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2022-02-25

145.IR:日本企業の投資行動 ➉Leakage of Equity

大規模投資事業で当該施設の設計・建設を請け負う建設会社が当該事業に一部出資行為をすることがある。
この建設会社が出資の過半を担う開発者となる場合には、事業のオーナーと施設の設計・建設を請け負う主体が同一であることから問題は生じにくい。
全てのリスクと費用は自分のところに戻ってくるため、全体のリスクをどう管理するかを考えていればいいだけだ。
PFI事業等はこの典型的事例になる。
代表企業は建設会社になり、参加する企業は維持管理や関連するサービスの提供を担う企業であって、全員がSPC(事業会社)から役務提供・物品販売等のメリットを取ることが事業出資の目的でもあり、事業が生み出す配当を期待しているわけではない。
この場合、SPCとは単なる導管体にしかすぎず、リスクはとらず、契約で業務を担う出資者や協力企業にリスクを分散・分担するわけだ。
よって出資金は限りなく小さく、1%に近くなり、配当等は全く期待せず、役務提供から果実を得るということになる。
この場合、資本金は名目的なものでしかない。

もし主要デペロッパー・マジョリテイ―の出資者が建設会社ではない場合には事情はかなり異なってくる。
デベロッパーから見た場合、建設企業が出資行為に参加することは、全体の出資リスクを軽減することにはなる。
但し、請負工事金額が巨額で、これに比較すると出資金額が相対的に小さい場合には、出資行為自体はあまり価値をもたらさない。
建設会社は最初から請負金額に出資金相当額を上乗せした金額を提案し、工事期間中に進捗ベースで出資金相当額を回収できるため、事業に出資しているという意識は限りなく希薄になる。
マジョリテイ―を取る出資者があく迄配当志向の会社であったとすれば、初期投資が上乗せ分だけ高くなるため、当然事業リターンは低下してしまう。
この事業者に取り、出資リスクは減るが、リターンが犠牲になることになり、これをどう評価・判断するかは事業者の事情、株主の意図によっても異なる。
請負工事や何らかのサービス提供をも期待しない純粋の第三者投資家が他にいたとすれば、かかる仕組みには猛反発することになる。
単純にリターンが減るというマイナスのインパクトしかないからだ。

上記の様な問題は、事業者に対し何らかの役務を提供する主体が事業自体の株主になる場合、必ず株主間で生じる。
一方、事業者に融資する金融機関は株主とは異なる考え方を取る。
金融機関の関心は、①事業が、しっかりと健全なキャッシュフローを生み、将来に亘り元利金の返済が確実視されること、②事業者が資金拠出の確約や誓約事項をしっかりと遵守すること、また遵守できる能力・経験・資力があること、③事業者がリスクを管理でき、リスク事象が生じてもそのインパクトを極小化でき、事業の継続性と安定性を維持できること等にある。
金融機関にとり事業者が拠出する資金や負担するリスクエキスポ―ジャーの大きさは、事業者が確実に事業を担うというコンフォートにもなる。
リスクが大きければ大きい程、事業を成功裏に進めようとする強力なインセンテイブが事業者に働くことが期待できるからだ。
これがために金融機関はしっかりと資金を拠出し、事業支援するという確約を事業者とその株主に求めることになる。
勿論案件が少額の場合には、ここまでする必要はない。
親会社による債務返済保証を求めればいいだけの話だ。

ところがもし巨額案件となる事業の主要出資者が建設企業であり、出資者が事業者と巨額の請負工事契約をすることが前提となった場合は、上記は必ずしもうまく機能しない。
株主となる当該建設企業が出資相当額を請負工事金額に上乗せしてしまえば、建設期間中に出資金を回収してしまうことに等しくなり、当該建設企業による金融機関に対する出資確約はその分薄まってしまうからだ。
もし出資金相当額を回収してしまえば、事業をうまく管理し、必死になって事業を支えるという意欲やインセンテイブは消えてしまいかねない。
かつリスクバッファーが減り、キャッシュフローが減少しかねないということでもあろう。
かかる事象をLeakage of Equityという。
リスクマネーである出資金相当額が他の手法により事業からさや抜きされ、本来担うべき出資責任が薄まってしまうという意味になる。
勿論これは金融機関の考え方であって、通常の取引慣行として建設企業が出資者であること自体は否定されるべきものでは決してない。
これは建設業者のみの話ではなく、例えば総合商社等が事業に主要出資者として参画しつつ、請負工事契約の代表企業となる場合等も同じ構図になる。

もっとも建設業者からしてみれば、勘定は異なるし、税の取り扱いもことなり、様々な手法で企業としての利益の最大化を図るのは当たり前であって、とんでもないいいがかりということになるのかもしれない。
建設企業がリスクに見合う合理的な報酬を得ることは当然なのだが、上記のような事情がある場合には、金融機関は合理的な報酬レベルといえるか否か、出資分を上乗せしているか否か等を独立的な第三者エンジニアを関与させ、精査することがある。
また株主としての建設業者や事業者に対し、融資条件のハードルを高く設定することがある。
二兎を追う(請負工事契約がもたらす利益と事業の配当がもたらす利益)場合には、相応の責任や負担を負わざるを得ないこともありうるということだ。

(美原 融)

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