National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-11-20

44.IRカード?

2020年11月6日に公表された和歌山県の実施方針(案)‐修正版)に、「和歌山県が目指す施設整備の方向性」の記述(P25) があるが、その中にIRカードなる要件規定がある。
「和歌山県は、破産リスクやギャンブル依存症等、カジノ施設を利用したことにより受ける悪影響の可能性を防止するため、和歌山県独自のIRカードの導入を求める」という。
対象は日本人並びに外国人居住者(即ち外国人観光客は対象外)で入場の際にこれを求め、現金による入金機能及び上限額の設定機能を付与することとある。
当該IR施設の中でのみ利用が可能な(利用に応じてポイントが貯まる)一種の顧客ロイヤルテイ・カードをイメージし、これを依存症対策等に政策的に用いようとしているのであろうが、果たして適切な施策といえるのか、懸念がある。
国のカジノ管理委員会が想定する以上の規制を含んでおり、都道府県等の政策的意思がカジノ事業者の運営の在り方や顧客の行動を大きく変える可能性があるからである。

カードに「現金による入金機能」及び「上限額の設定機能」を付与するということは、専らこのカードを用いてカジノ内での遊興に使用せしめることを前提に、まずこのカードに予め顧客が現金を入金し、このカードを用いてカジノ内で遊興し、その結果顧客勝ち分がカードにクレジットされる(入金される)ことになる。
かつ「上限額の設定機能」とは、賭け金の上限を何らかの形で設定し、それ以上の金額は、当該施設訪問時あるいは一定期間(一日等)を単位として、利用できないようにするというものであろう。
顧客による過度の遊興を抑止するためには現金のアクセスと利用上限額を設定すればいいという発想であろうが、カジノ場内における事業者の運営・行動・規範を律するのは本来国の規制機関であるカジノ管理委員会の所掌・責任範囲であり、都道府県等が関与すべきことではない。
勿論カジノ管理委員会がこれを追認すれば問題はないのだが、考え方、手法を実務的にどうするかにより、事業者と顧客の行動も変わり、これら個別の要素につき、カジノ管理委員会固有の判断もありうることから、ことは和歌山県が考える程単純な話にはなりそうもない。
例えば下記問題等はどう処理するのであろうか。

  • カードの利用の在り方:
    通常のスロットマシーンは現金、TITOの如き金銭を代替しうる証票等を用いる。
    金銭が記録されたカードの読み取りは当然機械サイドで準備できるが、このカードのみしか使えない構造にする場合、そこでしか使えない機械になってしまう。
    テーブルの場合、カードを電子的に読み取り、賭け金をそこから支出し、チップに変えることをテーブルに電子読み取り装置を設けて、その場で引き出せるようにするのか、あるいはテーブルの横にカードからチップを引き出せる端末機械をおくのかということになる。
    場内のキャッシャーまで持っていき、チップに変える等すれば二度手間になってしまう。
    機械では勝ち分はカードに自動的にクレジット可能だが、テーブルではどうするのか。
    テーブル自体をすべて電子化し、電子チップを用い、全てカード経由ということならばカードに入出金が記録されるが、この場合、システム、テーブル、電子チップいずれも独自の仕組みを構築することが必要で、間違いなくカジノ管理委員会の認可が無ければ何も使えない。
    豪州のごとく、カードが自動的に使えるのはあくまでもスロットマシーンのみという考え方もありうる。
    テーブルでカードをアナログ的に用いるためには、デイーラーがカードから引き出し、かつ勝ちが確定し、退出する際に、チップをもっていかせず、その場でデイーラーが勝ち分をクレジットするというアナログ的手段になるのか。
    全部システム化しない限り、これではかなり煩雑になり、オペレーション的にリスクがある。
    尚、外国人はカード不要とし、外国人顧客が相当数存在するとすれば、この和歌山カード以外の手法、現金、クレジットカードで遊べる仕組みでなければ、外国人顧客にとっての利便性は著しく劣る。
  • 上限額設定の在り方:
    法は訪問回数制限、マイナンバーカードの提示、入場料の賦課等賭博行為の抑制手段を規定するが、顧客による遊興の上限金額設定は考え方次第では、顧客の行動を規制する最も効果的、かつ厳格な手段たりうる。
    もっとも「機能」だけつけるだけではダメで、上限設定は条例や規制等により「強制的」に決めるのか、あるいは顧客自身が「任意」に決めるのかによって、状況は全く異なる。
    諸外国の仕組みは任意であって、強制的に制度で取り決めた国はない。
    強制とする場合、誰の権限でどうやるのか、如何に法の執行ができるのかに関しては、単純ではなくなる。
    任意の場合、顧客が意図的に、入金額を無視して高い金額を設定すれば、全く上限規制の意味はなくなってしまう。
    最初に入場前ないしは入場時手で入金する金額はそれ自体が限度額であろうから、場内で追加入金できなければ、それ以上は遊べなくなる。
    もっともこれでは顧客は満足するわけがない。
    上限額対象は入金した額となるのであろうが、もし顧客が順調に勝ちを続けた場合、クレジットされる価格はどんどん大きくなり、この勝ち分の金額を使う限り上限もへったくれもなくなるということか。
    尚、もし全ての邦人顧客にIRカード、上限金額設定を義務づけるとした場合、おそらく日本人のVIP顧客を誘致することはできない。
    この考え方が事業性を損ね、事業者の意欲を喪失させることに繋がらないのか、大きな懸念がある(尚、大阪府・市によるIR実施方針(修正)4.2(1)dには「本人申告による賭け金総額の上限設定」等は個別協議等という記述があるが、上記で見たように任意である場合、殆ど効果はないと判断すべきであろう)。

顧客の行動を変えてしまう規制や要件の在り方は本来慎重に考慮すべきであって、単に依存症が心配だから、個人の消費額に上限を設ければいいという短略的な考えで規制を考えるべきではない。
かかる考え方が実務的にMake Senseするかは十分な検証が必要であろう。

(美原 融)

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