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2022-04-18

153.IR:日本企業の投資行動 ⑰SPCと案件開発費用

プロジェクトの開発には時間と金がかかる。
少額の事業プロジェクトや構造が単純でリスクが限定的な事業の場合には問題ないだろう。
一方これが巨大な投資額の複雑なリスクのプロジェクトになると単純ではなくなる。
案件実現迄にを開発することは、時間もかかると共に、開発に伴う費用も結構な金額になってしまう。
例えばFS作成費用、様々なコンサルタント(技術、ファイナンス)起用の費用、法務アドバイザー(弁護士)費用、施設計画デザイン等を先行して設計会社に支払う費用、専任職員の費用、出張その他関連必要費用等になる。
期間が3~4年になるとこれは億単位の巨額の総額になることは必至だ。
IRの開発は推進法が成立した2016年頃から本格化しており、当時から開発努力を続けている企業にとり既に6年以上に亘り開発努力を行っていることになる。
通常の企業の場合、洋の東西を問わず、かかる開発費用は一定期間毎に案件の進捗に応じて開発予算を見積もり、社内的許可を得て開発費用として段階的に支出する。
案件の確度が高まるとこの費用が加速度的に増加するのは、法務文書となる契約書案の作成作業やコンサルタント業務が増えることによる。
これら開発費用は、SPCができる迄は開発を担う提案企業が負担する。
会計的には、赤字企業でない限り、期間損益として期末毎に損金処理してしまう。
短期間に終わるプロジェクトであるならばたいしたことはないが、開発に数年以上かかる場合、コンサルタントや法律事務所、設計事務所等に支払う費用として巨額の開発費用が必要になってしまう。
複雑かつ実現に長い期間を必要とするプロジェクトの場合等には、その管理も社内許可も結構大変な業務になりかねない。

案件の実現がほぼ確定し、事業主体となるSPCを組成した場合には、全ての開発費用はSPCへの出融資の資金を原資とし、SPCが負担することが合理的になる。
SPCの費用として処理し、後刻損益通算に使えるからである。
勿論場合によっては親会社が継続的に費用を負担し、損益処理することも可能だが、投資事業会社が確実に儲かるならば、親会社が過度の負担をする必要は全くない。
できる限りSPCに負担させることが理に適っている。
外資企業が本邦にパイロット企業を組成しており、このパイロット企業が最終的にSPCの出資者となることが想定されている場合も状況は類似的になる。
この場合には開発費用を外資親会社が負担するのか、あるいはパイロット企業の出融資金でこれを賄うかという選択肢はある。

上記は単一企業が開発行為を担い、案件実現が確実になった場合、SPCを組成するというパターンになる。
1社だけなら問題は複雑化せず、単純だが、もしこれが複数の企業グループがコンソーシアムを組成し、案件実現が確実になった場合、これら企業が出資しあいSPCを組成し、このSPCが事業主体となる場合には話が違ってくる。
SPCの案件実現に必要な費用はSPCあるいはその出資者が出資比率に応じて負担することが常識的だからだ。
これは出資金と同様である。
但し、SPC自体が過少資本で組成され、自前で借り入れができない場合には出資親会社が出融資で開発費用を負担せざるを得なくなる。
勿論親貴社は、これら費用を出資の場合には配当、融資の場合には元利金として後刻回収できる。
最初から出資者が決まらず、案件がかなり進捗した段階で新たに出資参画者が生じる場合、過去先行した開発企業の開発費用をも出資比率で分担しあうという考えもある。
事業への参画が一種の利権である場合、先行開発費用の一部を分担しあうということはあながちおかしな話ではない。

もっとも代表企業が過半の株式を保持し、残りの出資者は少数株主である場合、SPCにも、少数株主にも負担をかけず、代表企業ができる限り単独で負担すればよいではないかという主張が少数株主には生じそうである。
日本企業同士のコンソーシアムの場合、通常各社が自らのリソースを出す分には、各社の負担として処理し、特段に開発費用の請求をしないという慣行がPFI事業等の場合には多いからだ。
例外もあるのは開発段階から設計会社を起用し、一定の費用を払わざるを得ない場合、あるいはSPCないしは事業全体のために外部コンサルタントや法務アドバイザーを(費用を負担し)起用せざるを得ない場合等、共通開発費がかなりの巨額になるケースになる。
この場合、代表企業が全てを担うというのはかなり負担が大きく、かつ、親会社レベルで損金処理し、SPC経由費用を回収できなくなってしまう。
やはり、SPC創設前株主比率毎に想定出資者間で分担しあう。
またSPC創設後はSPCへの出融資により費用を負担するという選択肢しかなくなってしまう(勿論この各々の場合、そのための約定が関係者間で必要となる)。

因みに我が国のIRの場合、SPC創設はどうやら区域認定後から実施協定締結前迄になされるのではないかと想定される。
SPCを創設しても、融資契約締結前迄の全ての開発費用はSPCへの出資金か(潜在的融資機関の承認を前提に)株主による短期ブリッジローンで対応せざるを得なくなるはずだ。
出資親企業は融資相当分は最初のドローダウンでこれを回収できる。
もっともこれは出融資プロラタのケースであって、出資金Firstの前提を取った場合、当面の全てのSPCの資金需要は全て出資金で賄うことになる。
立ち上がりの時点ではかなりの資金需要があるはずで、SPCのキャッシュフローマネージメントやEquity callはかなり忙しい業務になるのではないかと想定する。

(美原 融)

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