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2022-01-31

142.IR:本邦企業の投資行動 ⑦D/E比率 2)

投資家が事業投資を行う際、通常取る行動は自分の拠出金を縮小化し、他人の金(Other people’s money)をできる限り取り込み、レバレッジを上げ、効率的な資金運用をすることに尽きる。
こういう知恵に関しては、米国人は昔から天才的だ。
親会社の財務力をベースにした銀行借り入れ等せずに、事業毎に自律的な資金調達を目指し、出資額を極力抑え、他人の資金をどう効率的に注入するかという工夫でもある。
勿論これが実現できるためには、しっかりとした商品ないしはサービスに関する市場予測、これに基づく事業計画があり、安定的な将来キャッシュフローが見込めると合理的に判断できることが必須の要素になる。
様々なリスク要素を孕む案件や、将来キャッシュフローを棄損しかねない要素を含む案件、新しい市場やその市場で実績の無い事業となると、とたんに誰も興味が薄くなり、資金拠出や融資には躊躇してしまうのが市場の実態だ。
リスクが管理可能で、潤沢なキャッシュフローが想定できれば資金調達は簡単で、限りなくレバレッジの効いた資金調達が可能になる。
一方逆の場合、声の大きな掛け声だけでは中々資金は集まらないものだ。
これが資金調達の難しさになる。

資金調達を考慮する場合、100%自己資金で、100%の出資金を前提とすれば、全て自分の金、自分のリスクなのだから資金調達もへったくれもない。
もっとも4000億円から1兆円レベルのフリーキャッシュフローを保持し、個別の案件に手元資金を導入できる企業等は中々存在しない。
1つの事業投資に会社の存続を賭ける程のめりこむ企業等そんなにいるわけはないからだ。
常識的な性向は、資本金はできる限り少なくし、融資金をできる限り大きくとるように銀行と交渉するアプローチになる。
かつ出資者に借入金返済遡及が来ない資金調達が好ましいことは当たり前になる。
もっとも資金を貸す方は逆のことを考える。
リスクやキャッシュフローが毀損する要因を抱え込む案件は、できる限り出資者による出資金を大きくさせ、融資金は少なくさせる。
かつ、将来問題が生じる場合には出資者に責任を遡及できる仕組みであることが好ましいということになる。
この様に出資金と負債をどういう拠出割合で取り決めるかは、出資者と融資金拠出者(金融機関等)の間での重要なリスク分担の取り決めになる。
お互いにリスクと責任をどちらかが担う迄押し付けあうのだ。
出資金が少なく、出資者のリスクと責任が限定されれば、されるほど真面目に事業に努力するインセンテイブは当初から無くなるし、逃げるかもしれないと融資金拠出者は考える。
逆に出資金が融資金を超え、大きければ大きい程、出資者は出資金を棄損させずに如何に投資コストを早く回収するかに全力を尽くすことになる。
出資者が投資コストの回収に傾注するということは、それだけ融資金の確実な返済を期すことに繋がる。
投資コストの回収は融資金の回収より劣後するからだ。

どういう割合で出資金と融資金を拠出しあうかは、金額と共に出資者と融資金拠出者が当初の探り合い・交渉の中で大枠を合意し、その後詳細な条件を交渉するという手順になる。
キャッシュフローが安定的でリスク管理が堅固な案件ならば、出資者の意思として出資比率を30%位に留め、70%を融資金にするという交渉は不可能ではない。
この割合が50/50になる場合は、融資金拠出主体にかなり押し込められ、出資者としても応分のリスクと責任を取れという融資金拠出主体の意思とみるべきだろう。
IRの場合にはかなり早い段階から潜在的融資金融機関は50/50を示唆していたという経緯が存在した。
蓋を開けてみると、残った3ケ所の案件、あるいは脱退した案件の事業者グループの案件を見ても、全て50/50を前提に話が進められていたことを理解できる。
どのメガ銀行もバラバラに行動したのだろうが、各々が保守的なスタンスを取り、潜在的事業者に交渉のスターテイング・ポイントとして50/50を示唆し、ここから一歩も引かなかったということになる。
強気で融資金融機関を押し切り、少しでも譲歩を獲得しようとしたデベロッパーはいなかったと共に、市場環境も出資者にとり甘いものでは無いという結果だろう。
この点、日本の金融機関の類似的な横並び融資姿勢が垣間見れて極めて興味深い。
結果的に右に倣えで、市場において業界標準的な考えとして構成されることになってしまった。
間接金融市場ではなく、直接金融市場に資金源を求める発想に変え、Private Equityを動員する、保証付債券、保証無し債券を発行し、スポンサー劣後融資を含め、出資者が全面的にリスクを担いつつ、野心的な資金調達を図るという事業者は、わが国には現れなかったということか。
この場合、建設と事業開始迄の必要資金をかかる資金源から調達し、完工後、キャッシュフローが見えてきてから、間接金融市場にて融資金融機関によるタームローンに借り換えるわけだ。
当初の資金調達費用はかなり高いが、借り換えのタームローンはかなり安くなるように交渉できる。
もっともかかるAggressiveな資金調達は案件に確実な事業性、潤沢なキャッシュフロー、リスクを管理できる堅固な仕組みがあり、かつこれを実行できる財政資質のある企業、制度的・市場的環境があり始めて可能になる。
我が国のIRは様々な理由により、これが実現できない状況にあることの方が問題なのかもしれない。

(美原 融)

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