持し、これを前提に競争に付すことは、公共調達において説明責任を要求される公的主体にとっては、特に重要な前提になる。
もっとも、公正たるべき公共調達も場合によっては、歪むリスクもある。
通常の公共調達は一般競争入札で一定の要求仕様を満たす予定価格内の最低価格を提示した事業者が落札することになる。
企業にとり、競争に打ち勝つためには、他社より、より良い条件を提示すること、そのための努力をすることにある。
もっとも、競争相手の提示条件を何等かの手法で入手したり、開示されない予定価格の情報を入手したりすることができれば、競争を回避し、努力無しにより有利な条件で受注できる。
入札に参加する業者間の談合も、競争を回避し、確実に受注する効率的な手法になる。
勿論これらは我が国では非合法であり、本来認められるべき手法ではありえない。

都道府県等によるIRに係る事業者選定も公共調達の一類型になる。
勿論これは単純なモノやサービスの調達ではなく、特定の地点・場所を対象にした最適な事業提案を募る公募になる。
かつ、制度上満たすべき要件規定が存在すると共に、都道府県等が定める一定の固有の要件を満たす事業提案が求められる。
かかる公共調達の場合は、価格の多寡による競争ではなく、複数のパラメータを設定し、これを満たす提案の総合的な優位性を評価する総合評価方式が採用される。
かつ、公的主体にとり財政負担の多寡を競争の対象にすることが無いために、制度上は、一般競争入札ではなく公募プロポーザル方式による調達が前提になる(制度上は競争を前提とした随意契約の一種になる)。
この場合には、公的主体が要求する要件が公募上明記され、かつ価格ではない評価判断基準が予め公募の前提として明示される。
事業提案の場合、事業者毎に投資規模、設備内容、コンテンツは大きく異なることが想定されるため、その評価もかなり複雑なものになる。
この場合でも、競合する主体間で、競争相手の提案情報を把握することができれば、競争上有利になるため、市場において競争相手に係るあらゆる動向や情報をチェックし、これを上回る提案を考えるという行動を公募に参加する個別企業毎の提案内容が漏れることも、公表されることもないため、外部からは如何なる提案がなされるのかを推察することはできない。

一方、事業提案は都道府県等が定めるRFP(募集要項)の要件・要綱に基づき作成されることになるため、RFPの詳細条件を検証すれば、ある程度、提案の方向性や考え方を類推することは可能になる。
どこに重点が置かれ、評価されるのか、如何なる提案が評価されるのかという考え方に基づき、提案のコンセプトが構築されるからである。

ところが、IRの場合、このRFP(提案募集要項)自体も全ての詳細な公募条件や要件定義は情報開示の対象になりそうもない。
手続き要件や大きな事業要件、評価判断基準の枠組み等は当然公開されるが、事業の実施に係る実施協定(案)の詳細や、事業要件の技術的詳細等は一定の入札費用を支払い、秘密保持協定を締結した特定の応札者候補のみにしか開示しないとする都道県等が殆どのようである。
都道府県等も区域認定に際し、競争環境にあるからであり、如何なる詳細要件定義をしたが、実施協定案の内容をどう規定するかに関し、他の都道府県等や応札しない民間事業者に情報を盗まれたくないということなのだろう。
確かに都道府県等にとってみれば、準備や検討にアドバイザ―を雇用し、億単位の資金を使った以上、単純に無料で情報をコピーされたくないという事情がある。

上記の結果、都道府県等も民間事業者も自らが関与するIR開発・入札に係る進捗状況を殆ど開示しないという状況が生じている。
この結果、応札する意思を固め、一定の入札費用を支払った主体には全ての情報と条件が開示されるが、それ以外の主体には全く詳細が分からない事態が生じている。
例えば、都道府県等が策定する実施協定(案)の全文を見ない限り、都道府県等は如何なる要件、条件でIRの実現を企図しようとしているのかを理解することはできない。
また、如何なる内容の提案がなされ、これらが都道府県等によりどう評価され、特定の事業者が選定されるのかも解らない。
その後交渉により実施協定(案)自体の詳細も変わるのであろうが、これら全ての経緯と詳細は開示されない可能性が高い。
勿論事業者選定後は、議会への報告ないしは契約概要等を開示する必要があるのだが、これも概要のみとされる場合、全文詳細が開示される保証はない。

都道府県等が本来とるべき姿とは、よりオープンな形で、共通となる情報や考え方を開示し、これら情報をお互いに共有しつつ、競争対象となる区域整備計画に独自性と創意工夫を凝らすことにある。
もっとも、競争上の工夫できるマージン(考慮の余地・範囲)は制度上の制約があるため、左程大きくないのだが、都道府県等の間で共有できる情報や考え方を開示しながら、お互いが競争することが、社会的コストを縮減し、かつ個別の提案の質を高めることに繋がる。
情報開示が少なくなると、公平、公正な判断・手順が取られているかを検証することは極めて難しくなる。
この帰結はIRにとっては本来好ましくはない。

(美原 融)

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