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2022-03-07

147.IR:日本企業の投資行動 ⑫銀行による融資確約

観光庁による「特定複合観光施設区域整備計画に係る認定申請の手引き」によれば、要求水準4項に記載されている「IR施設を設置するために必要となる資金を調達する見込みが明らかにされるなど、IR施設を確実に設置できる根拠について妥当性が認められるもの」の提出が要求されている。
必要とされる「資金調達の確実性を裏付ける客観的な資料についてはコミットメントレター等の書類を提出すること」(手引き)とある。
金融機関から融資を確約する書面を取り付けろということだ。
整備計画案を提出する際には、事業計画案を確定し、しっかりとした資金計画と共に、その裏付けになる融資銀行による融資確約を提出しろというかなりハードルの高い要求になる。
かなり高いハードルというのは、金融機関は単純には融資を確約してくれないからだ。
大企業で資力もある出資者が債務返済を保証する前提の融資ならば、融資確約はすぐ得られるだろう。
この場合、金融機関は事業ではなく、当該出資者への融資とみなし、出資者の事業実績や経験、資力、B/S等を見て融資判断をするからである。
出資者が債務の返済保証をしない、あるいは出資者の支援が限定的となるプロジェクトファイナンスとなると、こうはいかなくなる。
金融機関は具体の案件の枠組みや、そもそもの事業性、キャッシュフロー、債務返済の障害になるリスク等全てを精査し、納得しなければ融資の確約等してくれないからである。
これは案件の開発段階でまだ事業の枠組みが確定していない段階では、融資の確約を得ることは難しいことを示唆している。
金融機関の立場からすれば、借入を早めにコミットメントしてくれという事業者の要請や意欲は解かるが、精査する対象の枠組みがしっかり固まっていない場合には巨額の融資を確約しろということ自体が無理筋の話だ。
案件の戦略性、当該出資者との関係の政策的な重要性等の他の判断基準はありうるだろうが、債務返済の確実性の精査なくして、金融機関がコミットするということはありえない。
勿論上述したように、出資親会社が事業の全てのリスクを担い、金融機関に債務返済連帯保証を入れれば、確約は得られる。
但し、これはまともな事業会社が取るべき戦略ではないだろう。
一つの事業に傾注するには、あまりにもエキスポ―ジャーが大きすぎるのだ。

通常企業が金融機関にアプローチし、秘密保持協定後、ある程度の事業情報を開示した段階で金融機関が提示できる書面を関心意向表明(Letter of Interest)という。
第三者に対し、条件が整えば、融資する意向があるという関心の表明になる。
国や自治体のPFI案件では、応札段階ではこの意向関心表明を添付することが常識となっている。
勿論これは融資をするという確約ではありえず、単に融資を検討する用意があるといっているだけにすぎない。
これはすぐ提出してくれるだろうが、その価値は限りなく低い。
金融機関は競合する複数の事業者に同一の意向表明を出すことすらある。
一方、案件検討の熟度が高まり、金融機関が基本的な枠組みを精査できる段階になり、これを検討した段階で金融機関が提示してくるのがタームシート(term sheet)になる。
融資条件概略提案書の如きものだ。
どういう基本的な条件(ターム)で融資がなされるのかの提案になり、これをもとに事業者と金融機関が交渉し、詳細な融資条件や担保条件等を取り決め、融資契約に落とし込んでいくことになる。
勿論これはFinalではないが、何回も金融機関とやりとりしていると、Near Finalに近いタームシートが出来上がり、限りなく確約に近い形のものに仕上げることも交渉次第だが不可能ではない。
但し、何をもって確約と判断できるのかという評価は正直いって難しい。
通常如何なる場合でも金融機関はSubject to clauseという条件を附し、後刻何時でも、ちゃぶ台をひっくり返すことができる文言を入れる。
例えばSubject to satisfactory documentation等という文言が通常記載されるのだが、これを根拠に後刻あらゆる条件を変更することは往々にして生じている。
要は何でもありになり、これでは確約とは言い難くなる。
但し、これも通常の商慣行にすぎず、これをどう評価するかは個別の案件の事情、具体の内容にもよる。

IRの場合には、都道府県等は入札に際し、国の条件をそのまま都道府県等の条件として同じ文言を用いた。
即ち資金調達の確実性を保証する金融機関の確約の提出である。
ところが、これを遵守できた応札者等全国何処を見ても皆無となった。
事業者の提案公募(RFP)への提案は結果的にコンセプト提案でしかすぎず、施設提案はしっかりしているが、資金調達や案件の実現性等に関しては曖昧な提案しかできなかったということが実態だろう。
その施設提案も、事業者全てがパースや計画案を、選定後数度に亘り変えてしまったため、一体何を審査・評価したのか解らなくなったという経緯がある。
この結果、最後の最後迄金融機関の「確約」を取得できるか先行きが不透明な事業者も存在する。
もっともこの場合は、融資であれ、出資であれ、出資代表企業が金融機関に保証を入れるか、欠け目を補填する確約を入れるのだろう。
融資金融機関の「確約」は極めて重要な評価・判断要素になる。
これに条件が附されている場合、あるいは内容が曖昧な場合、国はこれをどう審査し、評価するのか、あるいは評価できるのか、全く評価もしないのかは興味ある所だ。
「確約」とは言えないまでも、合理的に想定できうるとして、問題無いと処理するのであろうか。
尚、例え国が認定し、実施協定が締結されても、融資契約締結はその後になると共に、融資契約の発効には様々な融資先行条件(Conditions precedents)が附されることになる。
もしこれの一つでも実現できない場合には、その段階で融資契約そのものがアウト、実現できないことになってしまう。
都道府県等や国の基準をパスしても、金融機関はより高いスタンダード(Higher standards)で事業者提案の実効性をチェックする。
制度よりも、実務の世界の方がシビアに現実を評価するということだ。

(美原 融)

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