National Council on Gaming Legislation
コラム

2020-11-20

43.IR:暴力団構成員排除の在り方

IR整備法は「暴力団員又は暴力団員でなくなった日から起算して5年を経過しない者」はカジノ事業者の従事者から排除される(第41条第ニ項第ニ号イ8号)と共に、これら主体は入場禁止対象者として定義され、カジノ事業者に対し、カジノ場に入場させ、又は滞在させない義務を課している(第69条二項)。
またカジノ事業者に顧客の入退出時に本人確認を行い、入場禁止対象者に該当しないことの確認をする義務を課している(第70条一項)。
暴力団構成員等が賭場に入る等はブラックジョークになり、入場禁止対象になる事は当たり前の措置になる。
もっともこの当たり前の措置だが、対象者をどう具体的に把握し、かつ物理的に排除するかに関しては様々な実務的課題がある。

  • 対象者の個人情報を取得する手法:
    暴力団構成員の個人情報の把握と関連するデータ・ベースがなければ、本人確認もできなければ、排除もできない。
    公安・警察当局・カジノ管理委員会がこれらを提供する義務、あるいは協力する義務は一切IR整備法には規定されていない。
    カジノ事業者が自らの努力で情報を収集せざるを得ないが、わが国では個別業界毎に公安警察当局と連携した財団・公益社団等を経由した反社情報照会システム等が構築され、企業はここから情報を把握している。
    あるいは自治体・地方公安委員会レベルでも類似的組織がある。
    カジノ業においても、将来的には業界自体がかかる枠組みを構築し、暴力団構成員等の情報を取得できるようになるのであろうが、当面の対応をどうするか、効果的な仕組みを開業までにできるのかに関しては懸念もある。
    また如何に情報をデータ・ベースとして蓄積し、アップデートできるのか、事業者間でどう協力連携するのか、またこれはできるのか等は今後の課題になる。
    本来警察庁が保持するデータ・ベースとのオンライン接続での照会ができることが理想だが、これが可能となるかは、警察庁の体制・意向を含めて、未だ不明な点が多い。
  • 捕捉できる個人情報の内容:
    公安・警察当局が保持する暴力団構成員等に関する情報は、生体情報等はなく、氏名・写真等限られた情報でしかないはずである。
    これら情報は、基本的には地方公安委員会ベースで地域単位毎に収集されているはずで、これらが全国ベースで統一的に電子情報として整理され、かつアップデートされ、オンラインでリアルタイムにて照会ができる仕組みとなっているか否かは不明である。
    公安・警察当局から何らかの協力を得られるのか、得られるとした場合、どのような情報を、如何なる形でどのように取得できるのか次第で、これを活用し、本人確認をする手法もシステムもまた内部体制も全く異なってくる。
    全てを民間ベースでやることを強いられるとした場合、複数事業者がバラバラにやるよりも情報データを業界で共有した方が効率は良くなる。
    これもできるか否かの問題がまずある。
  • 入場時点での本人確認・禁止対象者を捕捉し、排除する手法:
    もし、公安・警察当局がデータべースを保持しており、情報遺漏の観点から第三者への情報開示に躊躇する場合、入場者全数照会をオンラインで実行すれば事足りる。
    但しこの場合は暴力団員を特定化する義務は事業者ではなく、警察庁になってしまい、もし情報提供に誤りがあった場合等は複雑な責任問題を生じかねない。
    かつシステム的に警察庁では対応できない可能性も高い。
    事業者が特定化し、排除する義務を負う場合、当然警察庁への照会程度の協力はできるだろうが、まず自らがチェックし、怪しい情報を照会するという形になる事が想定される。
    この場合、瞬時に入場時点でこの照会・回答を得ることはできず、一定の時間を要する可能性が高い(システム的に警察庁が対応できなければ、電子照会の意味がない)。
    データ・ベースが不備な場合、入場の可否はその場では確認できず、一端入場を認めざるを得ない状況が生じる可能性すらある。
    この場合、事業者は義務違反となるのかという問題が生じる。
  • 暴力団構成員ではないが、共生者等の捕捉と排除の手法:
    制度上の排除対象者は暴力団員になるが暴力団員と密接な関係を有する反社会的勢力あるいは暴力団員を支える,準構成員、共生者等は極めてグレーな存在で、法律上の禁止者とすることが難しいため、禁止対象者にはならない。
    一方事業者としては、グレーゾーンを合理的に見極め、反社と認定し、排除することが求められることになる。
    公安警察当局はグレーな情報を提供することはできず、事業者が自助努力でこれを収集・分析し、反社データ・ベースの強化・充実をせざるを得なくなる。
    金融業などでは業界と公安・警察当局間での連携や、業界内の情報共有により、このグレーゾーンを埋める努力がなされているはずである。
    カジノ業界内で、これが実現できるかは将来的な課題になる。

上記はカジノ事業者に暴力団構成員の排除義務を課しても、単純に法の執行はできにくい状況があることを示唆している。
この問題に関し、公安・警察当局とカジノ管理委員会との関係、これとカジノ事業者をどう関係づけるのかは現状明らかではなく、今後の課題になる。
銀行業界では、金融庁、警察庁、全国銀行協会との間で、間接的にオンラインで照会できるシステムの構築に進んでいるが、同様の試みが、カジノ業でもなされるべきかもしれない。

(美原 融)

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