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2022-04-11

152:IRの民間事業者提案型誘致方式?

IR整備法第七条は、「設置運営事業等を行おうとする民間事業者は都道府県等に対し、実施方針を定めることを提案することができる」ことを規定する。
都道府県等に例え意思が無い場合でも、民間事業者が提案することで都道府県等を動かすことができるという規定になる。
もっとも民による単なる意欲の意思表示だけではダメで、「区域の位置及び規模、構成する施設の種類・機能及び規模並びに当該設置運営事業等の概要及びその実施により見込まれる経済的社会的効果に関する事項を記載した書類その他国土交通省令で定める書類を添付」する必要がある。
これは相当の検討と準備が無い限りできないハードルになる。
かつ都道府県等が必要無いと判断した場合には、その旨及び理由を通知し、一方的に拒否できる。
これが制度上の民間事業者提案型IRの法的根拠になる。
原則は都道府県等による発意と構想が制度の基本だが、民間事業者発意で都道府県等に提案するという仕組みをも例外として許容するという考えでもある。
類似的な考えは様々な別の法律にも存在し、わが国の行政行為としてはおかしな考えではない。
例えばPFI法の民間提案方式等も殆ど同じ仕組みになる。
この場合には公共施設等の発案を民間主体が地方自治体にできるが、自治体が策定すべき基本方針案と共にその経済的効果試算(VFM評価)等を提出せざるを得ない規定がある。
これは極めて高いハードルになり、実質的にはやるなと言っているようなもので、事実かかる民間提案制度ができてからかなりの時間がたつが、実現した民間発意案件は一件もない。
IRにおける民間事業者による実施方針案並びに経済的社会的効果試算も似たようなもので、かなりハードルが高い。
PFI事業の場合等は当該公共施設等の必要性、有用性、有効性、実行性、財政負担の有無等が検討の対象になるのだが、IRの場合には行政手続き上、都道府県等が市民や議会の合意形成も無きまま、民間提案を単純に受け入れることは考えられにくい。
対象となる土地に公有地が一部入る場合には賃借か譲渡か、価格設定はどうするか等の問題や、周辺道路、上下水等のインフラ整備、土地の利用に関する都市計画や様々な認可上の課題等も存在する。
都道府県等が主体になり、段階的に構想・計画を練りながら、民間とも対話やサウンデイングを重ね、時間をかけ課題を解決し、慎重に案件形成を図るというのが都道府県等にとってのIR開発の王道になる。

地元経済界やJC, JCI等の民間団体がIR誘致を都道府県等や地方議会に働きかけ、これら地域社会の大きな支援と推進への意思があることは確かに第一歩としては必要だ。
都道府県等がこれに呼応し、主体的に動き、準備を重ね、公募により民間事業者の提案を募り、国に申請するという行政手続きをIR整備法は想定している。
民間提案方式は制度的には定義されていても、都道府県等の事情や彼らが抱える行政手続きを考慮すれば、一方的に民間がIRの推進を提案しても対処しようがないだろう。
これはPFI法における民間提案方式と同じで、関係者の負担や投入資源に対する効果等を考慮せずに、単純に民間提案も入れておくという役人的発想にすぎず、制度として存在していても現実に使える手法とはいえない。
全く利用されない考えが法規定となっているのだが、わが国では特段おかしな話ではない。
実現できるか否かは関係なく、表向き民間事業者発案という規定があること自体に価値があるのだ。

ところが、区域整備計画提出期限迄あと1ケ月もない時点で、さる米国事業者が、民間事業者提案によるIR誘致として福岡市内東区の海の中道海浜公園を候補地とし、IR誘致の意思を宣言し、大々的なプレゼンテーションを行った。
公園の敷地の一部50Haを使い、総事業費4800億円、年間来訪者460万人、年間売り上げ2495億円のIRを民資金で整備・運営するというのだが、あまり練った事業計画とも思われない。
一部国の考えから逸脱するおかしな内容もある。
地政学的にも市場的にも、福岡市はIRの立地としては確かに大きな可能性を秘めているが、この事業者は日本の制度やIRの行政実務慣行をしっかり勉強した上で対応しているとも思えない。
背景としては、地元企業や関連基礎自治体、青年会議所、商工会議所、誘致団体等の支援と要請があり、これに呼応する形で福岡市にIRをと言い出したわけだ。
その旨の上申書を市長、議会等に提出済みとのことだが、当然の事ながら福岡市は準備も対応できる状況にあるわけがなく、直ちに検討していないとのコメントを出している。
4月末迄に福岡市が実施方針を定め、利害関係者と調整し、議会の同意を得る等物理的にできるわけがない。
申請を企図している長崎・和歌山は確実に認定に至らず、枠が余る。
そうなれば政府が余った枠を利用し、再度区域認定申請を募るという前提に立っているのかもしれない。
これを期待し、今から声を挙げているだけではないのかという意見もあるが、国は三つ認定する義務もなく、枠が余ったとしても単純にすぐ追加認定申請を募るという行動をとることはない。
そうだとすればこれはかなり乱暴な戦略になる。
現段階では確実にビジネスチャンスがあるとも思えず、もし・・・になればという仮定の下での話でしかないからだ。
ここに案件を具体化する戦略も真剣な熱意もあるとは思えない。

IRの推進とは都道府県等と民間事業者の意思と意欲がうまくかみ合い、初めて実現できる。
民間主体が先行して、地域や都道府県等を動かすという行動は機運醸成という意味では確かに価値があるのだが、やり方やタイミングを間違えたり、行政の意識と全くかみ合わなかったりする場合には、実現に資する手法にはならない。

(美原 融)

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