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2021-02-08

62.カジノ場入退場管理の在り方④反社入場対策

反社チェックは、取引先・社員・株主に反社勢力との関係を疑われる人物がいるか否かを取引前にチェックし、これらを排除するための企業活動になる。
現状あらゆる企業が遵守すべきコンプライアンスの一環として常識的に行われている慣行でもある。
この国の基本は前回述べた通り、国の指針に基づき、地方公共団体が定める防犯条例を規範とし、自助努力で反社勢力のデータを収集し、企業が自らの努力で反社勢力を排除するということにある。
ではどうこれを実践するのか。
分権化された警察機構の下では、地域社会における暴力団関係者や共生者、反社勢力の一次情報を把握できるのは都道府県警察になる。
この情報が常にアップデートされ、中央に吸い上げられる仕組み(暴力団関係者データーベース)が存在するはずである。
民間企業は都道府県警察経由、対象となる主体が反社勢力か否かを照会することはできるが、制約はあり、必ずしも自由にできるわけではない。
現実の反社データへの照会は、各都道府県警察のOBが主として組成した反社情報センター等に企業が会員登録し、ここから情報を得るという仕組みが一般的だ。
この反社情報センターは各都道府県単位に存在するが、これに加え、業界団体ごとの組織もある。
いずれも警察OBによる組織(NPO,社団、財団等)であり、原データの手渡しは直接民間企業とはやらず、公安・警察の仲間企業経由間接的という日本的な枠組みになる(日本証券業協会の反社情報照会システム、全銀協の反社データシステム等もかかる前提による)。
暴力団組織等制度上、その存在を制度上禁止すればいいのだが、憲法上の結社の自由により、これはできない。
そこで暴力団対策法により、特定の組織に一定の定義を与え、規制の対象にしているのが現実だ。
企業や社会として彼らと関係をもたない、追い出すための自己防衛を図るというのが防犯条例の目的になる。

さてIR整備法における暴力団排除の考え方を見ると、カジノ業は確かに日本では新たな産業だが、既存の業界団体と同様にやれば事足りるということが国の意図であることが透けて見える。
果たしてこれは可能なのだろうか。
カジノ施設の特徴は、基本的には誰もが入れる遊興施設であることにある。
勿論法律上一定の主体、特に暴力団構成員は入場禁止対象者となっており、この排除が事業者に義務づけられている。
一方、不特定多数の顧客が大量に押し寄せてくる施設ともなると、まず顧客が入場しようとする時点で入場者の適格性をチェックし、その妥当性を判断せざるを得なくなってくる。
利用約款で暴力団構成員の入場を拒否することは当然だが、これは後刻、訴訟等が生じた場合、事業者を保護するためのもので、これがあろうがなかろうが、入場したいと思う暴力団構成員はやってくるに違いなく、入場管理が甘ければ堂々と中に入ってしまうことになる。
この場合、入場時点で、MNCの個人情報をチェックすることにより本人確認をし、事業者が保持している不適格者・反社データーベースと照合し、不適格者でないことを瞬時に確認する必要がある。
事業者サイドにしっかりとした反社勢力のデーターベースがあり、これと入場しようとする顧客を全数チェック・照合すればいいだけの話なのだが、これがうまくいくかどうか微妙な側面もある模様だ。
これには下記背景がある。

  • 原データーベースの不備:
    公安・警察当局ないしはその関係団体が、しっかりとした暴力団関係者データーベースをもっていれば、事業者のシステムと連携させ、入場者の全数オンラインチェック・照会により瞬時に対象者を特定できる。
    但し、様々な事情によりこれはどうも難しいらしい。
    原データそのものの性格よりデータが整理されていない模様である。
  • 確実性の欠如:
    入手できる反社情報は氏名のみ、カタカナであることが多く、生体情報迄組織的に把握されているものではない模様だ。
    かつ、現場からの一次情報には誤謬も含まれ、確実性にもとる側面もあるという。
    情報自体が網羅的でなく、確実性に欠けるリスクがある。
  • 全数チェック不能:
    全数チェックをすればリスクは情報提供側に移るが、できないとすれば、事業者のリスクになる。
    照会の対象になる人物を事業者側が特定せざるを得ないからである。
    この場合、如何なる判断基準で実施するのか極めて悩ましい(入れ墨、怪しそうな雰囲気、人相等だけでは一般顧客と差別化できにくい)。
    民間ベースでの情報収集による緩いデーターベースをまず準備し、これにヒットした場合、照会をかけるにしても、民間のデーターベース自体が不十分・曖昧な場合、暴力団構成員を入場時点で特定化・排除できず、場内に入り堂々とカジノ行為に参加するかもしれない。
    勿論秩序を乱さない行為に留まる限り、事業者や他の顧客に取り、解らないだけなのだが、もし、後刻露見した場合、当該主体による法律違反行為でもあり、かつ事業者もこれを効果的に阻止する義務を怠った等という状況になってしまうかもしれない。
  • 即応性の欠如:
    公安警察当局ないしは反社情報センターから照会に対し、瞬時に回答が来ず、チェックに時間がかかるという事情がある場合、顧客の不適格性を検証できず、顧客の入場を認めざるを得ない状況にもなりうる。
    当初訪問時は仮に入場を認め、本人確認情報をもとにしっかりと時間をかけ、チェック・照会を実施し、二回目訪問時には入場しようとするレベルで確実に排除するということはできそうだが、これでは法の趣旨に違反する。

特定の主体の生体認証を含む個人情報さえあれば、技術的、システム的にはかかる主体を入場時点で排除することは100%可能だ。
これが難しいのは技術でもシステムでもなく、原情報とその取扱いの貧弱さにあるといえる。
時間の経過と経験・情報の蓄積により、問題は段階的に解決できるとする見方も取れるのだが、果たしてこれが適切な法の施行の在り方といえるのか、懸念が残る所だ。

(美原 融)

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