2022-02-14
144.IR:日本企業の投資行動 ⑨勝ち馬に乗る出資
巨額の投資を必要とする事業への参画は、通常の企業の場合、単独でこれを担ったりすることには躊躇する。
自社の本領ではない新しい事業事業で、リスクも相当ありうると判断される場合には尚更だ。
もっとも確実に財政力もあり、頼れる主体がパートナーで彼らがマジョリテイ―の出資を担い、リーダーシップをとりかかる事業に参画しようとする場合には、かなりハードルは低くなる。
但し、当該事業が開発の初期段階で、かつ入札の準備中で競争環境にあり、これから事業者が選定される状況等の場合には、当該プロジェクトが本当に実現するか否か、また当該主体が選定されるか否かも不明となり、積極的な参画にはかなり躊躇する。
もっとも当該事業者が落札し、事業者として選定された場合には状況が異なってくる。
事業が確実に実現するという可能性が高まるからだ。
選定された事業者はこの立場を利用し、少額出資者を募り、自らの持ち株の一部あるいは出資の権利の一部を売却・譲渡し、担うべき責任を薄める(Diluteする)ことがある。
巨額な投資事業の場合には、投資リスクを分散することが、事業者にとっては合理的な判断でもあり、物を言わず、出資参画で配当のみを期待する寡黙な投資家(サイレント・インベスター)を募ることができれば、事業全体を自らがマネージしながら、リスクと負担を合理的、効果的に軽減することができる。
我が国ではかかる形でサイレントインベスターとしての立ち位置を取る企業が多い。
PFIである関西空港コンセッションは1兆円以上の国の債務を国のバランスシートから消すための仕組みでもあり、当初民間企業の注目を集めた。
但し、巨額の事業投資が必要で、リスクの割には事業性も必ずしも良くないとみられたため、入札に参加する事業者は殆どいなかった。
当初は関西企業が大同団結して参加するのではとも噂されたが、結局1グループしか応札せず、この事業グループ(日仏JV)が落札した。
ところがその後の紆余曲折もあり、関西主要企業群は、後刻この日仏JVに少数株主として出資参画する。
昔の三セクの事業投資を彷彿とさせるが、地域社会として一団となってこの事業を支援するという意思の表れかもしれないし、地域経済団体を主体にした奉加帳が回り、地域主要企業としては協調して投資せざるを得なかったのかもしれない。
参加する地域の企業にしてみれば、皆が参加するなら地域を支える企業として参加せざるを得ないということなのだろう。
皆で渡れば怖くないのだ。
一方金融危機の際、債務超過に陥いりつつあった超大企業を支援するために、経済団体主導で奉加帳出資要請が傘下の大企業になされ、かなりの数の大企業が第三者株式割当を引き受けたという事実がある。
ところが、1年もしない内にこの対象大企業は結局法的な倒産ということになった。
これでは出資した企業の側の出資行為の是非を問う形で株主代表訴訟がおきてもおかしくはないのだが、昔は問題にもされていない。
黙って協力・支援することが親方日の丸的な企業間の行動倫理であった時代なのだろう。
これは勿論勝ち馬への投資ではないのだが、出資行為の背景としては類似的な側面がある。
IRの場合も、類似的な勝ち馬に乗る出資行為が現実に生じてきている。
1社や2社ではなく、数十の地元企業群が出資行為に参画するわけだ。
個別の企業が個別に詳細なDue diligenceを実施し、個別の判断をしたのかどうかは不明である。
地域の主要企業として、地域社会にとり重要な事業を支援することに賛同し、出資判断をしたのかもしれない。
行政や国も絡む制度的枠組みの中での事業で、関連都道府県等が推進主体である場合、出資協力をすることで地域企業の立ち位置を明確にするということなのだろう。
これはIRを推進する都道府県等にとっても好ましい事象になる。
地域社会や地域社会の構成員が地域にとり重要な事業を支えているという構図はおかしな話ではないし、安定的な事業遂行に向けての強力な追い風になることは間違いないからである。
但し、この行為を単純な投資行為としてみた場合、一体何を目的に事業投資に参加するのか解り難い主体が多いことも事実だ。
明確に直接的・間接的なビジネスメリットがありうることを認識し、これを事業から将来確実に享受できるメリットがあるというのなら解る。
事業の趣旨に単純に賛同し、地域のサイレントインベスターとして参加し、支援するということも理解できないことはないが、具体的な企業にとってのメリットが何処にあるのか説明できない場合が多い。
この場合、市場性や事業性を詳細に精査し、理解した上での投資行為なのか懸念も残る。
経済的な評価ではなく、政策的な配慮に基づき、地域社会としての同調的な協調がより強い行動であった場合には、将来投資行為自体が歪む可能性があるからだ。
この様に、わが国企業には極めて日本的だが、地域単位で地域の主要企業が同調し、出資参画する事例が多い。
過去の失敗した第三セクター投資で等は自治体が主導し、地域の大手民間企業を核に様々な地域の企業群を同調させ、出資させた行為も多かった。
自治体が主導し、地域の代表的な企業が参加する場合、皆が奉加帳に名を連ねて、出資行為に至ることになる。
地域の企業として参加することが地域社会への貢献という理屈である場合、まず事業ありきの考え方になり、内容は精査しないことが実に多いのが実態でもある。
IRへの勝ち馬への投資も類似的な側面がある。
企業の行動として、大企業が推進する事業に同調し、少額出資することはおかしなことではないのだが、マイノリテイ―の投資家としてのしっかりとした立ち位置の意識無しに、流れに乗るだけであるならば賢い資金の使い方であるとも思えない。
出資行為を担うならば、投資のリターンをどう確保できるかというしっかりとしたDue diligenceを実行し、マイノリテイ―の株主としてのできること、できないことを把握した上で明確な意思をもって事業に参画すべきであろう。
(美原 融)