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2022-02-07

143.IR:本邦企業の投資行動 ⑧資本と負債の拠出順

投資事業の原資は資本(Equity)と負債(Debt)で構成されているが、どの程度の比率でこれら資金が事業に充当されることになるのか(資本負債比率)、ということと共に、どのようなタイミング・順序でこれら資金が事業に注入されるのかも極めて重要である。
銀行からの借り入れ資金の貸し出しの実行をDisbursementというが、金融機関はプロジェクトファイナンスの場合、当該事業に限定した資金実需要がなければ資金の貸し出し実行を基本的には認めない。
資金の使途がプロジェクト外の目的にあるとしたならば融資契約本来の目的から逸脱するからである。
出資金と融資金が必要な金額分につきどのような順序で事業に注入されるかは、事業者(出資者)と融資金融機関とのリスク分担事項になり、交渉の対象になる。

これには下記選択肢がある。

  • Equity First:出資金先行拠出方式
    まず出資金のみを資金需要に応じ、段階的に事業に注入する手法になる。
    融資金の貸付実行は所定の出資金を全額拠出した後で初めて行われる。
    リスクマネーとなる資本金を全額まず拠出させる考えで、出資者はそれだけ大きなリスクを支えることになり、金融機関にとり、より有利なリスク分担になる。
    もし出資比率が高く、出資金総額が高額になる場合には、建設工事金額の過半は、出資金のみで補填するという構図になる。
    融資金融機関は、出資者が確実に、資本金を全額拠出した後に初めて資金貸し出しを実行することになり、完工の確実性を高めることができる。
    出資者は資本金を先行して拠出することになるため、確実に案件を実現し、資本コストを回収するという強力なモチベーションが働くからである。
  • Equity Last:融資金先行拠出方式
    まず融資金のみで必要資金を段階的に事業に注入し、融資金をすべて貸付実行した後で、資本金を拠出する手法である。
    出資者にとっては有利だが、銀行にとっては極めて不利な資金拠出の在り方になる。
    完工に至る迄のリスクは実質的に銀行団が抱えざるを得ず、かつ、出資者による資金拠出確約が履行される前に貸し出しを実行することになってしまう。
    出資者の資金が後出しとなる場合、出資者にとり約定義務を確実に履行しようとするモチベーションはどうしても弱くなる。
    この場合、出資者は楽だが、逆に金融機関のみにリスクと事務負担がかかる。
  • Debt/Equity Pro rata:プロラタ拠出方式
    出資金と融資金を予め定められた負債・出資比率(プロラタ)で資金需要に応じ、同時的に事業に注入する手法になる。
    上記二つの中間的な折衷案とでもいうべき考え方だ。
    資金需要に応じ、例えば毎月、出資金と融資金が定められた負債・資本比率に基づき、同じ日に拠出する。
    仕組みとしては公平だが、毎月資金需要を予測し、出資者にはEquity callを、銀行団には貸し出し要請を行い、同じ日に確実に全額振り込まれることを確認することになり、SPCにとりかなり煩雑、かつ失敗は許されない実務を抱えることになる。

事業の実現と実践を支える資金源は出資金(Equity)と融資金(Debt)しかないわけで、どういう比率で、どういう順序・タイミングで出資者と銀行団が資金を事業に注入するかは、融資の条件交渉の際、双方が交渉し、取り決める。
出資者にとりこれが特に重要なのは、上記の内、何がどう採用されるか次第で出資者にとってのリターンは変わるからだ。
いうまでもなく、出資者にとりできる限り遅い時点で資本金を拠出することが、資本の効率を上げ、リターンを向上させることになる。
よってEquity Last の場合、リターンが最大化し、Equity Firstとなるとリターンは一番小さい。
Debt/Equity Pro rataはその中間ということになる。
一般論として、交渉のレバレッジが銀行団にある場合(例えばかなり高いリスクプロファイル、実績の無い案件、様々な不安定要素を抱える案件等)には、Equity Firstで銀行団に押し切られる。
Equity Lastは理論的にはあるのだが、実際は実現することはまずない。
出資者・民間事業者がある程度の交渉力、レバレッジを効かせるポジションにある場合(例えば、かなり良好なキャッシュフロー、リスクはあるがその発生が抑止されている、堅固な案件のストラクチャー、財務力のあるしっかりとしたスポンサーの存在等)には、Debt/Equity Pro Rataでお互いが痛み分けという事例が実際には多い。

我が国の箱モノ割賦PFIプロジェクトファイナンスでは、リスクのある案件ではないのに,最初からEquity Firstが慣行として根付いている。
もっとも出資金は総事業費の1%と殆ど無しに近く、出資者も配当を期待したり、リターンを向上させたりするという動機が無い以上、当たり前かもしれない。
IR事業の場合には、出資金額自体が巨額になり、リターンを向上させることが出資者の行動規範となるため、こうはならない。
事業リスクも高いと判断され、金融機関の融資姿勢もどうしても保守的なポジションをとってしまう性向がある。
公開の場で聞き及んだ金融機関の弁としては出資金は総事業費の最低50%、Equity Firstが当たり前の前提になる模様だ。
貸付実行の先行条件として、出資金の全額拠出が融資契約の規定となるのだろう。
即ちこれは銀行団の方が、交渉力が強いことを示唆する。
巨額の出資金となる故、何と銀行団の融資実行は明らかに建設が半分以上進んだ段階以降ということになりかねない。
これは、金融機関はIRの完工リスクは取らない、取りたくないということを示唆している。
Dealとしてはおかしくないのだが、バランスのとれたリスク分担といえるかどうかに関しては懸念が残る。

(美原 融)

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