2021-02-03
61.緊急事態宣言下のIR実施方針・公募(RFP)①
コロナ第三派は留まる所なく拡散しており、本年1月8日には主要都道府県等に対し緊急事態宣言が発せられた。
不要不急の外出は控えろ、夜の会食はダメ、できる限りリモート就労となったのだが、この非常事態宣言の前後にIR推進を目ざす都道府県等は実施方針を相次いで策定、公募手続きを正式に胎動させ、何とも早、極めて不都合なタイミングでIR推進の手順を一斉に初めてしまった。
もっともこれら都道府県等にとり大枠の予定は昨年来から決まっていたもので昨年末の国による実施方針閣議決定、議会への説明等を経て、本年初頭に実施方針策定公募という予定は予め組まれていたため、偶々緊急事態宣言下という全く好ましくないタイミングになってしまったということに尽きる。
但し、実質的に提案者を募る行動は認められていたため、本年1月末時点で、横浜市を除き、提案公募参加予定者は既に決まっている(大阪1社、和歌山2社、長崎5社)。
結果的に4都道府県が一列に並び、春から夏迄の期間に事業者選定をすることになった。
実施方針策定・公募開始に伴い、時計が回り始め、資格審査、提案提出、事業者選定という時間軸が動き出している。
但し、未だ緊急事態で2月中はこれが継続しそうだ。
旅行や移動は制限され、海外投資家は日本に来る手段もなければ、会議や面談・会食すらできにくい実態にある。
投資家の幹部がまだ現場にいったこともないという笑えない事情の企業もあるという。
かかる環境下で見積準備のためのチームを組み、様々な利害関係者と連携・協力して募集要項に答えうる提案を期日迄に作成・提出することは至難の業だ。
既に一ケ月無駄にし、このままいくと二か月間効率的な仕事ができない期間が生じてしまうからである。
勿論興味のある事業者は昨年来準備をしているのであろうし、企業同士の連携・協力の枠組みは本来本格的に胎動していてもおかしくはないのだが、巷から聞こえてくる情報はどうも競争の土体となる座組すら固まっていないケースが多いように思える。
本来ならば市場が一機に活性化し、様々な企業軍団が動き出すのだが、どうもそれが見えてこないというのが実態の様である。
これまでRFIやRFCの手順を踏んできた潜在的事業者はそれなりの準備はできているのであろうが、問題はこの数ケ月の間、しかもこの非常事態宣言の期間を含めて、どれだけ精緻で公的主体の条件や制度的な要件を満たす内容の提案を準備できるのかという点に尽きる。
外から見ていてわかりにくいのは、公開されている募集要項のみでは、事業者に何が要求されているのか理解できないことだ。
資格審査を経て、守秘義務契約を締結した後でないと詳細な所掌や、お互いの権利義務を規定する条件規定書、基本協定(案)、実施協定(案)は開示されないことが基本になっている。
最新の地質調査データがあるのかないのか解らないサイトもある模様で、資格審査後、ボーリング調査を始めた所で、すでに間に合うわけがない。
実務的には潜在的事業者に対し、非公式に守秘議協定を締結し、情報を開示しなければ間に合わないため、恐らく何等かの対応が取られ、必要な対話が実施されるのだろう。
もっともこの実態は外からは知ることができない。
かのカジノフロア3%上限基準もカジノ管理委員会が分子の定義をしていないため、これでは基本設計も進めない。
さすがにこれではまずいということで同委員会の規則案は2~3月中にはパブコメとなる模様だ。
上記は当面二つの課題をもたらすことになった。
① 今のスケジュールでうまくいくのか?
国が大枠のスケジュールを(基本方針で)定め、これに都道府県等が自らの事情を含めて詳細スケジュールを決めているのが実態である。
国のスケジュールは余裕がありそうで無い。
本来国が市場の状況が回復するまで予定を遅延せしめることが合理的なのだが、都道府県等の意向は一致していない。
早くやれという自治体もいれば、遅らせた方が適切と考えている自治体もいる。
民間事業者は期限通りやれというならば提出するが本来スケジュールは国が決めるべきこととし、まるで循環理論の様に誰も全体を見ず、うまくいくかどうかを考えず、前へ進めといっているだけだ。
政府は国、都道府県等と役割・所掌が二層に分かれ、かつ財政負担が無い構図となるため、市場実態を理解できず、当事者意識が希薄になっている。
合理的な期間に亘り、案件実現のスケジュールを遅延せしめることが、案件を成功裏に実現する確率を高めるのだが、とにかく早くやるという政治力学が働く場合、都道府県等や民間事業者にとり失敗・脱落の可能性が高まることを意味する。
② スケジュールを変えない場合、条件や要件を満たさない提案しかでてこないのではないか?
国が課す政令上の要件、都道府県等が課す条件のハードルはかなり高いが、一切変えていないし、変えられるわけもない。
市場参加者の投資意欲は冷え込んでおり、この状況で巨額の投資確約を求めても、条件付提案しかでてこない可能性が高い。
都道府県等の事業者選定基準を見ると、提案の概念的な評価基準が多く、提案の実行可能性、実現性、資金調達可能性、事業者の清廉潔癖性等がどう評価されるのかはよく分からない。
この評価判断基準が甘く、提案も曖昧である場合、都道府県等の要件をみたしていない提案が選択されうることを意味する。
とりあえず事業者を選定し、後刻都道府県等が時間をかけ選定事業者と区域整備計画を交渉により策定しようとしても、おそらくうまくいかない。
交渉のレバレッジは確実に民間事業者にあり、限られた時間内に、国が要求する要件に答えられる区域整備計画を策定できるとは到底考えられないからである。
勿論上記は、想定できるリスクにすぎず、実際にそうなるとは限らない。
但し、極めて危ない綱渡りであることに留意する必要がある。
(美原 融)